道行く人が足を止める宣伝文句をひねり出す コピーライターという仕事

広告のキャッチコピーを考える博報堂のコピーライター、原学人さん

 町中にあふれる広告で「おやっ?」と目を引くのが宣伝文句、その名の通り「キャッチコピー」だ。広告大手博報堂の原学人(はら・まなと)さん(27)は、商品の特徴や企業の思いをわかりやすく伝えるためのコピーを考えている。道行く人の足を止め、振り向かせるための一瞬が勝負だ。「誰かの背中も押すことができ、その人の変化につながればうれしい」と熱い願いも込めている。(共同通信=高口朝子)

 ▽1週間に300本

 新商品のネーミングや大学のスローガン、ラジオCM。多い時で10件ほどの仕事を同時に抱える。頭は常にフル回転だ。

 コピーを考える時は、新聞記事やインターネットの口コミなどあらゆる情報を参考にする。詳しい知人にも話を聞き、とにかく素材をたくさん集める。それらのメモをつなぎ合わせたら、試作を書きまくる。1週間で300本以上書いたり、1日で100本の案を出したのに全てボツになったりしたこともあった。

 それでも、自分も顧客も納得がいく作品ができるまでひねり出す作業を続ける。広告は昔から数多くあり、新しいものを表現するのはとても難しい。「今までにない表現を作るには、最後の一歩でグッとジャンプしないと」。すでに存在する表現に、思い切ってまったく別の素材を掛け合わせるなどして文言を書きまくる。そうして生まれたものが、見た人に驚きや感動を呼び起こす。

 広告・宣伝に関する出版や教育事業を手掛ける『宣伝会議』が主催する編集・ライター養成講座への参加を呼び掛けるポスターでは「挑まなきゃ、悔しくもなれない」と記した。力強い言葉は、大きな反響を呼んだ。別の作品は友人が気に入り、LINE(ライン)の自己紹介欄に使ってくれたこともあった。

原さんがコピーを考案した宣伝会議の編集・ライター養成講座のポスター(宣伝会議提供)

 一つの作品が完成するまでに地道な作業を長時間、積み重ねる。想像力が必要だが、論理的な思考も重要だ。「何をどう伝えればわかってくれるかな、といつも考えています」

 ▽料理もヒントに

 アイデアの素を増やすため、常に新鮮な情報や流行に触れて自分の中にため込むようにしている。新しい映画を見たり、本や漫画を読んだりするのも好きで「このセリフはヒントになる」と刺激も受ける。

 大学では経済を勉強したが興味を持てなかった。就職活動で広告代理店でのインターンを経験したところ、自分の作品を見て「変わってて面白い」と評価してくれたのに感動した。「正しさより、面白さを大事にするところがいいな」。自ら考える仕事がしたいとコピーライターを志望した。

 経験したことがない分野に取り組むのが好きだ。毎年、初詣の時にテーマを決めていて、昨年は料理とマージャンに挑戦した。ことしはワインについて学ぶつもりだ。「料理は基礎を理解し、いろんな素材をつなぎ合わせると広がるのが面白い。コピーを考えるのにも似ていると思う」

書店で資料を探す原さん

 ▽生活者目線

 顧客は企業や官庁も多いが、コピーを考えるときは普通の生活者としての目線が大事だと思っている。悩んだら、家族や友人に感想を尋ねる。「言いたいことをそのまま言うのではなく、今までになかった表現を目指したい」

 音だけで世界観を表現できるラジオCMも好きだ。監督やカメラマンが必要なテレビCMに比べて、制作面で自分が決められることが多く「自分が携わった作品だ」という手応えがあるからだ。

 自分で書いた草稿を自ら何度も録音し書き直して完成させたラジオCMは新人賞など複数の賞を受け、認められたとうれしかった。

パソコンとスマホを使い、ラジオ向けCMを制作する原学人さん

 広告は視界を遮る邪魔な存在でもある。少しでも面白いものを作り、お茶の間や電車で見た人に「良い時間だった」と思ってもらえたらうれしい。自分も普通の会社員だが、広告を見た人が気持ちが明るくなり、かっこいいなと思ってくれたら、と願う。

 「自分の作った作品が町中に貼られ、家族や友人らに見てもらえるなんて、とても幸せな仕事だと思っています」

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