憲法改正の是非を問う「国民投票」通常の選挙とはルールが全く違います!憲法記念日に知っておきたい10個のまとめ

今日、5月3日は憲法記念日です。

2017年に安倍首相が憲法改正を目指す意向を示して以来、憲法改正が度々話題になっています。最近では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、有事の政府権限を強める「緊急事態条項」の創設を主張する意見もみられます。

安倍首相が繰り返し意欲を示す中、憲法改正の国民投票が政治日程に上がってくる可能性もありますが、そのルールはどうなっているのでしょうか?

「いざ!」という時に慌てないように、憲法改正の国民投票について知っておきたい10の基本事項をご紹介します。

1.年齢制限なし! 小学生も活動できます 【国民投票運動の年齢制限】

国民投票法では、憲法改正案について賛成又は反対の投票をするよう(又はしないよう)に勧誘することを「国民投票運動」とし、一定のルールを定めています。

実は、国民投票運動に関するルールの中には、活動する人に対する年齢制限はありません。そのため、通常の選挙運動とは異なり、18歳未満の人も、さらに言うと中学生や小学生でも運動に参加することができます

「どうせ私には投票権がないから」と思って憲法改正について興味を持っていなかった若い人がいたら。ぜひ年齢を理由に考えることをあきらめてしまわないようにしてくださいね。

2.投票できるのは普通の選挙と同じ18歳から 【有権者年齢】

憲法改正の国民投票で投票権を持つのは、満18歳以上の日本国民です。2018年の6月21日に有権者年齢が満18歳に引き下げられました。

3.最長180日! 【国民投票に必要な期間】

国民投票は、国会が憲法改正の国民への提案を決めた日から「60日以後180日以内」の国会の議決した期日に行われます。

国政選挙では、任期が終わる日の前30日以内(衆議院の解散の場合は、解散した日から40日以内)に選挙を行うことになっていますので、国民投票運動の方が長期間の活動ができるようになっています。また、国政などの選挙では、選挙の公示又は告示の日から投票日の前日までが選挙運動を行うことのできる期間となりますが、国民投票運動ではこの期間の制限がありません。

そのため、選挙運動としては禁止されている投票日に運動をすることや、事前運動に相当する活動、例えば国会で議論が行われているうちから憲法改正原案が発議されることを見越して活動することなどもできます。

4.20時以降の活動も、戸別訪問もできます 【国民投票運動の方法】

国民投票運動と選挙運動の違いは運動期間だけではありません。

スライド1

図表1にあるように、国民投票運動と選挙運動や住民投票運動には様々な違いがあります。例えば、選挙運動では、街頭演説は8時~20時の間にしか行うことができませんが、国民投票運動にはその制限がありません。
また、選挙運動では禁止されている戸別訪問や、自分で自由にビラやポスターを作って配布することなどもできます。インターネット関連では、電子メールも使用できるようになります。

このように、国民投票運動は選挙運動に比べてできることの範囲がかなり広くなっています。今までの常識で、「こんなことはできないだろう」と決めつけてしまわずに、様々な活動の可能性を把握しておきましょう。

5.使える金額は無制限 【国民投票運動の費用】

国民投票運動に使用する費用に関する制限はありません。国政選挙などでは、政党がTVやインターネットなどで様々な広告を行っていますが、国民投票の時は投票までの期間が長いこともあり、より高い頻度で、様々な場面で憲法改正の賛否に関するCMを目にすることが想定されます。

また、国民投票運動に関するTVやラジオでのCMは、「有権者が冷静な判断を行うことができるようにするため」等の理由から投票日の14日前から禁止されます。

「フェイクニュース」に代表されるように、何らかの政治的な意図をもって刺激的、扇動的な誤った情報が発信されることも増えてきています。憲法改正の国民投票は、国政選挙に比べても長い運動期間となるため、様々な情報に触れる機会が多くなります。投票をした後に「こんなはずじゃなかった。勘違いしていた。」ということにならないように、刺激的な情報はいつもよりも慎重に受け止め、真偽について考えることが大切になってきそうです。

6.投票日の14日前から投票できます 【期日前投票、不在者投票】

投票日の14日前から期日前投票を行うことができるようになります。

なお、若者に向けた情報として「不在者投票」の活用についても確認しておきましょう。投票日までに満18歳以上になる予定で、期日前投票をする日に満18歳になっていない人は、「不在者投票」として投票することができます。

「投票日には有権者になっている予定だけど、投票日には予定があって投票できないな」という人は、ぜひ期日前投票や不在者投票を利用してくださいね。皆さんの貴重な意見を、投票を通じて明らかにしていきましょう。

7.国政選挙と一緒に行われる可能性もあります 【国民投票の投票日】

国民投票法の制定時の議論では、国民投票は国政選挙とは別の日程で行うべきである旨の発言が、与野党を問わず様々な議員からありました。ただし、そのことは法律に明文化されていませんし、憲法では、国政選挙とは別の日に憲法改正のための国民投票を行うことも、国政選挙と同日に行うことも、それぞれ可能とされています。

そのため、投票率の向上などを意図して国政選挙と同日に国民投票が実施される可能性があります。また、全国各地で日々様々な選挙が行われていますので、これらの地方選挙と国民投票の投票日が重なることも考えられます。

ただし、憲法改正の国民投票と政党が政権を争う国政選挙では、有権者が問われるものや選挙戦の構図が異なります。同様に、地方自治体の選挙も、争点や政治状況はもちろん異なっています。もし、憲法改正の国民投票と何らかの選挙の日程が重なった場合は、日々の暮らしの中で接する情報がどの投票に関するものなのかを冷静に判断する必要がありそうですね。

8.複数枚投票することもありえます。 【国民投票の投票方法】

憲法改正の国民投票では、内容について関連する事項ごとに区分して1つの改正案として投票することになっています。

スライド2

具体的には、「憲法九条」と「教育の無償化」、「解散権の制約」などのように政策の内容が大きく異なるものの改正を同時に問う場合は、「憲法九条の改正案に対する投票」と、「教育の無償化に関する改正案に対する投票」、「解散権の制約に関する改正案に対する投票」の3つの投票を行うことになります。

なお、どこまでが「内容について関連する事項」であるかどうかの判断は、国会の裁量で決定することになっています。

9.850億円という試算もあります 【国民投票の実施費用】

国民投票法の制定過程で行われた試算では、「投票所・開票所の設営」や「投票所入場券の郵送費」などで、国民投票の実施に約850億円の費用が必要になることが明らかにされています。

試算が行われた2007年から現在までの間に、衆議院議員総選挙の実施費用も大きく低下しているため(近年の衆議院議員総選挙の実施費用:約600億円程度)、改めて試算をすると国民投票の実施に要する費用も変わってくるものと思われますが、私たちの意見を表明するために一定の費用が必要となることがわかります。

なお、上記費用とは別に、国民投票施行のための準備として、投票人名簿システム構築などのために、約60億円の費用が2008年から2010年までの間に使用されています。

10.有権者の10人に1人が賛成しただけでも憲法が改正されることもあるかもしれません 【最低投票率】

投票の内、憲法改正案に対する賛成投票数と反対投票数を「投票総数」とし、憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数の2分の1を超えた場合に、憲法改正が認められます。この時、無効票は投票総数の計算から除外されることがポイントです。

また、例えば2つの改正案が同時に国民投票に付され、改正案Aは賛成票が過半数を超え、改正案Bは反対票が過半数を超えた場合は、改正案Aだけが成立します。

なお、地方自治体で行われる住民投票の中には「成立条件」として「最低投票率」を設定しているものもありますが、国民投票には最低投票率の条件は設定されていません。そのため、国民投票の投票率が20%であり、賛否が非常に拮抗した投票結果だった場合、投票総数の過半数、有権者全体で表現し直すと、有権者の10%を1票でも上回れば憲法改正が実現することになります。

「有権者の10人に1人が賛成しただけでも憲法改正が実現するほど投票率が下がるなんてことはないだろう」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、埼玉県知事選挙(2015年)27.49%や大阪市長選挙(2016年)23.59%、川口市長選挙(2018年)22.29%と、都道府県や政令市などの選挙でも20%代の投票率というのはしばしば生じています。

有権者の関心次第では、色々な事態が生じる可能性があるかもしれませんね。

自由に意見を述べ合うことのできる環境を作れていますか?

18歳選挙権の実現を契機に、未来の有権者である子どもたちの声をいかに投票結果に反映していくかを模索する動きもあります。国民投票では、投票権こそないものの、子どもたちも自由に意見を表明し、投票を働きかけることができます。この点は、国政選挙などよりも子どもたちの権利が守られていると言えるかもしれません。

でも、もし子どもたちの周りにいる大人が、子どもたちが自由に活動できることを知らずに、国政選挙などの先例に倣うことで、結果として子どもたちの活動を不当に制限してしまったらどうでしょうか。

一方で、子どもたちの活動が、時や場所、手段を選ばずに活発になるあまり、学校がすべての生徒たちにとって安心して学べる場所ではなくなってしまうことはないでしょうか。そういった事態が生じないようにするためには、予め様々な場面を想定して準備を進めておく必要があります。そして、「準備」が大切であることは、子どもたちに限ったことではありません。

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活動手段への規制の少なさや、発議から投票日までの期間の長さなどに象徴されるように、国民投票では国民一人ひとりが自由に活動し、意見を交わしながら、主権者としての意思表明を行うことが期待されています。

主権者として、自ら憲法改正案の承認・不承認という、国の統治のあり方を決定する投票に臨むために、その準備は万全でしょうか。予め決めておいた方がよいことや、確認、明確にしておきたいことはないでしょうか。

憲法改正の国民投票がいつ実施されるかは分かりませんが、本記事がその時に向けた備えの1つとなりましたら幸いです。

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