【津川哲夫の幻の2020F1メカ私的解説】メルセデス新型W11の消えたトーションバー。気になる今季のコンセプト変更

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 さて、未だレースを走る2020年の新型F1にはお目にかかれない日々が続いているが、そんな今だからこそ、いざ開幕のためのノウハウをしっかりと予習・復習しておこうではないか。前回はメルセデスW11に搭載された新機構DAS(デュアル・アクシス・ステアリング/2軸ステアリング)の話しをしたが、この機構は来シーズンからは禁されたあくまでも開発実験、つまりはエクスぺリメンタルと言うことで深追いはやめ、今回はより現実的な機構、W11のフロントサスペンションを覗いてみよう。

 ちょっと見では解り難いのだが、メルセデスW11は昨年型のW10からサスペンションは大きなコンセプト変更がされている。特にその変更が顕著なのがフロントサスペンションだ。

2020年型メルセデスW11のフロントサスペンション部

 フロントサスペンションの構成は一見ロッカー(2)やヒーブユニット(4)の配置と形状、ロールロック・ロッカー(3)等も見た目は大きく変わったようには思えないかも知れない。しかし、目を皿にして見つめると実に大幅な変更がされている。

 W11とW10を見比べて、注目すべきはW11のロッカーの回転軸(1)だ。左右とも、回転軸に普通ならあるべきトーションバー(A)が存在しない。

2020年型メルセデスW11のフロントサスペンション部

 W10では右側だけに一本のトーションバー(A)があり、ライドハイトを担うプレロードを受け持っていた。これは左右のロールロッカーの先端をロックタブ(10)で結び、ロールを完全にロックしていたのでシングル・トーションバーで済ませることができたが、W11ではこれさえ消滅しているのだ。

 通常トーションバーがなければ、それに変わるスプリングがあるはずだ。でも、どこに? 

 旧式な方法ではロッカー先端を結ぶヒーブユニット(4)にスプリングを履かせ、言わばモノスプリングとして使う方法があった。ロールをさせなければ決して悪い方法ではない。

 W11のヒーブユニットはW10での完全油圧ではなく、ごく普通の傘スプリングを使ったヒーブユニットに変更されている。もちろんこれに油圧ダンパーが組み込まれ、イナーター等の効果も仕組まれているようだ。

 それでもこのヒーブユニットがモノスプリングユニットとはいまいち信じ難いのだが、フロントサスペンションは現在ではほとんど可動ストロークを持たず、ソリッドに近いのでまあ考えられないことではない。

 ヒーブユニットの傘スプリングは枚数が多くスプリングレートの高いアウターシリンダー(5)と枚数が少なくスプリングレートの低いシャフト部(7)にわかれ、そのスプリングシート部(6)は位置調整が可能のようで、モノスプリングならばこれでプレロード調整は可能だ。

 さらにユニークなのはW10ではロールフォースは左右のロールロッカーの先端を結ぶロールロックタブによってロールを完全にロックしていたこと。だが、W11ではこのロックタブ(10)の寸法が長くなり、またロールロッカーとロックタブのジョイント部におそらくラバーまたはシリコンラバー等の材質と考えられるブッシュ(8)が装着され、タブのマウントホール(9)はオーバルとなっていた。

 つまり、わずかだろうがロールフォースをこのラバー(8)と楕円ホール(9)のゆとり分、ロールが許容されているということ。したがって、長くなったタブ(10)はもはやロールロックタブではなく、ロールリンクと言うことなのだろう。

 さらに右側のロールロッカーの後方にはもうひとつのロッカー(11)が隠れていて、これは左側にはない。

 と言うことは、この隠れシングルロッカーにはおそらくロールダンパーの装着が考えられる。ただし予想に反して、ロックタブがきっちりとロールロックをしていたとしたら、この隠れロッカーの下方になんなんらかの方法でシングル・トーションバーの存在も考えられるが、それにはさらなるロッカー機構が必要で、大きなメリットはなさそうに思える。

 わずかなロールの許容とロールダンパー(?)の装着、油圧式を捨ててオーソドックスなヒーブユニット搭載・・・DASの開発を含めて、パワーユニットによるパワーアドバンテージを失ってきたメルセデスは、これまで巨大なダウンフォースを重視した挙動制御ではなかった。2020年の新型メルセデスW11ではフロント、そしてリヤタイヤを効率良く使うために新しいサスペンション、そしてジオメトリーコンセプトに挑んだのかもしれない。

 追いつめられたメルセデス、このフロントサスペンションでどんな底力を見せてくれるのか・・・早く見たいものである。

昨年2019年型メルセデスW10のフロントサスペンション部