東京パラ、コロナ禍で懸念の障害クラス分け IPC会長、除外危機の車いすバスケも注視

IPCのアンドルー・パーソンズ会長(資料)=2019年12月10日、東京都中央区で撮影

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、東京五輪・パラリンピックの史上初となる1年延期が決まった。新日程のパラリンピックは来年8月24日から9月5日で、22競技に約4400選手の参加が見込まれる。進行性の障害や呼吸器系の基礎疾患を抱えるパラアスリートには、五輪のトップ選手以上に新型コロナの感染リスクや体調面で特有の影響を懸念する指摘も出ている。

 国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドルー・パーソンズ会長は4月上旬、ブラジルの自宅で、延期決定後初めて共同通信などとテレビ電話形式のインタビューに応じ、今後の予選方式や障害クラス分けの手順見直しを早急に進め、新たなガイドライン(指針)を示す考えを表明した。(共同通信=田村崇仁)

 <クラス分け:パラリンピックは選手の障害の種類や程度に応じて有利不利が生じないよう区分する「クラス分け」が存在する。競技の公平性を保つ根幹を成す基本システム。新型コロナ禍で判定の場となる国際大会の延期や中止が相次ぎ、クラス分けが必要なのに保留されたままの選手は各国で少なくない。IPCは4月下旬に東京パラに向けて陸上、競泳、ボッチャ、トライアスロンなど11競技の新たな予選方式を発表。残りの11競技は5月下旬までに発表される見通しを示したが、多発性硬化症や視覚障害、まひなど進行することによって障害の程度が変わる選手は随時クラス分けを受ける必要があり、的確で慎重な対応が求められる>

 ―コロナ禍で緊急事態の今、世界で何人ぐらいの選手にクラス分けが必要か。

 「現段階で正確な数は分からない。新たな手順で予選方式とクラス分けを進めていくが、相当数の選手に影響してくるだろう。予選は従来の方式と原則は変えないが、特にアフリカ選手はクラス分けが大会中止や準備不足で遅れており、大きな課題だ。パラ特有の課題として進行性の障害を抱える選手へのクラス分け対応もある。各競技連盟(IF)や各国・地域の国内パラリンピック委員会(NPC)と協力して状況に応じて正確に把握していく構えだ」

 ―既に出場権を得た選手も再挑戦が必要なのか。

 「延期の決定前に各国・地域の選手が獲得した出場枠は、来年までそのままキープされることを決めている。選手の立場は尊重されるので心配することはない。重要なのは対話。IFと協議しながら、新型コロナで中止や延期となった日程の再調整とクラス分けの機会を新たに設けていく。大会再開の時期が不透明な中、柔軟性が最も重要なキーワードだ」

 ―不透明なクラス分けの問題で東京パラから除外の可能性を指摘された車いすバスケットボールの進捗(しんちょく)は。

 「車いすバスケには選手の障害の程度により持ち点があり、焦点となっているのは比較的軽い4・0と4・5の選手。国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)はIPCのクラス分け専門部と良好な関係を構築し、新たな話し合いに前向きな反応を示しており、危険な状況とは判断していない。IPCは5月29日までに国際基準を順守するよう求めており、推移を注視していくが、東京大会では人気競技の車いすバスケが実施されることになると信じている」

テレビ電話形式のインタビューに応じるIPCのアンドルー・パーソンズ会長=4月8日

 ―新型コロナの感染で影響を受けやすいパラ選手への対応は。

 「IPCは3月にガイドライン(指針)を策定している。専門家の見解でパラ選手に新型コロナの感染で高いリスクがあるとの証拠はないが、医科学的な根拠に基づいてどんな状況が起こるのか注視していく。新型コロナによるメンタルヘルスを支援する必要も出てくるだろう。緊急事態だからこそ、臨機応変に対応できる措置を考えていきたい」

 ―財政面での影響は。

 「直近の影響は(現金の出入りを示す)キャッシュフローの変化だ。大会が来年になったため、最終的な支払いを遅らせたいと要請しているテレビ放送局もある。それはもちろん理解できる。スポンサーや予算が大幅に削減されているわけでない。延期に関連して150以上の契約見直しを進めており、内部で緊密に連携して解決策を探っている」

 ―新日程でも従来の会場計画を維持するのか

 「IPCとしては来年8月24日開幕となった東京大会でも全ての競技で会場を変更せず、従来の計画をキープしていく方針だ。もちろん大会組織委員会などと協議が必要な会場は出てくるだろうし、交渉次第の部分もある。何らかの期限を設けるつもりはない。国際オリンピック委員会(IOC)とも緊密に協力していきたい」

 ―宿泊施設のバリアフリー対応が不十分との指摘もあるが、東京大会は社会が変化するきっかけになるか。

 「われわれは新型コロナの危機に直面しており、未曽有の事態が世界で起こっている。東京大会は人類がかつてない困難に打ち勝ったシンボルになってほしい。パラリンピックのムーブメント(運動)はあらゆる障害や困難を乗り越え、チャレンジすることで人間が強くなっていくこと。五輪は平和の祭典、パラは人間の可能性の祭典でもある。対話とバランスをいつも考えながら、解決策を見つけていきたい」

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 アンドルー・パーソンズ(ブラジル) ブラジル・パラリンピック委員会会長を務め、南米初開催の2016年リオデジャネイロ大会を成功に導いた。17年9月の国際パラリンピック委員会(IPC)総会で、パラの人気拡大と競技力向上に尽力したクレーブン氏(英国)の後継者として第3代会長に就任。20年東京大会の準備状況を確認する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会の委員でもある。43歳。

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