<いまを生きる 長崎コロナ禍> 「誰が守ってあげるのか」 命と向き合う飼育員 

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、長崎県内の動物園や水族館も休業を余儀なくされている。いつものにぎわいは消えても、動物たちはいつも通り、その場所で生きている。飼育員は、ウイルスという見えない敵に不安を抱きつつ「誰が守ってあげるのか」。使命感を持ち、多くの命と向き合っている。

優しいまなざしを向けながらペンギンの世話をする飼育員=長崎市宿町、長崎ペンギン水族館

 足の裏にできた「たこ」の治療をするため、飼育員が1羽ずつペンギンを抱きかかえる。たちまち“やじ馬”が集まってきた。「ちょっと邪魔しないでよ」。やんちゃなペンギンに声を掛けるのは飼育員歴9年の村越未來さん(32)。彼女の脇では、高齢のペンギンが直立したままうたた寝をしていた。
 長崎ペンギン水族館ではペンギン8種・約170羽を育てている。休館以降のにぎわいのない静かな空間にも「この子たちには関係ないみたいです」。神経をすり減らす飼育員とは対照的に、その無邪気さは一層際立っていた。
 生き物の命を預かる現場として、感染症には常日頃から最大限の注意を払ってきたという。飼育は誰にでもすぐにできるわけではなく、代わりがきかない仕事だという自負もある。「人間が病気になって飼育に支障が出ることだけは避けなければいけない」。感染予防のため、現在は飼育員を2グループに分けて運用している。
 好奇心旺盛な子がいれば、弱気な子、勝ち気な子もいる。170羽それぞれに個性があり、顔つきも違う。ひなの頃から知る村越さんにとって、多くは「子どもみたい」な存在。歩行に異常はないか、排せつ物の状態はどうか…。
 水族館が再開したその日、大勢の人に“わが子”の元気な姿を見てもらうため、わずかな変化にも気を配っている。

イルカのトレーニングに取り組む吉田さん(左)ら=佐世保市、九十九島水族館

 佐世保市の九十九島動植物園(森きらら)も休館中。約50種類の動物を飼育する職員たちが気の抜けない毎日を送っている。
 足立樹さん(36)はツシマヤマネコの担当。いつもは健康状態やけがの有無を手で触れて確認しているが「感染が拡大すれば、それすらできなくなるのではないか」と気をもむ。
 海外では、動物への新型コロナの感染事例も確認された。廃業に追い込まれた施設で動物たちが生存の危機にひんしているとの報道もあり、足立さんも心が痛む。「こんな時期だからこそ、動物たちを直接見て命の尊さを感じてもらいたいのだが…」
 同じく休館中の九十九島水族館(海きらら)では、イルカの調教・飼育を担当する吉田実樹さん(26)がイルカの健康管理と共に、新技の考案・練習など「こんなときにしかできないこと」に日々取り組んでいる。
 お客さんと触れ合うことは、イルカたちにとってもいい刺激になっている。休館してそれがなくなってしまったのは「イルカも寂しいと思う」と吉田さんは代弁する。
 魚類担当の百武可奈子さん(38)は飼育する魚の健康管理に気を配る。呼吸の速さ、泳ぎ方…。チェックしなければならないことは多い。職員の感染防止のため、通常より少ない人数で業務に当たっており負担は軽くはないが、「それでも」と百武さんは言う。
 「水族館もお客さんから元気をもらってきた。だから、魚たちを健康な状態に保って、また元気にお客さんを迎えたい」

 


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