家族も支える「看護」 第3部 兆し (5)補う(上)

優花さん(右)の状態を確認する三上さん。訪問看護とキャンナスの双方の立場で、手厚い支援を展開する=2月19日

 慣れた手つきで吸引用のカテーテルを操り、たんを取り除く。2月19日、栃木県の県北在住の加藤優花(かとうゆうか)さん(7)=仮名=の月に1度の通院日。看護師三上綾子(みかみあやこ)さん(50)が同行支援に当たっていた。

 優花さんは2歳のとき、激しいけいれんを起こして緊急入院し、難病が発覚した。歩けなくなるなどの症状が現れ、検査入院をしようとしていた矢先だった。

 退院後は那須烏山市にある「訪問看護ステーションあい」の訪問看護を受けて自宅で療養していたが、症状は進行。座ることや食べることができなくなり、たんの吸引など日常的な医療行為も必要になった。

 父親は日中仕事に出ていたため、介護は主に母の智子(ともこ)さん(36)=仮名=が担った。1時間ほどの訪問看護を週2回受ける以外は、付ききりで世話をする。高熱などで入退院も繰り返し、入院のたびに泊まり込みで看病した。

 優花さんには、姉の詩織(しおり)さん(10)=仮名=がいる。妹の病気が発覚した後、智子さんが詩織さんと過ごす時間は激減した。

 「大丈夫、優花ちゃんのところに行っていいよ」と、詩織さんは母を気遣った。智子さんは「無理していたんだろうな」と振り返る。

 「私には言わなかったけど、三上さんには『本当はどっか行きたいんだよね』って話していたみたい」

 転機は詩織さんの保育園最後の運動会。「キャンナス烏山」のサービスを初めて利用したことだった。

 「キャンナス」は、地域で看護や介護に関する訪問ボランティアをする看護師たちのこと。制度だけでは対処できない困りごとに、柔軟に対応する。キャンナス烏山は「あい」の代表者が設立した。

 加藤家の場合、智子さんが運動会を見る間、自宅での優花さんの見守りが課題だった。制度上の訪問看護のみでは、時間が足りない。そこで、規定の時間を過ぎると担当していた訪問看護師がキャンナスの看護師に立場を変え、そのまま支援を継続。智子さんは運動会を見届けることができた。

 キャンナスを利用することで、智子さんのできることが飛躍的に増えた。

 受けることができなかった自身の健康診断に行くことができた。詩織さんと宇都宮市内まで映画を見に行ったこともある。「お姉ちゃんと向き合う時間が増えたし、自分の気持ちに余裕ができた」

 三上さんは「お母さんの体調が悪かったら、子どもの生活も成り立たない。子どもの訪問看護でも、家族を含めた看護なんです」と強調する。

 新型コロナウイルスの感染拡大が終息すれば、県外へ旅行に出掛けたいと考えている。「家族みんなで行きたいけど、遠出には不安がある」と智子さん。ここでも、三上さんの同行を依頼しようと考えている。

 優花さんの外出用に、新しいバギーも用意した。病気や障害があっても、少しずつできることを増やして暮らしを豊かにする。そのために支えてくれる人たちが、この地域にはいる。

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