上場企業「新型コロナウイルス影響」調査 (5月6日時点)

 5月4日、政府は緊急事態宣言を5月31日まで期限延長することを決めた。新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからず、外出自粛や休業要請の延長による企業活動への影響は日増しに深刻さを増している。
 5月6日までに、新型コロナ関連の影響や対応などを情報開示した上場企業は2,113社に達した。これは全上場企業3,778社の55.9%と、6割に迫る。このうち、業績の下方修正を発表した410社のマイナス分は合計で、売上高が3兆3,533億円、利益が2兆6,016億円に膨らんだ。
 2020年3月期決算の公表時期に差し掛かった。5月6日までに3月期決算2,406社の11.4%にあたる276社が決算短信を発表した。このうち、次期(2021年3月期)の業績予想を「未定」とした企業は約6割に達した。新型コロナウイルスの終息が見えず、世界規模で影響が拡大し、今期の業績見通しが立たない企業が増えている。
 一方、決算発表を従来予定から延期したのは、上場企業の13.1%にあたる495社。在宅勤務の導入などで期末後の決算処理や監査の現場に、大きな混乱が表面化してきた。

  • ※本調査は、2020年1月23日から全上場企業の適時開示、HP上の「お知らせ」等を集計した。
    • ※「影響はない」、「影響は軽微」など、業績に影響のない企業は除外した。また、「新型コロナウイルス」の字句記載はあっても、直接的な影響を受けていないことを開示したケースも除外した。前回発表は4月30日。

三菱UFJフィナンシャル・グループ、株式減損や引当金計上で1,000億円の利益マイナス

 情報開示した2,113社のうち、決算短信や月次売上報告、業績予想の修正などで新型コロナウイルスによる業績の下振れ影響に言及したのは578社だった。
 このうち、410社が売上高や利益の減少などの業績予想、従来予想と実績との差異などで業績を下方修正した。業績の下方修正のマイナスは合計で、売上高が3兆3,533億円、最終利益が2兆6,016億円に達した。
 また、新型コロナウイルスの影響が見通せず、業績予想を一旦取り下げて「未定」に修正したのは52社にのぼる。一方、「影響の懸念がある」、「影響を精査中」、「影響確定は困難で織り込んでいない」などの開示は696社だった。
 売上高・利益の下方修正は、4月下旬以降、大手企業などが相次いで大幅な下方修正を発表し、加速度的に膨らんだ。4月30日には、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ(TSR企業コード:294431306)が、2020年3月期第4四半期の相場急変の影響で保有株の減損などで650億円、一部与信に対して350億円の引当金を計上し、新型コロナウイルス関連で同期に合計1,000億円の当期純損失のマイナス影響が生じる見込みとした。
 業績を下方修正した企業410社を業種別でみると、最多が製造業の164社(構成比40.0%)で、4割を占めた。以下、サービス業82社(同20.0%)、小売業63社(同15.3%)と、インバウンド消失や外出自粛で深刻な個人消費関連の2業種が続き、上位3業種で75.3%を占めた。

上場企業影響開示0507

3月期決算 「減収減益」103社(構成比37.3%)と「増収増益」96社(同34.7%)が拮抗

 5月6日までに決算短信で2020年3月期決算を公表した276社(3月期決算の上場企業の11.4%)の業績動向を集計した。
 最多は「減収減益」で103社(構成比37.3%)。次いで、「増収増益」が同水準の96社(同34.7%)だった。
 増収企業140社(同50.7%)、減収企業136社(同49.3%)は、ほぼ同数で拮抗し、利益は減益企業が147社(53.3%)で、増益企業129社(同46.7%)をやや上回った。
 一方、次期(2021年3月期)の業績予想は、276社のうち、168社(構成比60.8%)が「未定」と開示しなかった。新型コロナウイルス感染拡大の業績影響は合理的な算定が困難としている。
 国内外の感染拡大の終息を筆頭に、期間延長した緊急事態宣言下での店舗・サービスの休業、国内消費の停滞、海外の生産体制や材料調達など、流動的な要素が絡んで業績見通しが難しい。
 次期の業績予想を開示した108社で、最多は「減収減益」の42社(構成比15.2%)だった。
 2020年3月期に続き、2期連続「増収増益」見込みは23社(同8.3%)で、全体の1割に満たない。

決算発表の延期は495社

 決算発表(四半期決算の発表なども含む)の延期公表は累計495社で、全上場企業(3,778社)の1割を上回った。3月期決算の発表時期を迎えたが、海外子会社の決算や監査が進まない点や、在宅勤務の実施などで決算作業が進んでいない。
 上場企業の決算発表は、原則「事業年度の末日から45日以内」(45日ルール)だが、東証は新型コロナウイルスの影響を踏まえ「確定次第の開示で差し支えない」と柔軟対応を示しており、多くの3月期決算の開示が5月下旬以降になる見通しだ。
 店舗・拠点の休業、サービス停止を開示したのは243社だった。このうち、緊急事態宣言による店舗休業や、休業延長の公表は判明分で175社(構成比72.0%)。5月末までの期限延長で、経過報告や今後の営業方針についての「お知らせ」が増えるとみられる。
 一方、「その他」(575社)のうち、プラス効果の言及は69社(構成比12.0%)に過ぎない。マスク、消毒剤など衛生用品関連や内食需要の増加、テレワーク実施による設備投資需要など、一部の関連業種は新型コロナウイルスによる、様々な社会の変化が追い風になっている。

企業の社会貢献、不足が続くマスクの寄付が14社

 新型コロナウイルスの対応策では、地域や医療機関などへのマスクの寄付公表が14社あった。マスク不足が社会問題化するなか、自社の備蓄分を寄付する大手メーカーもあり、非常時だからこそ地域社会への貢献を重視する姿勢も見受けられる。このほか、企業による社会貢献としては自社商品の無償提供、医療機関などへの義援金も多かった。

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