魅せる“ペップ流”勝負服 英国紳士も熱視線、指揮官グアルディオラ「拘りのスタイル」とは

マンチェスター・シティを率いる“ペップ”ことジョゼップ・グアルディオラ。3月に刊行された書籍『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』(ソル・メディア)によると、彼はファッションに対しても“ペップ流”を徹底しているという。メディアからも「スマートカジュアルの見本」と称される彼の勝負服にも注目しながら、フットボールにおいてもファッションにおいても強いこだわりを持つ彼のブレない“スタイル”を紐解く。

(文=山中忍、写真=Getty Images)

ファッションにも“ペップ流”のスタイルを徹底

唐突だが、日本の皆さんは『ピーキー・ブラインダーズ』というドラマをご存知だろうか? 主演のキリアン・マーフィーらが、第一次世界大戦後の英国に実在したギャング一族を演じるBBC制作の人気シリーズだ。マンチェスター・シティで、“ペップ”ことジョゼップ・グアルディオラ体制が始動したのは2016年7月。同番組は、その前月にシーズン3が終了していたが、翌年に放映されたシーズン4は、マンチェスターの旧工業地帯がロケ地となってもいた。

シティの指揮官もこのドラマに興味を持っていた様子。『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』では、「『ピーキー・ブラインダーズ』の登場人物がかぶっているような帽子」を求め、クリスティーナ夫人には内緒でショッピングに繰り出すエピソードが、第4章「ペップのハンチング帽」の中で紹介されている。グアルディオラは、買ったばかりの帽子をかぶって帰宅。手にした買い物袋には、さらに予備用が2つ。サイズ「60.5センチ」の頭にぴったりのハンチング帽は、敬愛して止まない恩師のヨハン・クライフが、生前にクライアントだったこともある老舗のあつらえ品であることからも、お気に入りのアイテムなのだろう。

既製品には手を出さなかったように、チームに“ペップ流”のスタイルを徹底する指揮官は、自身のファッションにもうるさい。過去に、プレミアリーグでの就任が騒がれた大物監督は他にもいるが、『GQ』のようなライフスタイルマガジンで、「プレミアが世界一スタイリッシュなリーグになる」と評された新監督はグアルディオラぐらいだ。当人は、「トレンドセッター? 自分が?」と言うが、サッカー好きなイングランドの男性諸氏は、クラブの垣根を超えてシティ指揮官の愛用アイテムに興味を示す。

対戦相手に求められた“異例の”ユニホーム交換

2018年1月には、リーグカップで対戦したブリストル・シティ(2部)の選手から、ユニホームとブラックのジャケットとの交換を求められたこともある。報道によるとリクエストは却下。その理由には、まだシーズンが後半戦に入ったばかりというタイミングもあったのかもしれない。グアルディオラは、試合当日のファッションにもこだわる。アウターは、シーズンを通しての定番アイテムが存在する。チームのジャージやスーツではなく、私服でテクニカルエリアに立つ指揮官にすれば、独自のユニホームのようなものだ。

シティが、シーズン終盤まで国内外4冠の可能性を残していた昨季は、グアルディオラの「ラッキー・ジャケット」が注目を浴びた。著者で親交の厚いル・マルティンいわく、「グアルディオラ家ではクリスティーナ夫人がファッションの権威」になるが、彼女が祖国スペインのバルセロナで経営するブティックには、カシミヤと羽毛のグレーのジャケットに関する問い合わせが殺到したという。「ハズバンド兼モデル」が試合日にまとい続けた1着は、ベンチ前で何度も足元に叩きつけられたりもしたのだが、チャリティーを目的としたオークションの人気アイテムとしてシーズンを終えている。

もちろん、上着以外もメディアで「スマートカジュアルの見本」と褒められる。昨季一つ目のタイトル獲得が実現したリーグカップ決勝は、PK戦の末にチェルシーを下した試合自体は僅差の戦いでも、監督の“ファッション対決”はシティの圧勝だった。相手は、マウリツィオ・サッリ(現・ユベントス)。グアルディオラが、相通じるサッカー哲学の持ち主として一目置く指導者だが、両者の着こなしには共通点など見られない。チェルシーの指揮官は、スポンサーであるナイキ製の青いジャージが、大衆紙の表現を拝借すれば「かっぽう着」のよう。対するシティ指揮官はというと、上はスリムフィットなグレーのセーター、下は細めの黒いパンツ、足元は皮のアンクルブーツで決めていた。

前年の決勝では、シティのサポーターたちが、監督と同じアイテムを身につけてウェンブリー・スタジアムに集結している。もっとも、ファッション・ステートメントなどではなかった。本書の29章「ペップの黄色いリボン」にあるように、グアルディオラの胸にあった輪状のイエローリボンは、スペイン人指揮官の故郷、カタルーニャ州の独立運動を推進する政治家たちへの支持と、彼らを投獄した祖国政府に対する抗議のシンボル。シティをサポートするイングランド人にすれば、まったくの他人事であってもおかしくはないのだが、指揮官との結束のシンボルとしてイエローリボンをつける呼びかけがファンの間で起こったのだった。本人も、「スタンドの光景を目にして心の絆を感じた」と、“フォロワー”たちへの感謝を口にしている。

トレンドを生む、先頭を切る姿が似合う男

プレミア監督界の同僚たちにもまねてもらいたい点があるとすれば、それは、グアルディオラが下部リーグ勢との対戦で見せる配慮だろうか? 昨年1月、ロザラム(2部)とのFAカップ戦では7-0、バートン(3部)とのリーグカップでは合計10-0と大勝している通り、ピッチ上では格下にも手加減なしでリスペクトを示す一方、ピッチ外では情けをかけるのだ。しかも、ふんだんに。

例えば、昨年のニューポート(4部)とのアウェイゲーム後。FAカップで訪れたロドニー・パレードは、選手全員の評価額が1000万円にも満たないクラブのホームで、収容人数も8000人未満の小さなスタジアム。ただでさえ、この国ではアウェイチーム用の控え室は最低限の作りが常識だ。シティが充てがわれた空間は、エティハド・スタジアムのロッカールームとは比べ物にならない狭さだったに違いない。にもかかわらず、グアルディオラとその一行は、勝利という仕事を終えた途端に立ち去りはしなかった。監督から選手の家族までホーム陣営を控え室に招き入れ、十二分に歓談の時間をとってから会場を後にしたのだった。

逆にグアルディオラが、イングランドの「粋な伝統だと思う」としてフォローしている試合後のしきたりもある。ホームチームの指揮官が、相手監督とワイングラスを傾けて語り合うひと時だ。毎回実現するわけではないのだが、エティハド・スタジアムの監督室には、試合後の歓談に備え、良質のワインに冷えたビール、そして生ハムや寿司が必ず用意されているという。

「試合前に招待しておくんだけど、実際に顔を出してもらえた時にはうれしい」と語るシティ指揮官が、お気に入りの歓談相手に挙げている1人が、昨季はプレミアにいたカーディフのニール・ウォーノック前監督。「ちょっとしたワイン通でもある彼が、『リバプールに勝ってシティの優勝に力を貸すことになったら、もう何本か頂戴しようか』と言うので、『勝ってくれたら、ケースごとどうぞ』と伝えたら、カルドゥーン(アル・ムバラク会長)が会話に加わって、『引き分けならワイン用のぶどう畑をプレゼントしますよ。勝ったら醸造所もつけましょう!』と言っていたよ」と、グアルディオラが回想している。

実際には、昨季優勝争いの終盤でカーディフの力を借りることはできなかった。しかし、シティは14連勝のラストスパートという自力でリバプールとのデッドヒートを制し、FAカップ優勝でシーズンを締めくくってみせた。イングランドで前例なき国内3冠を成し遂げた指揮官は、それから3カ月足らずで、またしてもプレミア監督陣の先駆けとなっている。これはトレンドになってしまっては困るのだが、今季からトップリーグでも導入を見た、監督へのカード提示の事例第1号となったのだ。第4審判への猛抗議に対する警告は、PK戦の末にリバプールに勝利したコミュニティシールドでの出来事。さほど勝ち負けにはこだわらない監督もいる開幕前哨戦でさえ、完璧な本気モードでイエローをもらうあたりも、やはり「スーパーチーム」作りにまい進する指揮官らしい。ハンチング帽やスマカジもお似合いのグアルディオラとは、つくづく、先頭を切る姿が似合う男である。

<了>

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