現役ながら指導者として一歩 女子野球・加藤優の選んだ道「リスクはあるけれど…」

子供たちに守備指導を行う女子野球選手の加藤優【写真提供:横浜DeNAベイスターズ】

4月1日から横浜DeNAベイスターズ・ベースボールスクールのコーチに就任

2020年、女子野球選手の加藤優は新たな一歩を踏み出した。現役を続けながらもチームには所属せず、一人の野球人として可能性を広げる1年にすることにした。

「今年はチームに所属しないと決めて、いろいろ自由に動いてみたいと思っています。プロを辞めていろいろなことにチャレンジできるチャンスを1年間、自分自身に設けてみようかと。もちろん、チームに所属しないと試合に出られないリスクはあるんですけど、しっかり体力は落ちないように管理しつつ、プロとして培った技術は練習を続ければ簡単に落ちるものではないと思っています」

2016年から所属した埼玉アストライアを昨季限りで退団。「不安はありました。すごく悩んだんですけど、異なる環境で挑戦してみたかったので」と“フリー”での活動を始めた。そして、新たな取り組みの1つとして、4月1日から横浜DeNAベイスターズ・ベースボールスクールのコーチに就任。子どもたちに野球の楽しさを伝えることにした。

「野球の普及・発展というところで、いろいろな角度から女子野球界にアプローチしていきたいと思ったのがきっかけです。現役だからこそ伝えていけることもあると思うので」

就任に先駆け、2月には横須賀にあるベイスターズのファーム施設DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKAで行われた女子野球選手向けの野球教室に講師として参加。当日は40人を超える小中学生女子が集まり、プロ経験者の指導に耳を傾けた。これまでも小学校やクラブチームに出掛け、野球教室で講師を務める中で「分かりやすさ」を大切に伝えているという。

「相手に対して、いかに分かりやすく、噛み砕いて伝えるか。これは永遠に難しいことだろうなと感じていますが、おそらく多くの指導者の方々がそう思っているんじゃないかと思います。私は指導者歴が長くないので、これから教えながら勉強していくことになりますが、今、私が持つ経験と引き出しを最大限に出そうと思います。その中で、子どもたちにとにかく野球を好きになってもらえるように、成功体験をどんどん増やしてあげたいと思いますね」

自身は「どちらかという感覚でプレーするタイプ」だといい、「感覚を言葉として伝えるのは、選手としてもすごく役立つところがあります」と話す。教えることはまた、自身の成長にも繋がっているようだ。

子供たちに打撃指導を行う女子野球選手の加藤優【写真提供:横浜DeNAベイスターズ】

簡単に結果が出ない野球の魅力「ここぞという時に一発出ると」

5歳から野球を始めて、今年で25歳。野球歴は実に20年を数える。少年野球、リトルリーグ、ボーイズリーグでは男子と一緒にプレーしながら、才能を光らせた。高校では企業チームのアサヒトラスト女子硬式野球部に入団。卒業後は介護の仕事をしながら野球を続け、2015年に女子プロ野球の合同トライアウトに合格した。翌年に入団した埼玉アストライアでは外野のレギュラーとして活躍し、近年では2年連続打率3割を超え、2019年にはベストナインも受賞した。一方、「美女9総選挙」で2年連続1位になるなどビジュアル面でも注目を集めていた。

この20年間、野球にいろいろな角度から接してきたが、変わらない想いがある。それは「野球が好き」という純粋な気持ちだ。野球が持つ「繋ぐ」楽しさや「簡単にはいかない」難しさに魅了されている。

「野球って実際にやっている時は、ピッチャーも1人ですし、打席ではバッターも1人ですけど、結局繋いでいかないと点は取れない。チームが協力して勝ちを掴む面白さがあります。そして、頑張ってきたことがなかなか簡単には結果に出ないのも、また面白いところ。だからこそ、ここぞという時に一発出ると、鳥肌が立つくらいうれしくなってしまったり。そういう魅力が野球にはありますね」

最近では、小学生の女子野球選手が増えていることを実感する場面も多く、「すごくうれしいです」と声を弾ませる。時には、野球少女から「目標にしています」と声を掛けられることもあるそうで「まさか自分が目標にされているとは思わなかったので、本当にうれしかったですし、やっていてよかったと思いました」と話す。

残念ながら、新型コロナウイルスの影響によりベースボールスクールでの実際の指導は始まっていない。「楽しみなのと、多少の不安と……」と笑うが、子どもたちと会える日まで「イメージをしながら準備していきたいです」と意気込む。

一日も早く野球をしたいと願う子どもたちには、今は何よりも「命を大事にしてほしい」と話す。

「なるべく人と会わないように過ごしながら、家では手洗いやうがいなど、基本的なところを気を付けながら命を大事にしてほしいと伝えたいですね」

子どもたちと白球を追える日が来たら、これまで得た経験と知識、そして野球の楽しさを存分に伝えていく。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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