長崎県高校野球 データで見る過去20年間 主要大会“4冠”ゼロ 混戦で長崎県のレベルは向上

 「NHK杯の優勝校は夏に勝てない」。長崎の高校野球ファンなら一度は耳にしたことがあるジンクスだ。では、それは本当なのか。過去20年間の九州地区県大会(秋と春)、NHK杯県大会(6月)、全国選手権長崎大会(夏)の県内主要4大会の成績を見ると、そもそも“4冠”などを達成したチームはなく、長く混戦となっていることが分かる。データをひもとき、高校野球の現状をリポートする。

2009年の選抜大会決勝で花巻東(岩手)を完封して、春夏通じて県勢初の日本一に輝いた清峰のエース今村=兵庫県西宮市、甲子園

 ■3冠は1校
 NHK杯と夏の同一校の優勝は20年間で6回。このうち3回は2014~16年の海星、創成館、長崎商で、現在は“都市伝説”ほどの印象はない。長崎商の西口博之監督は「NHK杯は夏の予行大会。勝ちにいくのは間違いない」、海星の加藤慶二監督は「NHK杯はテーマが第一。第二が結果で優勝していればいい、という感じ。夏はそれが逆転する」とそれぞれのスタンスを説明する。
 それよりも少ないのが、甲子園につながる秋と夏の“2冠”。新チーム始動後の秋、集大成の夏の同一校優勝は3回しかない。野球は元来、番狂わせが多い競技だが、秋の時点でそれほど力がなかったチームが、冬の地道なトレーニングを経て大きく成長できるということを示している。
 4大会をすべて制する“完全優勝”は20年間でゼロ。選抜大会出場校は春の県大会免除で九州大会出場となっているが、仮に参加していても実現していなかった。4大会中3大会を制したのも12、15年シーズンの創成館1校だけだ。
 この混戦状態を如実に表しているのが07年夏。優勝した長崎日大は前年秋から県内無冠で、NHK杯は県大会前の中地区予選1回戦で姿を消していた。準優勝も公立普通校の長崎北だった。
 この長崎日大が甲子園で快進撃を見せる。県勢過去最高タイとなる4強入りを果たした。スター選手が不在の上、突然浮上した特待生問題にも揺れながら、大舞台で結果を出した。当時のメンバーは「とにかくまとまっていた」と振り返る。

2007年にノーシードから長崎大会を制して夏の甲子園で県勢過去最高タイの4強に入った長崎日大の選手たち=長崎市、県営ビッグNスタジアム

 09年も興味深い。今村猛(広島)を擁する清峰が春の甲子園で県勢初優勝を飾ったが、夏の長崎大会は大瀬良大地(同)がエースの長崎日大が優勝。日本一のチームが県を突破できなかった。

 ■私立が優勢
 優勝校の公立と私立の割合は、昨秋までの81大会で私立が48回、公立が33回。大会別に見ると、春は私立9、公立11、NHK杯は私立11、公立9回と大差はない。だが、秋は私立14、公立7、夏も私立14、公立6回。甲子園につながる大会ほど、私立の強さが際立っている。
 全81大会で最多優勝を誇るのは、海星と創成館の12回。長崎日大が11、清峰が9、波佐見が8、佐世保実と長崎商が7回で続いている。過去20年間はこの7校が8割以上の大会を制してきた。
 これを過去10年間の41大会で見ると、構図が変わる。1位は創成館の11回。5大会以上を制したのは、7回の海星、5回の長崎商だけで、それ以外は11校が優勝を分け合っている。昨秋は大崎が決勝で創成館を倒して58年ぶりの頂点に。新たな風も吹き始めた。

 ■全国で勝つ
 混戦は面白くもあり、県全体の底上げにつながる。一方、09年春の清峰以来遠ざかっている甲子園の4強入り、特に夏の全国での県勢の低迷(過去10年で4勝)は大きな課題でもある。
 あくまで打率や本塁打数、防御率などの確率に基づくが、現状、県を制するためには守備力が大きな要因になっている。ただ、それが甲子園になると、県外の強豪校はその守備力を打ち砕いてしまうような攻撃力を備えている。
 県で勝つための守備力を持ち、全国で勝つための攻撃力も養う。甲子園で結果を出すためには、攻守のバランスをどれだけハイレベルでとれるかにかかってくる。
 ここ数年は、創成館が17年秋の明治神宮大会で大阪桐蔭を倒して県勢初の準V。18年春も甲子園で8強に入り、準々決勝で智弁和歌山と互角に打ち合った。昨年は海星が夏の甲子園3回戦で常連校の八戸学院光星(青森)にサヨナラ負けしたが、秋の茨城国体で夏の甲子園覇者の履正社(大阪)を破り、43年ぶりの準優勝を達成。前向きな材料は増えてきている。
 さらに昨秋は全校生徒約110人の公立の大崎が優勝すると、続く九州大会は長崎第2代表の創成館が4強入り。選抜大会出場権を手にして、県大会決勝で敗れた悔しさを晴らした。これは県全体がレベルアップしているという証拠であり、これからが楽しみな結果でもあった。

ここ10年間で県勢トップの成績を残している創成館。2018年選抜大会3回戦、智弁学園(奈良)戦でサヨナラ本塁打を放つ松山=兵庫県西宮市、甲子園

 ■努力継続を
 全国的な打高投低の流れを受け、バットの規制強化の話もある。この20年で清峰や佐世保実を甲子園に導き、現在は大崎を指揮する清水央彦監督は「そのタイミングは(全国で上を狙う)一つのチャンスかもしれない」と歓迎し、創成館の稙田龍生監督も「打てるにこしたことはないが、確率のスポーツ。計算ができる守備にはこだわり続ける」と力を込める。
 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、選抜大会に加えて春の県大会、九州地区大会、NHK杯も中止になった。夏の開催も不透明で、誰も経験したことがない不安な日が続く。
 このような状況下、現在の選手たちが心身両面でどれだけ自らを磨き続けられるかは大きなポイント。甲子園や勝利だけがすべてではないが、自主的な努力を継続したという経験は、卒業して競技を離れたとしても財産になるはずだ。後輩たちにも好影響を与えてくれるだろう。
 コロナ禍が終息したとき、再び球児たちが躍動して、多くの好勝負が生まれることを心から願っている。

過去20年間の高校野球主要長崎県大会の成績

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