Tリーグ誕生で選手寿命は伸びるのか 日本卓球界にもたらす“新キャリア”

写真:松平健太T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部

2018年にスタートしたTリーグは、2シーズン目のレギュラーシーズンを終えた。

2シーズンの間に、日本人選手、外国人選手ともに数多くの選手がTリーグに参戦した。水谷隼、石川佳純ら日本代表クラスの選手に加え、将来を嘱望される若手選手がTリーグでプレーし、外国人選手も各国の代表歴を持つ実力者が多数加入した。

Tリーグという日本に誕生した新たなリーグは、卓球選手のキャリアにどんな影響を与えるのだろうか。

Tリーグがもたらす「新しいキャリア」

Tリーグは2年目を迎え、T.T彩たまの松平健太のようにTリーグを選手活動の主戦場とする選手が現れ始めた。

写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部

従来、日本の卓球選手は大学(高校)を卒業後、日本リーグなどの実業団チームに所属することが一般的で、企業の社員として仕事をする傍ら、選手としてリーグ戦や全日本選手権に出場していた。実業団選手ではなく、完全なプロ選手として活動できるのは一部のトップ選手に限られていた。

Tリーグの存在、そして松平が選択したTリーガーというキャリアは、日本卓球界に新しい風を吹かせるかもしれない。

年齢の壁を超えて活躍し続けるヨーロッパ選手

世界に目を移すと、30代後半を迎えてもなおトップレベルで活躍し続ける選手たちがいる。

代表的なのは、ドイツのティモ・ボル、ベラルーシのブラディミル・サムソノフだ。ボルは39歳、サムソノフは43歳と大ベテランだが、2020年5月現在、ボルは世界ランキング10位、サムソノフは27位と、選手としての実力はいまだ健在だ。

写真:ブラディミル・サムソノフ/提供:ittfworld

ボルやサムソノフをはじめとしたヨーロッパ系の選手には、年齢を重ねても活躍し続ける選手が多い。彼らが長きに渡って選手生活を送ることができる理由は、環境によるものが大きい。

T.T彩たまで監督を務める坂本竜介氏は、ヨーロッパ系選手とアジア系選手の違いについて、以下のように語っている。

「単純に言うと卓球選手として働く場所があるかないかの問題。代表チームを引退して、ブンデスリーガに行って、そこで勝てなければ2部に行って3部に行ってというように行き場所がある。リーグが卓球界の雇用を生み出している。日本卓球界にはそれがない」。

写真:ティモ・ボル(ドイツ)/提供:ittfworld

ヨーロッパでは、ブンデスリーガだけではなく、ロシアリーグ、フランスリーグなど国内リーグが多数存在する。ヨーロッパ各国が地続きであることもあり、自国以外の選手が加入することも比較的用意だ。下部リーグが整備されていることも、選手の働き口という点において重要といえる。

Tリーグが選手の雇用先として機能するために

Tリーグはまだ設立2年を終えたばかりと歴史の浅いリーグだ。そのため、チーム数は男女各4チームと少なく、下部リーグも存在していない。だが今後は、トップリーグのチーム数拡大、下部リーグの整備を進め、日本卓球界を支える一大リーグとしての地位を確立することを目指している。

写真:Tリーグ1stシーズン開幕時のイベント/撮影:ラリーズ編集部

まずはリーグ、各チームの健全経営を維持し、少しずつ規模を拡大していくことになるだろう。

坂本氏はTリーグについて、「Tリーグができたことで日本選手も寿命が長くなると思う。代表引退したら現役を引退するというのが今までの流れだったが、それがTリーグができたことによって変わっていくかもしれない。卓球選手として働く場所が必要、そのためにはチームも増えてくれなきゃいけない」とコメントしている。

プロリーグをはじめ、選手がプレーできる場所が豊富に存在することのメリットは大きい。

まず第一に、プロとしてプレーできる選手の絶対数の増加。夢見る若手選手のチャレンジの場としては勿論、全盛期を過ぎつつある選手が現役としてもう一度勝負できる場としてもその存在意義は大きい。

写真:1stシーズンの男子Tリーグ開幕戦の様子/撮影:ラリーズ編集部

他のスポーツで考えてみるとわかりやすい。例えばサッカーでは、かつて日本代表の中心選手として活躍した三浦知良や小野伸二がJ2で現役を続けている(三浦知良所属の横浜FCは2020年シーズンからJ1に復帰)。

野球界でも、村田修一、西岡剛といった一流選手がNPBへの復帰を目指して独立リーグのチームに所属する、といった事例が珍しくなくなりつつある。

彼らのような経験豊富な選手の存在は、競技レベルの向上にもつながる。将来有望な若手選手たちにとって、ベテラン選手たちが持つ熟練の技術や練習に取り組む姿勢などから学ぶことは何ものにも替え難い貴重なものだろう。我々ファンにとっても、好きな選手が現役で活躍する姿を少しでも長く見ることができ、これほど良いことはない。

Tリーグは既に、選手たちの「第二の戦場」になりはじめている

Tリーグで活躍する選手の中にも、琉球アスティーダの荘智淵(39歳)、朱世赫(40歳)など大ベテランと呼ばれる選手がいる。朱は、2017年に一度引退したにも関わらず、Tリーグで現役復帰を果たした。彼らにとってTリーグはまさに「第二の戦場」だ。

写真:荘智淵/撮影:ラリーズ編集部

今後Tリーグが発展していくに連れて、松平のようにTリーグを中心に競技生活を送る日本人選手も増えていくだろう。

Tリーグは、そういった選手たちがもう一度競技者として自分を高めていくための「第二の戦場」であるとともに、プロ選手として卓球で生計を立てるための「第二の職場」でもある。

文:石丸眼鏡

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