新型コロナウイルス感染症で致死的な急性呼吸器不全を発症する仕組みの考察

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で生じる致死的な急性呼吸器不全症候群(ARDS: Acute Respiratory Distress Syndrome)は、免疫系の過剰な生体防御反応であるサイトカインストームが原因であるとする考察を、北海道大学と量子技術研究開発機構の研究グループが発表した。

2019年12月に中国で発症し、今や世界的なパンデミック感染症となったCOVID-19は、特に重症化した際に発症する急性呼吸器不全の致死率が高く、治療法の開発が急務となっている。

最新の研究で、新型コロナウイルスが感染するためにはサーズウイルスと同じく細胞表面にあるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)というタンパク質が受容体として作用すること、さらにウイルスが細胞に侵入するためには細胞表面のタンパク分解酵素であるTMPRSS2によりウイルスのスパイクタンパクが処理されることが必要であることが明らかとなっている。

これらの知見やこれまでの研究から、本グループは、感染後期に生じるARDSは、過剰な生体反応であるサイトカインストームにより引き起こされるサイトカインリリース症候群(CRS: Cytokine Release Syndrome)である可能性を提唱した。遺伝子の転写因子であるNF-kBとSTAT3の協調作用により、インターロイキン6(IL-6)の増幅回路(IL-6アンプ)が活性化され、炎症性サイトカインが異常に増加するサイトカインストームが発生することにより、ARDSが発症するという仕組みだ。

治療薬の標的としてIL-6アンプで重要な役割を担うIL-6-STAT3経路が有望であることもあわせて提唱した。すでに白血病治療の副作用で生ずるCRSの治療薬として使用されている抗IL-6受容体抗体などのIL-6-STAT3経路阻害薬で、COVID-19に見られるARDSも治療できる可能性があるとしている。

論文情報:

【Immunity】COVID-19: A New Virus, but a Familiar Receptor and Cytokine Release Syndrome

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