ネットで騒がれる「不正選挙」本当にできるのか? 選挙ドットコムが徹底追及(後編)

(※2018年1月29日に公開した記事を再掲載したものです)

 

選挙結果は大きな権力によって操作されている」「投票用紙が書き換えられている」「1人で何枚も用紙を偽造して、票数を水増ししている」「投票結果はあらかじめ決められている出来レースだ」などなど…

選挙についてインターネットで検索してみた経験がある方なら一度はこういった不正選挙陰謀論を目にしたことがあるのではないでしょうか。

実際に投票や開票結果を意図的に操作することは可能なのでしょうか?

選挙の管理執行の実務に44年、開票事務の現場を最もよく知る人物の一人、選挙ドットコム顧問の一般社団法人 選挙制度実務研究会代表理事で選挙管理アドバイザーの小島勇人氏(以下、選挙管理アドバイザー 小島)に選挙ドットコム株式会社 取締役で選挙プランナーの松田馨(以下、選挙プランナー 松田)と一緒にお話をお伺いしました。
前編では過去に実際に起きた開票にあたっての不正についてお話を聞き、選挙が執り行われるにあたっての厳重な手続きについて聞きました。後編では開票(投票後に投票用紙を集計し、投票結果を集計する作業)や世論調査などの疑問について話を進めて行きます。
【関連】ネットで騒がれる「不正選挙」本当にできるのか? 選挙ドットコムが徹底追及(前編)  >>

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集計機を通すと「名前が消え、別の候補者の名前に書き換えられる」? 開票作業で不正はできるのか?

-選挙ドットコム宮原
投票用紙に書かれている名前ごとの分類や票数のチェックには機械が使われているんですよね?

「機械に仕掛けがあって、書かれていた名前が消されて、別の候補者の名前に書き変わる」というネット上の噂もありますが、この手順でそんなことが行われたら大変ですね。これは可能でしょうか?

-選挙管理アドバイザー 小島
開票作業でよく使われるのは株式会社ムサシの機械です。ムサシの他にはグローリー株式会社という会社の機械も使われています。

投票用紙の集計機は、1975年にビルコン(bill counter)つまりお札を数える機械を改良してできたんです。基本的に変な構造はないですよ。また、機械だけで開票作業をしているわけではないですので、書き換えることは不可能です。

投票用紙の集計は2回行いますが、機械でも1回目と2回目はそれぞれ別の機械で数えます。機械での集計の際も「別の機械」を使って2回数えなければならないことになっています。

また、開票の際には各候補者の陣営から、開票作業に不正が無いか公益的立場で「開票立会人」が監視することになっています。こういった様々なチェック機能を騙すことは不可能でしょう。

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正確性と速報性のはざまで揺れる選挙管理委員会

-選挙管理アドバイザー 小島
そもそもA市の事件(記事の前編で紹介した事件。投票した人数と投票用紙の枚数が合わなくなったため、白票でつじつま合わせをした)には背景があるんです。以前からA市は「開票作業が遅い」ということで議会やメディアで問題になっていました。それで3000万円かけて票の認識分類機を6台導入したばかりだったんです。それなのに再点検となると朝までかかってしまう… そんなことはできない、という現場の判断で白票の水増しということが起こってしまったんです。

-選挙ドットコム宮原
最近の選挙は「投票日のうちに、すぐに開票」することがほとんどですね。そのため、職員の方が徹夜されているようなことになっていると思います。

一方で、昨年では例えば葛飾区議会議員選挙のように「開票は翌日」となっていたケースもあります。無理に当日の深夜に開票せず、ゆっくり翌日開票した方が正確性や職員の方の人件費の面でも効率がいいとの意見もあると思います。

-選挙管理アドバイザー 小島
開票の時期についてはかつて議論になったことがあります。私の出身の川崎市でも試算したことがあるのですが、実は当日夜に開票する場合と翌日に開票する場合では、人件費などは700万円程しか変わりませんでした。700万円といっても大金ではありますが、「有権者の方に早く選挙結果を伝えるためのコストだから無駄ではない」という判断になりました。安上がりになればいいというものではないので判断が難しいところです。

-選挙プランナー松田
最近はマスコミが投票が終了した午後8時にすぐに「当選確実」を出しますよね。マスコミは自社で出口調査などで当選の予想を立てていると思うのですが、選挙管理委員会(選管)にも「開票を急いで欲しい」と求めてくることもあるでしょうか?

-選挙管理アドバイザー 小島
マスコミからの要望もそうですが、実は公職選挙法第6条第2項でも「選挙の結果を選挙人に対して速やかに知らせるように努めなければならない」と規定されているんですよ。この「速やか」が「いつまでに」との判断が難しいのですが、選管としては選挙の結果をなるべく早く有権者に伝えたいのです。ですが、もちろん、正確性との調整を図りながらやっています

ゼロ打ち速報は出来レースの証拠?

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-選挙ドットコム宮原
今話題にあがりましたが、投票が終わって開票が始まる「午後8時ちょうどに当選確実」が出る(いわゆるゼロ打ち当確)、というのはそもそも選挙の前から当選者が決まっている出来レースなのではないか、という意見もネットで目にします。

-選挙管理アドバイザー 小島
川崎市で1989年の市長選挙において「開票率1%問題」というのがありました。開票が始まった途端、まだほとんど進捗していないのにNHKの大河ドラマ放送中のテロップで当確が出たんです。NHKが出口調査や世論調査を行った結果から、「当選確実」だと判断したわけですが、まだ開票が1%しか終わっていない状況での「当選確実」でしたので、当時は物議を醸しました。

-選挙ドットコム宮原
他にも投票日の前に「どの政党が◯議席獲得しそうだ」「A党は厳しい」といった世論調査については有権者が「A党が厳しいからB党に投票するか」などと投票結果を誘導しかねないから発表を控えるべきだ、という意見もありますよね。

-選挙プランナー松田
これに関しては様々な学説があります。自分の1票を無駄にしないために当選しそうな候補者に投票するのは「バンドワゴン効果」と言われますが、その逆に判官贔屓で負けそうな候補者を応援したくなる人もいます。これは「アンダードッグ効果」と言われています。

世論調査については「主権者である国民が、その1票を情勢に合わせてより効果的に使おうと思った時に役立つ」という意味で重要だと思います。自分の大切な1票ですから、政治状況をしっかりと把握するために世論調査は役立つでしょう。

「影響を受けるから世論調査などの報道を控えるべき」というのはある意味で「有権者は報道に流される。何も自分で考えられない」と言っているのと同じことではないでしょうか。

フランスでは1977年7月19日法で選挙前1週間は世論調査の開示が禁止されていましたが、2002年に改正され投票日の前日と当日だけNGになったんです。民主主義社会において国民の知る権利は大切ですので「有権者の1票をより有効に使うため」という意見が勝ったんですね。

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厳重な法律、厳格な作業… それでも誤解を招かないために

-選挙管理アドバイザー 小島
選管としても有権者に誤解を与えないように努力をしています。かつて開票所にビデオカメラを持ち込んで撮影した人がいて「職員が手をポケットに突っ込んだ」「ポーチを持ち込んだ」「影に隠れて何かをやっていた」などといった外形的な状態をとらえて「不正開票だ」「投票用紙を隠したのではないか」とテレビ局に持ち込んで放送されたことがあります。もちろん不正はなかったとのことですが、こうした誤解を招きかねない動きに注意を促す「基本的留意事項」というものをまとめて職員に徹底しています。

-選挙プランナー松田
過去に選管の不正があったことによって開票事務自体が厳しくなっている印象があります。例えばA市では開票事務にビデオが導入されていますね。

-選挙管理アドバイザー 小島
ビデオ撮影することで緊張を高めることと、後々の検証に役立てる目的です。

不正選挙が起こらないための一番のポイントは、結局は職員の選挙に対する意識に帰着すると思っています。選挙は、普段は他の業務をしている職員にとっては「選挙の時だけの頼まれ仕事」という意識になってしまうこともあります。そうなるとミスを犯したり数が合わないから白票を増やそう、ということになってしまう可能性があります。1つ1つ慎重に手順を積み上げて、ちゃんとやれば開票は正確にある程度の時間で終わるんです。早くやろうとか、のんびりやろうとするとミスや慢心が出てしまいます。「作業ではなくて仕事」をするんだというように私は職員に意識付けしています。

-選挙ドットコム宮原
法律や運営のルールによって、選挙は不正が起きない状況になっていることが理解できました。また、開票に携わる職員の方の意識を高めることによって、ミスや疑いが出ないようにされていることも理解できました。
小島さん、松田さん、今日はありがとうございました。

代議制民主主義社会の根幹をなす選挙の事務は非常に厳格に行われていることをご理解いただけたのではないでしょうか。選挙ドットコムでは引き続き、不正選挙に関わる疑惑について検証してお伝えしてゆく予定です。

前編はこちら>>ネットで騒がれる「不正選挙」本当にできるのか? 選挙ドットコムが徹底追及(前編)

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