<いまを生きる 長崎コロナ禍> 「準備はいい?」オンラインで韓国語授業 「生徒の笑顔」心の支えに

 長崎県立佐世保商業高(佐世保市)の韓国語講師ユ・ミンジョンさん(41)が自宅でタブレット端末に向かって語りかける。「準備はいい?」。画面に写る教え子たちが笑顔で応じた。教える喜び、学ぶ喜びが、狭い部屋に満ちていった。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全ての公立学校が臨時休校となっている。そんな中、同校は韓国語の授業だけをオンラインで実施。国際コミュニケーション科の2年生12人と3年生13人が週3日、休校前と変わらず韓国語を学んでいる。
 きっかけは、生徒たちの熱烈なラブコール。県が臨時休校を決めた4月17日。3年生の授業を終えたユさんは「また会えなくなるね」とつぶやいた。すると、生徒たちが口々に「授業を受けたい」「オンラインはできないの?」と求めた。韓国の大学への進学を目指す生徒もおり、授業の遅れも心配していた。
 ユさんはオンライン授業は未経験だったが、生徒の期待に応えるため、ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を試し「いける」と感じた。学校側も、生徒全員の出席を条件に授業として認めてくれた。

オンライン授業で生徒に韓国語を教えるユさん=佐世保市内

 臨時休校が始まった同21日。ユさんのタブレット端末の画面に生徒たちの笑顔が並んだ。普段と同じように互いに声を出して読み書きなどを練習。3年生の松永果子さん(17)は「学校にいるみたい」と喜んだ。
 県教委によると、国の支援で情報通信技術(ICT)の導入が進む小中学校と比べ、県立高校の態勢整備は遅れている。佐世保商業高で韓国語の授業をサポートする弓削靖子教諭(49)は「今回は生徒それぞれに通信環境があり、学習意欲に後押しされて実現できた」と話す。
 ユさんは2010年に来日。講師の傍ら、自宅で翻訳や韓国語教室の仕事もしているが、新型コロナの影響で大幅に減った。韓国で感染が深刻化した大邱(テグ)市出身。古里の両親の元にも帰れない日々が続く。生徒たちとのオンライン授業は、ユさんにとっても心の支えになっている。
 日韓関係は今、歴史認識や輸出管理、防衛協力などの問題が山積し、「最悪」の状態と言われる。それでも、生徒たちは韓国の言葉や文化に関心を持ち続け、将来、日韓の交流に役立ちたいと望んでいる。「オンライン授業を通じコロナが収束した後の未来を育てたい」。そんな思いで、ユさんは“教壇”に立つ。

 


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