「親日」動画に熱中する韓国中高年|上田勇実 1カ月間のYouTube視聴時間が101億分!なぜ50代・60代の韓国中高年が、文在寅政権を手厳しく批判する保守系論客たちの動画にはまっているのか? 日本に代わって“真実”を代弁する動画の内容とは一体? 知られざる隣国のYouTube事情。

YouTube視聴時間が101億分

50代・60代を中心とする韓国中高年が、反日路線に熱を上げる文在寅政権を手厳しく批判する保守系論客たちの動画にはまっている。

動画の多くは、動画共有サービスYouTubeに開設されたチャンネルに毎日のようにアップされるもので、元徴用工訴訟や対韓輸出規制など日韓の懸案について「韓国の非」をズバリ指摘しているものばかりだ。

そこからは、国益無視の行き過ぎた反日を続ける文政権に疑問や不満を抱く中高年たちが、動画視聴で「わが意を得たり」と鬱うつ憤ぷんを晴らす実態が浮かび上がってくる。

韓国でもYouTube視聴は長く10代・20代を中心とする若者たちの独壇場で、K–POPをはじめとする音楽や映画、お笑いなどの娯楽系が人気を集めてきた。ところが文政権発足後、異変が起きた。中高年層の視聴者が急増し始めたのだ。

関連データによると、2019年4月の1カ月間にYouTubeを視聴した世代別時間数は、50代以上が前年同期比で約2倍の101億分に達し、10代の89億分を上回った。動画コンテンツは演歌などの音楽や健康維持のお薦め運動法、レシピ伝授講座など多岐に及ぶが、特に視聴時間を押し上げているのが時事問題動画だという。

中高年がはまっている動画とは、いったいどんなものなのか。YouTube分析専門会社が分類した「政治・社会・経済」部門に韓国人が開設したチャンネルのうち、登録者数基準のトップ10入り常連組からいくつか紹介しよう。

日本こそ韓国にとって最大の協力国である

YouTubeのチャンネル「ペン・アンド・マイク鄭圭載TV」に出演する鄭圭載氏(2019年8月6日)

まず、保守系日刊紙・韓国経済新聞の元主筆、鄭奎載【チョンギュジェ】氏が立ち上げたチャ
ンネル「ペン・アンド・マイク鄭奎載TV」。

日本が韓国に対する輸出優遇措置を通常基準に戻したいわゆる「ホワイト国」からの除外を閣議決定したことを受け、文在寅大統領が臨時閣議で声明文を読み上げたことについて、メーン解説者を務める鄭氏はこう指摘した。

「あれを見て私は非常に驚いた。あの檄文は学生運動をやっている者たちが書く水準だ。日本のことを『盗人猛々しい』と批判したが、それが最近起こっている一連の出来事を指すなら、先に挑発したのが文政権であるのは明白なのだから全く当てはまらない。日本は少なくとも3回は、韓国に元徴用工判決を受けたその後の動きについて外交協議を要請したが、それに一切応じなかったのは韓国のほうではないか」

「文大統領は、ひょっとすると安倍首相を植民地統治の総督と錯覚しているのではないか。だから一所懸命に戦っている自分は正しいのだと言って、そこに道徳的価値を付与しているようだ。安倍首相が総督だって? 時代も場所も状況も完全に錯覚している。韓国の国民も同じように錯覚している。韓国人はよく分かっていない。元徴用工判決や慰安婦問題などについて私がちょっと話してあげると、皆『そうだったのか。知らなかった』と驚く」

「文大統領は檄文でウソもついた。日本を一番近い友好国と考えてきたと言ったが、もし本当に友好国と考えたら元徴用工訴訟の審理を保留にした自国の大法院長(最高裁長官)を起訴したりするか。慰安婦合意に基づいた財団を解散させるか。こういうことは起こりえないはず。日本と戦いたいならまずは正直に、真摯な姿勢で臨めと言いたい」

「逆説的に言えば、日本こそ韓国にとって最大の協力国であることが今回の出来事で表面化したと言える。ちょっとでも関係が悪化すると問題が深刻になるほど、両国の経済関係
は非常に密接だということだ」

ズバズバと韓国の、特に文政権の問題点を指摘していて小気味いい。

「このチャンネルには真実がいっぱい詰まっている」と視聴者からエールが

鄭氏は別の投稿動画で「各論」についても詳しく語っている。現在の日韓関係悪化の引き金となった2018年10月の大法院による元徴用工訴訟判決をめぐり、日本側が「同問題は解決済み」と反論する根拠としている1965年の日韓請求権協定について、韓国側主張のおかしさを「この協定のどこを読んでも両国の個人請求権は解決されている。それなのに、文大統領は個人の請求権は協定に含まれ
ないと強弁している」と語った。

鄭氏は、大法院判決までのプロセスにも疑問を投げ掛けている。大法院は2012年、日本企業は賠償すべきとの判断を下し、それを受けた差し戻し審への再上告を受け、再び審理を行わなければならなかったが、朴槿惠大統領(当時)が日韓関係への悪影響を懸念し、審理がストップしていた。当時の梁承泰(ヤンスンテ)大法院長がそうした政権の判断を尊重したためだ。鄭氏はこう指摘する。

「他国との条約や協定は法律と同じであるため、それがどういう趣旨で作られたのかを尊重したうえで判決を下さなければならない、という司法の原則がある。また、協定を覆すにはそれが違憲であるか、到底従えない事情が発生したことを司法が証明しなければならない。しかも、その証明を韓国の司法がやろうとしても越権行為だからできない。
それなのに朴大統領の懸念に応じて、梁大法院長が審理を保留したことを『司法壟断』 『司法積弊』などと罵倒しているし、(7年前に大法院が賠償命令の判断を下した際に判決文を書いた)判事は『建国するつもりで書いた』と言ったという。どうかしているのでないか」

こうした忌憚なき日本理解論に、視聴者からは「このチャンネルには真実がいっぱい詰まっている」 「いまの韓日葛藤を見ていると結局、梁大法院長の審理保留の判断は正しかった!」といったエールの書き込みが多数寄せられている。いわゆる従軍慰安婦問題では、被害者として名乗り出てきた人たちのうち一部の素性に疑問の目も向けられてきたが、鄭氏は元徴用工訴訟の原告たちにも同様の問題が存在すると言う。

「2018年10月の大法院判決で賠償金支払いを勝ち取った原告4人のうち1人は徴用工ではなく、日本にある米兵捕虜収容所の監視要員だった。戦後補償の枠組みを定めたサンフランシスコ平和条約の戦勝国側に韓国が加わることを英国が反対したが、それはまさにそのことを問題視したためだった。今回の判決は、その朝鮮人に賠償を支払えというのだから変な話だ。残りの3人だって、募集や斡旋で就職し、仕事を延長する際に現場で徴用されたケースだ」

〝真実〞を日本に代わって代弁

さらに鄭氏は、協定の文面には決して出てこない〝真実〞も日本に代わって代弁している。

「韓国人が日本企業に対し持っていた請求権と、日本人が韓国に置いてきた財産権を交換するという趣旨が請求権協定の基本論理としてある。数多くの日本人が朝鮮に来て一所懸命働いて、おでん屋やうどん屋を開いたり、土地を購入して農作もしたことだろう。全農地の5%以上は日本人が作付けしたとされる。ドルベースに換算すると、当時47億ドルに達したといわれる。しかし、韓国人が未払い給料や精神的慰謝料などで持っていた請求権は1億ドルにも達しなかっただろう。両者を比べれば、実はとてつもないアンバランスがあったわけだ」

いま日本では、そもそも韓国には近年の日韓関係悪化はすべて韓国側から引き起こされたものであるという基本認識が欠けている、と多くの人が考えている。うすうすそう感じてはいる人たちも、表向きに公言できないムードが韓国社会全体に漂っている。日韓関係を「加害者・日本と被害者・韓国」という善悪の枠組みでのみ眺めようとするクセがなかなか直らないのだろう。

感情抜きで客観的にこうしたチャンネルを視聴してくれれば、「元徴用工判決はのちのち禍根を残すイカサマ判決として記録される」(鄭氏)ことを多くの韓国人が確信してくれるかもしれない。

「親日派」と批判されようが、言うべきことは言う

保守系の最大野党・自由韓国党の地方議員と討論する高成国氏(右端)=2019年7月29日投稿のユーチューブチャンネル「高成国TV」

保守系論客のなかでも歯切れの良さに定評がある政治評論家、高成国氏が運営するチャンネル「高成国TV」も、踏み込んだ親日論を展開する。ある投稿動画では、ゲスト出演した保守系の最大野党、自由韓国党の地方議員2人を相手に、日本に理解を示す韓国人たちが「親日派」と罵倒されることの異常さに憤慨している。

「議員A:(韓国での日本製品不買運動について)国民の自発的な愛国心の発露だ。評価したい。

高氏:自発的か否か、どうやって区別するのか。背後で左翼が反日運動を煽っている部分に的を絞って攻撃しなければならない。自由韓国党は安倍首相も文大統領も間違っているとしきりに言うけれど、安倍首相がいったい何を間違っていると言うのか。徴用工問題は1965年の韓日国交正常化などで全て解決され、慰安婦問題も朴槿惠前政権が安倍政権と交わした2015年の合意で終わっているというのが安倍首相の主張だ。それは覆せない。どんなに悔しい点があったとしても。政府間の約束事を破った文政権のほうが悪いに決まっている。それなのに、日本の首相だから無条件に間違っていると言うのか。

議員B:安倍首相が間違っているか否かは別にして、そのことで経済的に報復する行為に問題が……。

高氏:外交には外交で、経済には経済で対抗すべきだなどと言うのはあまりにも無邪気。外交問題に経済制裁で報復するのが国際情勢の現実だ。韓国だって、北朝鮮がミサイルを発射したら経済制裁をしたではないか。自由韓国党も意気地がない。ひとまず安全装置のように『日本が悪い』と言ってから、そのあとに文政権を批判するのか。私は『親日派』と批判されようが、言うべきことは言う。

議員B:この問題が日本と連動せざるを得ないのは国民に経済的被害が及ぶためで、だから日本も文政権も一緒に批判せざるを得ない。

高氏:文政権は日本とのパイプがないようだから、結局はこの問題は韓国の保守派が解決するしかない。慰安婦合意も日韓請求権協定も韓国が守らなければならないものであるし、なぜ突然、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)見直し話を持ち出すのかと問い詰めて、文在寅左派勢力と戦わなければならない。そういうふうに明確な立場を打ち出してから日本へ行って、『あなた方が気に入らないのは文政権であって、韓国の企業ではないはずだ。次の選挙で政権交代したあとに再び未来志向を目指すためには、いま、日本に度量の大きさを示してもらいたい』という具合に話を持ちかけなければ、日本だって韓国保守の話を聞いてくれるはずがない。それなのに、口を開けば『安倍も文在寅も間違っている』と言う。日本に行って安倍首相に何を話すつもりなのか。自由韓国党には本当に戦略というものがない」

このくらい所信を貫く韓国保守派がどんどん増えていけば、日本としても韓国と話が通じやすくなるというものだ。

地上波から姿を消した保守論客

登録者数が79万人に達するユーチューブチャンネル「神の一手」にゲスト出演した韓国の国会議員、李彦周氏(2019年7月12日投稿動画)

韓国メディアが業界関係各社のまとめとして伝えたところによると、韓国人がYouTubeに開設した時事問題チャンネルのトップ10(登録者数基準)には、「神の一手」(2019年8月5日現在の登録者数約79万人)や「ペン・アンド・マイク鄭奎載TV」(同約50万人)、「黄ジャンスのニュースブリーフィング」(同約42万人)、「高成国TV」(同約38万人)など保守系論客が直接発信するものがズラリと並ぶ。累積動画再生回数では2億回~4億回くらいのものも多く、いずれも視聴者の大半は中高年だ。

近年、スマホが普及し、操作の成熟度も高まって中高年は手軽にこれらの動画に接するようになっている。いつでもどこでも自由に視聴できることが大きなメリットだ。

韓国中高年が文政権批判の動画に熱中する背景には、韓国の偏ったメディア事情がある。文政権の路線に近い左翼的な言論労働組合がメディアににらみをきかせ、一部の保守系新聞以外の既存メディアで文政権批判を聞くことがめっきり減ってしまったからだ。ある専門家はこう指摘する。

「地上波3大キー局や広く普及しているケーブルテレビの左傾化で親政府論調が広がるなか、文政権の政策に不満を抱く中高年がスマホを駆使してYouTubeの反文政権動画を視聴し、鬱憤晴らしをしている」

3大キー局のうち公共放送の韓国放送公社(KBS)と文化放送(MBC)は、保守政権時に任命された社長がいずれも任期途中で交代させられ、「文政権批判」が影を潜めたと言われる。このうちMBCは、経営陣退陣を求める労働組合の長期ストライキの末、李明博・朴槿惠両保守政権批判で知られる元プロデューサーが選任された。

一方、保守系の最大手紙・朝鮮日報の系列で「文政権批判」の急先鋒を行くTV朝鮮の場合、文政権発足直後に大統領直属機関である放送通信委員会が実施した放送事業許認可の更新審査で一時、失格扱いになった。「誤報、暴言、偏向放送などの影響があった」というのが理由だったという。

その後、条件付きで再承認されたが、この出来事があってからというもの、それまでTV朝鮮の番組にコメンテーターなどとして頻繁に出演していた保守系論客たちが次々に番組から姿を消したことは有名だ。

文政権の異常さに違和感を抱かない若者

中高年がこうした動画に熱中するのとは対照的に、若者や40代の多くは無関心か文政権の異常さに違和感を抱いていない。

朝鮮戦争(1950~53年)を経験したか、休戦後それほど経っていない時期に生まれた中高年たちは南北分断の厳しさを肌で感じ、「反共」教育を徹底して受けたため、それに対抗するうえで日韓関係の重要性を認識している人が多い。

ところが若者の場合は、日本のアニメやJ-POP、映画などをYouTube動画で視聴する「日本ファン」は大勢いても、時事問題には関心を示さない。また、総じて40代以下は北朝鮮に融和的な人が多く、逆に歴史認識問題をめぐり反日路線で南北が共闘することも厭わない。80年代の左翼学生運動にかかわった、いわゆる「386世代」(1990年代に30代〈3〉で、1980年代〈8〉に大学生で民主化学生運動に参加していた者が多い1960年代〈6〉の生まれを指す)の社会進出が進み、彼らが学校教育やマスコミ報道などに大きな影響を及ぼしていることが大きな原因だ。

「これこそ売国行為だ!」保守系女性論客の怒り

保守系女性論客たちも自分たちでチャンネルを開設したり、投稿動画に出演して文政権の反日に異議を唱える動きが広がっている。左派から右派に転向し、先ごろ出版した文政権批判本『私はなぜ戦うのか』が話題の李彦周議員もその一人だ。

「日本との問題で、何かと言えば歴史を忘れるなと言うけれど、それは二度と再びあのように植民地支配されたわれわれの過ちを繰り返さないようにしようという意味で言わなければならないはずだ。

当時、衛正斥邪運動(現実より理念的価値を重視したり、国際的合意より国内論理を優先させた朝鮮王朝時代の閉鎖的純化運動)で国民の生活苦を放置したまま鎖国して国を国際社会から孤立させ、韓国が他国の植民地になることを許した王と為政者たちにこそ責任がある。そのことを忘れてはならず、まして繰り返してはならないのに、文政権は同じ道を辿ろうとしている」(YouTubeチャンネル「神の一手」出演の李議員の弁)

ある女性弁護士が運営するチャンネルでは、レギュラー出演する中道左派の時事評論家・閔泳三氏が、自分自身は左派世論が圧倒的に強い南西部・全羅道の出身でありながら、文政権の反日政策を辛辣に批判していて興味深い。

閔氏は、与党・共に民主党のシンクタンク、民主研究院が「韓日葛藤は来年四月の総選挙で与党に肯定的な影響を与える」という内容を盛り込んだ報告書を作成し、所属国会議員全員に配ったことが発覚して物議を醸したことについて、こう語った。

「昨年の元徴用工判決に対する日本の反発に対し、何ら対策も講じず、ただ国民の反日感情を煽りながら、(保守系で最大野党の)自由韓国党が文政権を批判すると、やれ親日派だの、やれ土着倭寇(日本の肩を持つ韓国人の意)だのと言ってレッテルを貼り、このムードを来年総選挙まで引っ張っていこうとしている。これは政治工作以外の何物でもない。

親北・親中政策で安保が危うくなり、間違った浮揚策で景気も悪化、それなのに総選挙で勝ちさえすればいいと考えるのは、権力に目がくらんでいるとしか言いようがない。これこそ売国行為というものだ。こうした政策を主導する政権内にいる学生運動出身者たちは、本当に悪い連中だ」

閔氏は文政権への怒りが収まらない様子だが、「冷静に考えてみれば」と言いながらこう続けた。 「韓国の政権・与党による反日扇動を、日本はどれだけ嘲笑っていることか。どれだけ韓国を見くびっていることか。本当に恥ずかしいと思わなければならない。こうなったら、野党が結束して政権を取り戻さないと駄目だ。最大野党の自由韓国党を中心に、まずは次の総選挙で与小野大の構図にもっていくしか解決に向けた方法はない」

韓国人でもちゃんと物事の見方が分かる人は分かる、ということだろう。

世紀の詐欺

韓国中高年が熱中するYouTube動画には、これまで紹介してきたような「親日」物の他に、文政権の過度な北朝鮮融和政策を批判するものも多い。

「昨日、皆さんは世紀の詐欺をご覧になった。いかなる会談を通じても核を放棄しない北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と、大統領に再選されるまで非核化ショーの交渉をやり続ける米国のトランプ大統領、そして米朝首脳会談の実現を自分の手柄にしようと考え、あわよくば板門店で米朝韓の三首脳による終戦宣言にこぎつけようとした文大統領による詐欺だ」

これは、6月末の板門店での3回目米朝首脳会談を酷評するチャンネル「黄ジャンスのニュースブリーフィング」を運営する黄ジャンス氏の話だ。

北朝鮮に関する特ダネ報道などで日本にも愛読者がいる月刊誌『月刊朝鮮』前編集長の趙甲濟氏は、自ら運営するチャンネル「趙甲濟TV」のなかで、韓国政府が日本への対抗措置の一つだとして検討し始めたGSOMIA破棄について、「韓国の安保不安を増幅させる自害行為」と断じた。

以下、趙氏の話。

「これまで文在寅政権は極左的な理念を韓日関係に持ち込み、日本を事実上の敵、北朝鮮労働党の金正恩を友達のように接する、つまり、友好国と主敵を交換するような行いをしてきたなか、決定的な失敗をしたのがGSOMIA破棄の示唆。この協定による情報交換では、韓国が日本に提供する情報より日本が韓国に提供する情報のほうが圧倒的に多く、しかもそれは北朝鮮の核・ミサイルに関する戦略情報ばかり。破棄すれば韓国に損害が発生し、日本にはそれほど影響は出ず、日米韓の連携を重視する米国は反発するだろう」

「破棄すべきはGSOMIAではなく、2018年9月の平壌での南北首脳会談で結んだ南北軍事合意書だ。北朝鮮がミサイル発射を繰り返しているのは、それだけで軍事合意書の精神に違反している。それなのにGSOMIAを破棄しようというのは、親北反日路線だからとしか説明できない。これこそ利敵行為だ」

あくなき言論弾圧、文在寅政権によるYouTube統制

韓国保守系論客たちがYouTube動画で「反日親北」路線の文政権を批判し続けることができるのは、規制が少なく自由に発信できるからだ。ところが最近になって、与党がこれらのYouTube動画をターゲットにした規制に乗り出そうとしている。

同党はこれらの動画について、「フェイク・ニュースが幅を利かせており、地上波放送局や総合編成チャンネル(ケーブルテレビ)と同じように規制が必要」などと主張、放送法の枠内に入れて法律改正の準備を進めている。仮に、これらの動画を規制する条項が新たに盛り込まれた場合、罰金や放送禁止など厳格な制裁を科すことも可能になる。

地上波や保守系ケーブルテレビだけでは飽き足らず、YouTube動画まで統制しようという文政権のあくなき言論弾圧とでも言うべきか。ただ、ある専門家は「個人の表現の自由に対し、審議基準を設けることへの抵抗感は根強い」と話す。

そもそもYouTubeが韓国企業ではないことの制約もあり、実際に規制ができるか疑問視する声も少なくない。

韓国中高年が「親日」動画に熱中するのは、いままさに韓国が空前の危機的状況に陥っているからにほかならない。自由民主主義陣営の一角として北朝鮮の軍事的脅威、露骨な覇権主義に走る中国に対抗するうえで、本来は日本との協力関係を強化すべきが、文政権の登場を機に協定や合意で解決したはずの歴史認識問題を蒸し返して国民の「反日」ナショナリズムを煽り、国益を踏みにじってまで日本を敵視している。

その先頭に立ち、顔色一つ変えない文大統領の姿には驚きと失望の念、いや戦慄さえ覚える。韓国が一刻も早く正気を取り戻してくれるよう願わずにはいられない。

(初出:月刊『Hanadaセレクション』2019年9月)

上田勇実

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