新型コロナウイルス:感染者が10万人を超えたブラジル ホームレスや移民を支える

新型コロナウイルスの感染者数が10万人を超え、死者数が7000人を超えたブラジル(2020年5月4日時点)。国境なき医師団(MSF)は、国内最大の都市サンパウロを中心に、ホームレスや移民など弱い立場に置かれた人びとへの援助を行っている。 

サンパウロでMSFプロジェクト・コーディネーターを務めるアナ・レティシア・ネリー © Andre Francois / MSF

サンパウロでMSFプロジェクト・コーディネーターを務めるアナ・レティシア・ネリー © Andre Francois / MSF

国内で割れる意見

新型コロナウイルスの感染を防ぐために重要とされる、人と人との距離の確保(ソーシャル・ディスタンシング)。ブラジルでは、この必要性について行政機関の間で意見が分かれ、大きな議論となっている。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行している国々の事例から、人と人との物理的な距離が大切であることは分かっています」とMSFブラジル事務局長アナ・ジ・レモスは話す。

「伝染の速度をできる限り遅くさせ、それにより、病院に運び込まれる重症患者の数を減らすことが重要です。感染症の流行への対応には明確な方針が肝心なのですが、残念ながら国内の指針が混乱したままで、必要な対策を実践することが難しい状況です」 

都市のホームレスを診察 サンパウロでの活動

MSFはサンパウロで4月上旬に活動を開始。ホームレスや移民、難民、薬物依存者、高齢者など、新型コロナウイルスの流行以前から弱い立場に置かれている人びとに援助を届けている。

緊急対応チームは、新型コロナウイルスへの感染が疑われる人を診察で見つけ出すとともに、容体の悪い人たちを病院に引き継いでいる。また、市内の路上生活者を担当している地元当局や組織と連携し、衛生対策の情報提供も行っている。

「路上で過ごしている重症者の発見が手遅れになれば、そのまま亡くなってしまいます」サンパウロでMSFプロジェクト・コーディネーターを務めるアナ・レティシア・ネリーは話す。

さらにMSFは、ホームレスの人びとが暮らすシェルターや食料配給所において、保健医療従事者にマスクなど個人用防護具の正しい使い方も研修している。 

サンパウロでホームレスの人びとを診察 © Andre Francois / MSF

サンパウロでホームレスの人びとを診察 © Andre Francois / MSF

ベネズエラからの移民を支える ボアヴィスタでの活動

ベネズエラと国境を接する、ブラジル北部のロライマ州。ベネズエラからの移民や庇護希望者が多い地域だ。MSFは州都ボアヴィスタで、このような人びとを対象に活動を行っている。

MSFチームは移民が暮らす非公式のシェルターを定期的に訪問。正規の保護施設は住環境も衛生条件も適度に維持されているものの、収容人数は約7000人と限られ、入居できない人が大勢いる。そのような人びとは、非公式のシェルターなどの場所で過ごすが、過密状態で上下水道や電力も整っていないことが多い。さらに、路上で生活する移民も少なくない。

MSFはこのような非公式のシェルターで、住民に衛生対策や、人との距離を取ることの重要性について伝えている。また、関連機関と連携し、公式・非公式のシェルターへの給水活動を拡大し、衛生キットの配布も行っている。

ボアヴィスタのMSFプロジェクト・コーディネーターであるマイケル・パーカーはこう話す。「新型コロナウイルス感染症が世界的に流行する前から、ロライマ州の保健医療は既に薄氷を踏むような状態で、今はそれがさらに悪化しています。この感染症と他の病気が地域の保健医療にもたらす負担を、少しでも軽くできるよう活動しています」

さらに今後MSFは、州政府が感染症患者のために設置した野外病院で勤務予定の保健医療従事者に、感染予防・制御策の研修を提供していく。 

サンパウロで活動にあたるMSFスタッフ © Andre Francois / MSF

サンパウロで活動にあたるMSFスタッフ © Andre Francois / MSF

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