転勤の多い40代夫婦「老後は賃貸と購入、どちらがいい?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、子どものいない40代夫婦。転勤が多いためどこに住むかは決まっていないものの、老後の住まいを賃貸にするか購入にするか悩んでいるといいます。FPの渡邊裕介氏がお答えします。

老後の住まいを賃貸にするか、購入するかで迷っています。転勤族のため、どこに住まいを構えるかはまだ決まっていませんし、転勤するたびに妻は赴任地で職探しをしているので無職の期間が発生することもあり、収入は不安定です。現在の妻の年収は150万円ほどですが、30万円になるときもあり、扶養に入ったり出たりしています。

また賃貸にしても購入にしても、老後にどの程度を住居費として準備したらいいのでしょうか。その際、妻の収入はあまり見込まないようにしたいです。公的年金は月23万円、企業年金は月8万円(10年間)、退職金は1500万円の見込みです。老後は都会で過ごす気はありません。アドバイスよろしくお願いします。

<相談者プロフィール>

・男性、46歳、既婚(妻:42歳)、子どもなし

・職業:会社員

・居住形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:43万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:170万円

・毎月の世帯の支出目安:27万円

【支出の内訳】

・住居費:7.7万円

・食費:6万円

・水道光熱費:1.2万円

・教育費:なし

・保険料:0.5万円

・通信費:2.1万円

・車両費:1.5万円

・お小遣い:7万円

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:貯金3万円、投資積立などに13万円

・ボーナスからの貯蓄額:170万円

・現在の貯蓄総額:2000万円

・現在の投資総額:株1500万円、投資信託3000万円、国債500万円

・現在の負債総額:なし


渡邊:こんにちは。ファイナンシャルプランナーの渡邊です。老後の住まいを賃貸にするか、購入にするか、また、老後にどの程度住居費として準備した方がいいのかについてのご相談です。

ご相談者は、夫婦共働きでお子さまがいらっしゃいません。その中で、派手に使ってしまうことなく、着実に貯蓄や運用をされており、ここまでしっかりと資産形成できているようです。現在、夫46歳、妻42歳と、リタイアまで20年程度あるので、ここからさらに貯蓄を増やしていくことも可能でしょう。

将来のために貯蓄するのも重要ですが、どう「使う」かも生活を豊かにするためには重要です。老後の住まいについて「賃貸」or「購入」を検討するのと合わせて、どういった生活を送りたいのかについても考えていきましょう。

まず、住宅について賃貸と購入のそれぞれのメリット・デメリットについてみてみましょう。

賃貸、購入それぞれのメリット・デメリット

<賃貸のメリット・デメリット>
【メリット】
・家族構成や仕事での転勤など、ご自身をとりまく環境の変化により、その都度引越しをすることが可能
・年収の変化に合わせて、家賃の高いところや低いところへ住み替えることが可能
・住宅ローンがないので、破綻するリスクがない
【デメリット】
・家賃を払い続けなければはならない
・高齢になると借りられる物件が限られてくる

<購入のメリット・デメリット>
【メリット】
・マイホームを持つ充実感・満足感がある
・自分の理想の間取りにリフォームすることが可能
・住宅ローンを組むと団体信用生命保険に加入するので、万が一の時に住宅ローンの支払いがなくなる
・住宅ローンを完済すれば、住み続けることができる
【デメリット】
・簡単に住み替えができない
・多くの場合、住宅ローンを組むので負債を抱える
・頭金や諸費用など手元資金が少なくなる

ご相談者は十分な手元資金もあり、リタイアに向けてさらに増やすことも可能です。住宅ローンを組まなくても購入できるだけの資金を準備することができ、リタイア後に賃貸と購入どちらも選択できる状態であるといえます。

リタイア後の住居費以外の生活費を確保した上で、どれくらい住居費にまわせるのかについて考えてみましょう。

住居費以外に必要な老後の生活費は?

現在は転勤が多く、色々な地域に住んでいるようですので、リタイアまでに老後住むにあたって理想のエリアが見つかれば、そこで検討することになると思います。都会に住む選択肢は考えられないということですので、今よりも生活費が高くなることはあまり考えられないでしょう。

現在の住居費以外の生活費が月々約20万円です。公的年金が月23万円受け取れるのであれば、年金の範囲内でも十分生活できることになります。今よりもゆとりを持たせて、月30万円で考えたとしても、企業年金がある10年間は資産を取り崩すことなく生活できます。

10年経過後75歳から、生活費月30万円で、仮に100歳まで生きると仮定すると、公的年金との差額の月7万円×12ヵ月×25年=2100万円となります。すなわち、住居費以外に2100万円程度手元に残しておけば、生活できることになるので、少し余裕を持たせても生活費として3000万円確保していれば十分でしょう。

老後の住居費にいくら費やせる?

ここで、65歳時点での貯蓄について考えると、仮に奥様の収入がまるまるなかったとしても、単純計算で、年間200万円は貯蓄できそうなので、60歳までの18年間で3600万円を積み上げることができます。

60歳以降は、継続雇用や嘱託などで収入が下がるケースが多く、その場合、仮に収入と生活費でトントンだとしても、現在の貯蓄と退職金とを合算し運用を加味せずに1億2100万円の手元資金が準備できる計算となります。住居費以外の生活費3000万円を差し引くと、約9000万円が老後の住居費に費やせることになります。

老後の住まいの「3つの選択肢」

これらを加味した上で、ご相談者が取りうる老後の住まいの選択肢は大きく3つです。

1.手元資金を潤沢に賃貸に住む
老後も色々な地域に住みたい、あるいはその地域が肌に合わなかった場合に、転居する選択肢を残しておきたい場合は、手元資金を潤沢に残した上で賃貸に住むというのもアリでしょう。注意点は、賃貸のデメリットにも記載したように、高齢者になると借りられる物件が限られてくるのと、介護や夫婦のどちらか一人になった時の対応です。

2.住みたい地域と理想の家が見つかれば購入
老後までに住みたい地域や理想の家が見つかれば、購入するのもよいでしょう。ローンを組まなくても購入できるだけの資産はあるので、固定資産税などの税金やリフォーム資金だけ考えておけば、ずっと住み続けることができます。ただし、住み慣れた街でないと、合わなかった場合に転居がしにくいなどのデメリットもあるので、最悪貸せるようなマンションや、売却しやすい物件を選んだほうがよいかもしれません。

3.有料老人ホームなど高齢者向け施設を利用
お子さまがいないので、特に資産として残す必要もなく、介護状態になった場合や夫婦どちらか一人になった場合のことを考えて、介護付きの有料老人ホームなどを利用するのもひとつです。施設によって、入居の際の一時金や月々のコストも異なりますが、それなりの手元資金があれば十分選択肢として考えてもよいでしょう。注意点は、ご自身のこれまでの生活スタイルや生活レベルに合った施設を選ばないと、入居者同士の交流でストレスを抱えてしまうケースもあるので、どういった層の方が入居しているかの下調べは重要です。

有意義な生活を送るためには「貯める」だけでなく「使う」も考えて

ご相談者の場合は、今の生活を考えると、あまり資金的な不安はしなくても大丈夫のようです。それよりも、今後どのような生活を送りたいか、リタイア後の生活を具体的にイメージするのが重要です。

今我慢している趣味や将来やりたいことなどはないでしょうか。ぜひ、将来に備えて貯めることだけでなく、どう使うのかについても考え、理想の生活を実現していただきたいと思います

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