肉眼でも見られる連星にブラックホールを発見。およそ1000光年先

天の川銀河ではこれまでに数十個のブラックホールとみられる天体が見つかっていますが、理論上は大小さまざまなブラックホールが1億個以上存在すると見積もられています。今回、地球からおよそ1000光年という比較的近いとことに、太陽数個分の質量がある恒星質量ブラックホールが見つかったとする研究成果が発表されています。

■地球から肉眼でも見える連星を研究する過程でブラックホールを発見

HR 6819の構成を描いたイメージ図。2つの恒星(青い軌道)と1つの恒星質量ブラックホール(赤い軌道)から成る三重連星とされている(Credit: ESO/L. Calçada)

ブラックホールらしき天体が見つかったのは、南天の「ぼうえんきょう(望遠鏡)座」の方向にある連星「HR 6819」です。HR 6819は肉眼でも見ることができる5等星で、いずれも太陽より重く青いB型星とBe型星から成る連星として知られています。

Thomas Rivinius氏(ESO:ヨーロッパ南天天文台)らの研究チームは当初、連星の研究対象のひとつとしてHR 6819に注目していました。ところが、HR 6819を構成するB型星の動きを詳しく調べたところ、この星と約40日周期で互いに周回し合う「見えない天体」の存在が判明しました。HR 6819は、実際には2つの恒星と1つの未発見の天体から成る三重連星だったとみられています。

太陽のほぼ5倍の質量と見積もられたB型星の動きから、見えない天体の質量は少なくとも太陽の4.2倍であることも明らかになっています。「太陽と比べて4倍以上も重いのに見えないのですから、この天体はブラックホールとしか考えられません」とRivinius氏はコメントしています。

天の川銀河で発見されたブラックホールとみられる天体の多くは、飲み込まれかけているガスで形成された降着円盤から放射されるX線を検出することで観測されてきました。いっぽう、HR 6819で見つかった恒星質量ブラックホールらしき天体は降着円盤を伴っておらず、B型星の動きを分析することで初めて捉えることができました。研究に参加したPetr Hadrava氏(チェコ科学アカデミー)は「肉眼で見える星と連星を成すものとしては初めて見つかったブラックホールだと気づいたときには、本当に驚きました」と振り返ります。

■さらなるブラックホール発見へと導く「氷山の一角」

HR 6819(中央)とその周辺の様子(ESO/Digitized Sky Survey 2. Acknowledgement: Davide De Martin)

Rivinius氏らは今回の結果をまとめた論文において、昨年「太陽の70倍以上の質量があるブラックホールが見つかった」として研究成果が発表された連星「LB-1」にも言及しています。報告されたLB-1のブラックホールらしき天体の質量は想定されてきた恒星質量ブラックホールの上限を上回っているとされていましたが、研究チームはLB-1とHR 6819の観測データを比較した上で、LB-1もブラックホールを含む三重連星であり、ブラックホールの質量も太陽の6.3倍以上という値に落ち着くのではないかとしています。

また、恒星質量ブラックホールの候補が相次いで見つかったことや、1000光年先という地球から近いところでの発見に至った今回の研究結果から、天の川銀河だけでも億単位で存在するはずのブラックホールについての手がかりが得られるとしています。研究に参加したDietrich Baade氏(ESO)は「何を観測すべきかを知ることで、私たちは狙いを定めることができます。今回の発見は氷山の一角にすぎません」と語っています。

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Image Credit: ESO/L. Calçada
Source: ESO
文/松村武宏

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