必殺シリーズの音楽は平尾昌晃と竜崎孝路、そしてトランペッター数原晋 1981年 5月8日 朝日放送制作のテレビ時代劇「新・必殺仕事人」の放送が開始された日

80年代に最盛期を迎えた「必殺仕事人」シリーズ

いまや東山紀之が主役を務め、年を追うごとにどんどん深化している『必殺仕事人』シリーズ。その必殺シリーズは、池波正太郎の『仕掛人・藤枝梅安』を原案に『必殺仕掛人』として’72年からテレビのレギュラー放送が始まった。

その後、原作には無い中村主水というキャラクターも生み出し、様々な紆余曲折や浮き沈みを経て80年代に最盛期を迎えることになる。その作品性と大衆的人気がバランス良く混在した’81年5月スタートの『新・必殺仕事人』と’82年10月スタートの『必殺仕事人Ⅲ』がシリーズのピークと言っていいだろう(異論は承知)。

三田村邦彦演ずる飾り職人の秀、中条きよしの三味線屋勇次、何でも屋の加代は鮎川いずみ、もちろん中村主水は藤田まことで、トメは元締のおりくを演じる山田五十鈴。史上最高、鉄板の布陣である。脇を固めるのは嫁姑役の白木万理と菅井きん、筆頭同心でオカマの田中さま役は山内敏男。そうそう、『Ⅲ』には受験生の仕事人としてひかる一平も出てたっけ。

毎週金曜夜10時。その後も継続した人気を博し、肝入りで始まった平日ベルトのニュースステーションでさえ、放送当初は退かすことのできなかった枠だ。

また、全国で流れていたかどうかは知らないが、“カキ肉エキス” を飲んでトライアスロンを完走する永谷誠一55才の勇姿や、ベートーベンが笑ったというコピーが印象的な低周波治療器の「♪ お体大事にサンマッサ~」といったCMも忘れられない。これ、本当にどうでもいい記憶なのだが、死の目前に人生の思い出が走馬灯のように駆け巡るのならば、その一コマにこれらのCMが入ってそうで怖い……

1,000曲以上の劇伴、そのほとんどが平尾昌晃と竜崎孝路

いやいや、そうではない。『仕事人2016』を観た流れでシリーズの “音楽” について書くつもりだったのだ。

そうは言ってもこのシリーズ、音楽の持つ比重が通常のドラマ、いや映画と比べても非常に高く、とてもこのスペースで語りつくすのは困難だ。“マカロニウエスタンの音楽を基調に日本的な情緒を重ね合わせた独特のサウンドトラック” と言ってしまえばそれまでだが、そこは40年にもわたって制作されているシリーズである。時代時代のサウンドを加味しながら、BGMの領域をはるかに超えこれまでに1,000曲以上もの作品が録音されているのだ。

シリーズ全作を通し、ほとんどの劇伴を手がけているのが平尾昌晃と竜崎孝路。平尾はロカビリアン出身ながらも小柳ルミ子の「わたしの城下町」のような “ふるさと歌謡” をも手掛ける作曲家。竜崎はビートを全面に押し出したキャンディーズの「危ない土曜日」のようなサウンドから、叙情感たっぷりの八代亜紀「舟唄」までを手がけるダイナミックなアレンジャー。

この2人のコンビは’73年の日本レコード大賞を受賞した五木ひろしの「夜空」を手がけているが、この曲にしても、国産シンセ第1号コルグ700を発売直後に購入し、演歌界に初めてシンセサイザーサウンドを導入した極めて画期的な作品だった。

スーパートランペッター数原晋、最重要鉄板曲「仕事人出陣」

そして、もう一人の忘れてはならない人物、それは日本を代表するスーパートランペッター数原晋。名前を知る人は少ないだろうが、その音は誰もが聴いたことがあると断言していい。

必殺シリーズはもとより、ルパン三世シリーズ、山口百恵「いい日旅立ち」、さだまさし「北の国から」、天空の城ラピュタ「ハトと少年」などのトランペットは全て彼の演奏である。もちろん、山下達郎やユーミンを始め、角松敏生、杏里、井上陽水、チャゲ&飛鳥、矢沢永吉などなど、数多のミュージシャンのレコーディングに参加している名うてのプレイヤーである(ちなみに、松田聖子「秘密の花園」のエンディングで印象的なフリューゲルホーンを吹いているのも彼)。

そんな多彩で柔軟で神がかった職人たちが集結していた必殺シリーズ。光と影の織り成すコントラストを極めたキャメラマンの石原興と照明の中島利男についても触れておきたかったが、さすがに字数も尽きた。

最後に、’81年の『新・必殺仕事人』から現在まで、アレンジを一度も変更することなく使われ続けている最重要鉄板曲「仕事人出陣」を紹介し、個々の楽曲についてのエピソードは別稿に譲るとしよう。

※2016年10月9日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 太田秀樹

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