【漫画に憧れて立候補した政治家も多数】「島耕作シリーズ」の弘兼憲史氏が描きたかった政治家の日常 (中)

(※2016年6月22日に公開したものを再掲載した記事です)

【漫画に憧れて立候補した政治家も多数】「島耕作シリーズ」の弘兼憲史氏が描きたかった政治家の日常 (上)は こちら

一生懸命働いているところは報道されない

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【松田】
私は1980年生まれですが、政治家というと、リクルート事件の印象もあって「悪いことをしてお金を儲けている」という偏ったイメージを持っていました。でも、『加治隆介の議』を読んで、普通に食事したり恋愛したり、生きている人間としての政治家がものすごくリアルに描かれていて、イメージが変わりました。そういう人間的な部分はテレビのニュースからは入ってこないところですから。

【弘兼先生】
政治家って、きちんと一生懸命働いているのに、働いているところは報道されないですよね。議員の方たちは夜中でも議員宿舎で勉強したり仕事したりしています。以前、私が深夜、永田町付近のコンビニに立ち寄った時に議員がいるので挨拶をすると「勉強中で夜食を買いにきました」と話す議員もいました。

しかし、そういう話は全然報道されないので伝わらない。ときどき宿舎に連れ込むけしからん人ばかりが表に出るから、「議員なんてみんないい加減だな…」となってしまう。確かにいい加減な人もちょっとはいるけれども、大半は結構しっかりしています。

【松田】
私もこの仕事をさせていただいて、イメージがガラッと変わりました。真面目に一生懸命、日本や地域の未来のために働いておられる政治家がたくさんいらっしゃいます。あと、儲からない仕事なんだなと(苦笑)

【弘兼先生】
儲からないですよ。儲けるなら他の仕事をしたほうがいい(笑)。確かにいっぱいお金は入るけれど、その分出ていきますよ。議員会館だけでなく、地元にも事務所を持ち、そこで働く人たちに給料を払わないといけない。選挙のときだって、選挙カーを借りる費用、印刷代、うぐいす嬢に支払うお金など…。とにかく選挙・政治活動にはお金がかかります。

 

有能で醜穢よりも、無能で潔白を求める

【松田】
日本は政治家のプレゼンスが低いですよね。責任や権限の範囲でいうとすごく大事な仕事をしているのに、正当に評価されていないと感じていますので、選挙ドットコムではそこをしっかり発信していきたいです。

この加治隆介の中に、「日本人は“仕事ができて国益にかなうけれども倫理的に問題がある政治家”よりも“無能であっても清廉潔白な政治家”を求めがちな国民性だ」ということが、描かれていますが、今まさにそんな感じですよね。

【弘兼先生】
過去の例でいえば、田中角栄元首相と美濃部東京都知事。美濃部さんは公営ギャンブルを廃止しましたが、都政における経済のやりくりができなくなってガタガタになったわけです。今の東京ドーム周辺は、昔は競輪場でした。

一方、田中角栄さんは、金権政治で賄賂をもらい派閥をつくって総理大臣になったかもしれないけれど、日本はどんどん右肩あがりで経済はすごく活性化していた。もちろん、汚職はいけないですが、どちらが国民のためになったかというと、美濃部さんより田中角栄さんの方だったという人も多く、最近は田中角栄待望論というのがありますね。

悪いことはやっぱり悪いですから、それを見逃せというわけではありません。ただ、清廉潔白でやってしまうのも、必ずしも正しいとはいいきれないと思います。

例えば、低所得者層を厚く支援するために企業に対して厳しくすると、今度は企業が儲からなくなり、その下請け、孫請けに仕事が来なくなる…。一方だけを手厚くすると一方が倒れてしまいます。格差をなくすというと聞こえはいいですが、その判断をどうするのかということが重要です。

また、待機児童の件で「日本死ね」と言う人がいましたね。それだけ精神的に追い詰められていたのだと思いますが、冷静に考えれば、日本が死んだらあなたの家族も死んでしまうわけです。

日本死ね、という言い方は、待機児童のことさえよければ他はどうでもいい、という非常にバランス悪い言い方だと思います。そうではなくて、日本も生きなきゃいけない。でも、マスコミは、ただ怒りの声だけを報道して、そういうバランスの悪さは指摘しないですよね、炎上しますから。

 

日本には「謝罪を求める文化」がある

【松田】
確かにそうですね。あと加治隆介の中にも出てきますが、このところ政界周辺では不倫問題が騒がれました。

【弘兼先生】
フランスやイタリアとかは、政治家の不倫はあまり気にしないですよ。何しようがきちんと政治をしてくれればプライベートはいいじゃないの?と。日本は謝罪をさせるという文化があるけれど、人に謝罪を求めるという言い方はおかしいと思います。

この前も広島の市長が、「オバマさんには謝罪を求めません」と言っていましたが、そもそも喧嘩をしかけたのは日本なのでそれは当たり前のこと。謝罪を求めたら、喧嘩をしかけた側が、ひどく殴られたから謝れ!といっているようなものですよ。

諸説ありますが、アメリカからすれば宣戦布告なしに真珠湾を攻撃したのは日本なので、確かにやり過ぎたかもしれないけれど謝ることはないだろう、という立場は理解できるわけです。「謝罪をもとめる」という、中国や韓国の言い方に習うのはよくないと思いますね。

でも、昔、学生運動をやっていた発信力の強い人たちが新聞社などのマスコミに入ることが多いので、左翼的な論調でパーンと書いてしまう…。だから、そのマスコミに世論がかなり引っ張られてしまいますね。

弘兼憲史先生インタビュー(下)に続く

 

―――弘兼憲史先生 プロフィール―――
1947年生まれ。早稲田大学第二法学部在学中に漫画研究会に所属。卒業後は、松下電器産業(現パナソニック)に入社し広告宣伝部に勤務。退社後、「風薫る(1974年ビッグコミック掲載)」でデビューし、人間模様を描いた短編シリーズ「人間交差点」が高く評価されたことで人気が上昇。代表作に「島耕作』シリーズ」「ハロー張りネズミ」「黄昏流星群」などがあり、2007年には紫綬褒章を受章している。

―――松田馨プロフィール―――
1980年広島県生まれ。2006年の滋賀県知事選挙以来、地方選挙から国政選挙まで幅広く実績を積み、2008年6月に選挙コンサルティングの専門会社「株式会社ダイアログ」を設立。 国政選挙の当落予想をはじめ、「日本最年少選挙プランナー」「無党派票を読むプロ」としてマスコミに多数取り上げられる。一般社団法人 日本選挙キャンペーン協会理事・事務局長。日本選挙学会会員。

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