原油価格マイナスは再来するか そもそも「マイナス価格」ってどういうこと?

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先月ニューヨーク市場で原油先物が一時マイナス40ドルで取引された(Goodpics/stock.adobe.com)

4月20日の朝のニュースを見て首をひねった人は多かったかもしれない。「ニューヨーク市場では原油先物が一時マイナス40ドルで取引された」というのが、大きなニュースになっていた。新型コロナウイルスの影響で原油価格が下がっているとは聞いていたけれど、価格がマイナスってどういうことだろう。そもそも、新型コロナの影響は原油価格にどうして影響するのだろう。それに原油先物って原油価格のことなの? そう思った読者には、この言葉を贈ろう。「いい質問ですね」

コロナ前から下落は始まっていた

新型コロナの影響が欧米で顕著に広がる前から、原油価格は下落が始まっていた。原油相場は上下するので、下がったときは減産によって価格を引き上げるのが通例だ。だが今回は、中東の産油国などで構成する石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国は3月上旬に協議したが、減産で合意できなかった。これで供給過剰になるとの見方が広がり、年初には1バレル(約159リットル=樽の大きさに由来)が60ドル台だった原油価格は30ドル台前半と、ほぼ半値に下落した。主に大規模な産油国であるサウジアラビアとロシアが対立したとされている。

そうするうちに新型コロナの影響が欧米に拡大。3月中旬には欧州各国で外出禁止や都市封鎖「ロックダウン」の動きが広がった。それがさらに、産油国でもあり大量消費国である米国に広がると、一段と原油の供給過剰が問題になる。大量の人を投入する工場がストップし、自動車や飛行機といった石油系燃料を使う乗り物での人の移動で急減した。4月に入ると世界の石油需要は日量2400万バレル減ったとの試算(英調査会社FGE)もあった。実に世界の総需要の約4分の1に相当する需要減だ。5月中にも世界中の石油貯蔵施設が満杯になると計算された。

4月13日にOPECとロシアなど主要産油国は結局、日量970万バレル超という、過去にない大規模の減産を合意。米国やカナダなどの減産も含めると日量1500万バレルという史上最大の減産による供給調整になる。だが、これを大きく上回る規模の需要が減少しているのだから、原油価格の下落は止まらない。しかもOPECなどの減産は5月1日からと合意したため、一時的な原油の余剰感が高まったとの見方も一部で出たという。そこで「原油価格マイナス」の4月20日に向けて、原油安が加速したというわけだ。

商品を手渡すとともにお金も払う

ところで「価格がマイナス」というのは、どういう状況か。普通はお金を払うと商品を受け取ることができる。お金と商品を交換するのが「価格がプラス」ということだ。この「交換」のうち、お金の流れだけが逆になるのがマイナス価格だ。つまり売り手は商品を手渡すと同時に、お金も払う。買い手は商品もお金も両方受け取る。なぜ、こんなことが発生するのか。

普通に考えれば、売れない商品は処分する。だが残念ながら原油は、そのまま流したり、燃やしたりすると環境汚染につながるので、勝手に処分できないのだ。だから仕入れた分を全部、売り切る必要がある。原油は貯蔵しても腐らないので値上がりを待って売ればよい、と思うかもしれないが、どこの石油タンクも満杯で、タンク利用料(原油の保管料)が急騰。タンク代わりに借り出されたタンカー(石油運搬船)も用船料(船のレンタル料)が跳ね上がっている。お金を払ってでも、手元の原油を誰かに渡したいという状況がマイナス価格という形に表れたわけだ。

ところで、さきほどから原油価格と言っているのは、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)という市場で取引する米テキサス産の軽質油(ウエスト・テキサス・インターミディエート、WTI)の先物相場のことだ。取引の参加者が多く、価格に透明性や信頼性があるということで、世界の原油取引の指標になっている原油先物の価格のことだ。

穀物や金属素材、畜産の一部など規格化して大量供給される商品(コモディティと呼ばれる)は、価格を安定させるために先物取引を実施するのが通例だ。半年後や1年後といった近い将来に商品を受け渡す日を決め、その時点の価格をみんなで売買して決める。他人と逆の相場を張って利益を得ようとする投機筋も入ってくるので、価格が上がれば売りが出て、下がれば買いが入ることも多い。だから先物相場に価格を安定させる効果あるとされている。

WTIがマイナス40ドルまで下落した4月20日は、そんな先物市場の中でも少し特別な日だった。5月に受け渡しする原油(5月物)を、誰から誰に渡すかというのが最終的に決まる「決済日」の前日だったのだ。このため、現物の原油を引き取ることになっては困ると投機筋が一斉に手を引いた。さらに本来であれば原油の需要家である石油精製業者や電力会社なども、すでに必要な分は手当てしてあるということで買い手が付かず、売り一辺倒の相場になってしまった。ついには1バレルあたり40ドルの現金付きでなら原油を引き取るよ、というところまで売りが出た──。長くなったけれども、これが「原油価格マイナス」のカラクリだ。

米国や欧州では経済活動を再開する動きが出ており、原油需要が徐々に回復する見通しだ。従って原油価格も中長期的には上昇するだろう。ただ当面は原油の供給過剰に対する警戒感は根強く、原油先物相場の上昇は鈍いとの見方が多い。米国では原油在庫が積み上がっており、現状ではWTI先物6月物も決済日直前に再びマイナスになるとの見方もある。米国で毎週水曜日に発表される、前の週末の原油在庫統計は、いつにも増して注目されるだろう。

国内ではレギュラーガソリンが13週連続下落

ステイホームのいまガソリン価格は安くなった…(Anchalee/stock.adobe.com)

一方、日本では4月27日までレギュラーガソリンの価格が13種連続で下落した(石油情報センター調べ、経産省発表)。この流れは、もうしばらく続くことになりそうだ。しかし外出自粛の要請を受けて、大型連休の高速道路は閑散。家計への好影響は限定的だったことだろう。

日本は原油を全量輸入しているので、原油安は通常、日本の買い材料と受け止められる。しかし今回は、日本の産業も活動が超停滞していることから、原油安の恩恵も限られるとみて原油安をそれほど材料視していない。日本では7日以降も新型コロナの緊急事態宣言が延長されることもあり、原油価格の上下は引き続き相場全体を左右するほどでない、という展開が続きそうだ。

(経済ジャーナリスト・山本 学)