葬儀・告別式どうしたら…「コロナが本当に憎い」県外の孫、祖母送れず

密集を避けるため、斎場では以前より座席を減らし、間隔を空けている=長崎市大橋町、大橋メモリードホール

 新型コロナウイルスの感染拡大で人が集まる場所への外出自粛が求められ、葬儀・告別式に変化が生じている。4月に母親を亡くした男性が取材に応じ、葬儀を開くまでの悩みや思いを語った。
 長崎県諫早市で書道教室を開いていた宮崎スミさんは4月中旬、亡くなった。91歳だった。明るく優しかった「スミばあちゃん」を亡くし、遺族は悲しみに暮れた。ただ穏やかに息を引き取ったことが救いだった。だが、すぐに現実的な問題に直面した。故人と親交があった人に通夜や葬儀を知らせるべきか、否か。

 スミさんの息子(59)=西彼長与町=は「悩みに悩んだ」と話す。新型コロナウイルスの感染が広がる中、人が集まる葬儀はリスクがある。周囲に知らせず、家族葬も考えた。だが「母が旅立ったことさえ誰も知らないというのは、あまりに寂しい」。悩んだ末、通夜と葬儀の情報を新聞に掲載することにした。
 遺族の仕事関係者には弔問を控えるようにお願いした。斎場に故人をしのぶ弔問客が次々に訪れたが、斎場側の案内で多くは焼香を済ませると帰り、葬儀の参列者はほとんどが遺族だった。それでも「少しでも最後のお別れをしていただけたのはありがたかった」と男性は振り返る。斎場には訪れず、後日香典を届けた人もいた。
 ただ、県外からの弔問はお断りした。男性の娘は2人とも県外に暮らす。2人とも幼い頃からスミさんに習字を教わり、慕っていた。「ばあちゃんに最後のお別れをしたい」。娘たちの願いに対し、男性は「遠くから祈っていてほしい」と、やんわり制した。長女からはこんなLINE(ライン)が返ってきた。「全身アルコールかぶって、マスクして、私だけ日帰りで車で帰ろうか本気で考えてた。コロナが本当に憎い」
 愛媛県では3月、葬儀の場で集団感染が発生した。感染リスクへの警戒感や緊急事態宣言による外出自粛要請で、葬儀の小規模化が進んでいる。本紙おくやみ欄に掲載した情報を調べると、葬儀・告別式の後に亡くなったことを知らせるケースは3月は30件だったが、4月は144件に増えた。
 冠婚葬祭業「メモリード」では、斎場に消毒液を設置し、座席の間隔を空け、こまめに換気する対策を取っている。担当者によると、感染拡大前より弔問客が全体的に減少している。県内の別の斎場でも家族葬など小規模の葬儀が増加。宮崎さんの遺族のように、県外からの弔問を断る例も多いという。
 男性は通夜と葬儀の間、LINEで遠方の娘たちに状況を逐一伝えた。場所は違えど、同じ時間に同じ思いで最愛の人を見送った。それでも、やりきれなさは胸に残る。「娘たちはおばあちゃんが死んだ実感が湧かないのではないかな」


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