藤岡弘、が撮影当時を語る!「高層の死角」「消えた巨人軍」など昭和を描いたミステリーが放送

藤岡弘、が撮影当時を語る!「高層の死角」「消えた巨人軍」など昭和を描いたミステリーが放送

AXNミステリーでは、サスペンスドラマの中からレジェンドとして今も語り継がれる名作や、再放送や配信の機会が少ないレアな作品など8作品を集めた「昭和スター出演 発掘! 蔵出しサスペンス特集」を5月に放送する。これに先駆け、「高層の死角」(NHK)と「消えた巨人軍」(日本テレビ系)に主演した藤岡弘、がインタビューに応じ、撮影当時を振りかえった。1977年に放送された「高層の死角」は森村誠一の江戸川乱歩賞受賞作を基にしたミステリー。刑事たちが高層ホテルの1室で起きた殺人事件の謎に挑む。78年放送の「消えた巨人軍」は、新幹線に乗った読売巨人軍の監督やコーチ、選手たち37人が岐阜鳥羽駅でこつ然と姿を消すという奇想天外なミステリー。長嶋茂雄や王貞治などが出演したことでも話題になった。

重荷に感じたけど、俳優として新しい挑戦ができた

── 今回、放送される2作品についてお話を聞かせてください。まずは、「高層の死角」からお願いします。

「『高層の死角』は思い出深い作品です。当時、僕は『仮面ライダー』(TBS系)に続いて、大河ドラマや『日本沈没』(73年)などの映画に出演しましたが、このドラマは森村誠一先生が江戸川乱歩賞を取った小説が原作ということで注目されていました。台本を読んですぐに引き込まれましたが、刑事たちが犯人の巧妙なトリックを一つ一つ崩していくだけではなく、僕が演じた平賀の彼女が犯人と関係があったという設定だったので、どう演じたらいいか悩みました。愛した女性が自分をだましていたというショッキングな状況に揺れ動く、若い刑事の心情を鋭くえぐっていこうという演出の狙いは見えていたけど、プロポーズまでした女性に裏切られるなんていうことは自分の歴史の中にはなかったので(笑)、どう演じたらいいか分からなくて。でも、悩みながら、考えながら演じたことが、そのまま画面に出ていい方向にいったのかなと思います」

── ご自身の苦悩が演技に現れていましたか?

「そうですね。犯人はすごく狡猾(こうかつ)で、僕たち刑事は冷静にそのアリバイを崩していかなければいけないのに、『恋人が俺を裏切っていた』という気持ちが邪魔をする。これが自分だったら冷静ではいられないと思いましたね。気持ちの抑え方がキーポイントになるので、大事にしなきゃと思いました。その抑えに抑えていた気持ちがクライマックスで爆発するのですが、僕はそこが大好きでした。怒りの持って行き場がなくなった時の、素直な感情の現れだと思えた。とても納得のいくシーンでしたね。『高層の死角』をきっかけに、繊細な内面を表現する演技を求められるようになりました。それまでは安易な演技でも許される部分があったけど、これ以降、表現者として高い要求をされるようになったように思います。当時、まだ30代前半で重荷に感じましたが、繊細でシビアで知的なクールさを求められて、俳優として新たな挑戦ができた。特別な作品になりました」

── 翌年、「消えた巨人軍」が放送されました。

「長嶋さんが選手を引退して数年後に撮影したドラマです。当時はプロ野球が大人気で、特に長嶋さんからは夢や元気をもらったという人が大勢いた。その長嶋さんや、ほかの巨人の選手がドラマに出演しているという画期的な作品です。これは歴史に残るなと思いましたよ。僕の役は、新婚旅行先で巨人軍の監督や選手たちが行方不明になるという事件に、偶然遭遇する刑事の役。水沢アキさんが演じる妻とのやりとりがコミカルで、視聴者の皆さんも面白かったんじゃないかな(笑)。水沢さんの明るさが、よかったですね」

── 藤岡さんが演じた左文字進はアンチ巨人でしたが、ご自身はプロ野球はお好きでしたか?

「実は当時は野球はあまり見ていなかったんですよ(笑)。俳優としてこれからどうしていくのかで頭がいっぱいで、時間があれば武道場とかトレーニング場に行って体を鍛え、自分自身を作り上げていこうとしていました。ほかに安心できる場がなかったんですね。精神と心と体を鍛えることで、ちょっとした安心感を得られたというか、ここまでやっているんだから大丈夫と思えた。あとは本を読んだり映画を見たりして自分の蓄積を作っていくことにエネルギーが向いていました。自分は田舎から出てきたたたき上げだったので、足りないものが多すぎて、みんなに追いつくためには、もっともっと自分を高めなくてはと思っていましたね」

── 今回の放送で、この2作品を初めて見るという視聴者も多いと思います。どんなところに注目して、ドラマを見てほしいですか?

「当時の人たちの真剣な生きざまは見応えがあると思います。昭和の日本人の仕事に対する真剣さや細やかな心情を感じながら、今とは違ってパソコンも便利なアイテムもない時代に、電話や時刻表を使って事件を解決していくミステリーの面白さを楽しんでいただけたらうれしいですね。作風としては対照的ですが、この2作を見ると当時の日本の状況がよく分かると思います」

【プロフィール】


藤岡弘、(ふじおか ひろし)
1946年2月19日生まれ。愛媛県出身。1965年、映画「アンコ椿は恋の花」でデビュー。71~73年放送の「仮面ライダー」の本郷猛役で一躍スターに。スタントを使わず、アクションシーンも自ら演じるアクション俳優として映画界を牽引。ハリウッド映画「SFソードキル」(84年)の主演に抜てきされ、日本人として初めて全米俳優組合(スクリーン・アクターズ・ギルド)のメンバーになる。また、国内はもとより、世界数10カ国の紛争地域や難民キャンプで救援や支援活動を行なってきた。NHK大河ドラマの「勝海舟」「春日局」「真田丸」、「特捜最前線」(テレビ朝日系)などのドラマ、「野獣狩り」(73年)、「大空のサムライ」(76年)、「K2/ハロルドとテイラー」(91年)などの映画に出演。

【番組情報】


「消えた巨人軍」
AXNミステリー
5月10日 午後11:00~深夜4:15(全5話/一挙放送)

刑事の左文字進(藤岡)は先輩である矢部警部の娘・史子(水沢)と結婚。2人は新婚旅行のために、東京駅から新幹線ひかり号に乗るが、同じ列車に乗り合わせた読売巨人軍の監督と選手たちが、岐阜鳥羽駅で姿を消してしまった。西村京太郎原作。

「高層の死角」
AXNミステリー
5月22日 午後11:45~深夜1:00

刑事の平賀(藤岡)は、高層ホテルの1室で起きた殺人事件を捜査することになるが、被害者は平賀の恋人・冬子が勤める有名ホテルの社長だった。捜査が進むに連れ、冬子の意外な一面が明かになっていき、平賀は職責と愛の間で苦悩する。

取材・文/青木純子

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