制度外にも支援の手  第3部 兆し (6)補う(下)

緩和ケアの勉強会を提案した横山さん(奥の列右から2人目)。誰もが最期まで幸せに暮らせる地域を目指す=2月下旬、那須烏山市神長

 栃木県那須烏山市内の介護施設で勉強会が開かれたのは、2月下旬のことだ。

 参加したのは、地元の医師や看護師、薬剤師。「在宅での緩和ケア」。それが勉強会のテーマだった。約30人の参加者は、発言者にうなずいたりメモを取ったりしながら聞き入っていた。

 勉強会を発案したのは、看護師の横山孝子(よこやまたかこ)さん(55)。訪問看護ステーションを経営する中で、終末期に自宅で過ごす患者の痛みのコントロールに課題を感じていた。

 横山さんは、長年の看護師としての経験から感じた疑問や気付きを生かして、さまざまなサービスをつくり出してきた。

 「制度だけでは支えきれない人たちがいる」。各種活動の根底にはそうした実感があった。

 介護サービスにつながってはいるが、病気が重く毎週の決められた訪問回数では足りない高齢者。体調の変動が激しく、介護認定の調査時に日常の活動に支障がないと判断された人もいた。介護保険が非該当になり、急変時に使えるサービスが限られた。

 訪問看護も制度の枠内では限界がある。看護に入れるのは、1回につき1時間~1時間半程度。制度から外れると分かっていても、派遣された看護師は目の前の困っている人を助けたいと思う。実際に簡単な買い物や掃除をして「訪問看護の仕事ではない」と指摘されたこともあった。

 制度のはざまを埋めたい-。そんな思いから、「キャンナス烏山」は設立された。

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 キャンナスは「できる(Can)ことをできる範囲で行うナース(Nurse)」を意味する造語。烏山は2015年5月、「全国訪問ボランティアナースの会キャンナス」の支部として発足した。当事者と個別に契約し、1時間1600円程度の料金で制度外の要望に応える。医療行為は、たんの吸引など家族が行う範囲までで実施する。

 障害がある利用者の医療機関への通院同行では、薬のことがよく理解できない利用者に代わり医師や看護師と病状や投薬について意見交換する。「母親を温泉へ連れて行きたい」と依頼があり、シャワーチェアを持って温泉で入浴介助をした看護師もいる。

 訪問看護で入れる部分は制度を利用し、足りない範囲をキャンナスで補う。「利用者さんも安心して生活でき、私たちも仕事として関係しながらボランティアもできる」

 横山さんは確信する。「訪問看護ステーションごとにキャンナスがあれば、地域は本当に救われる」

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 創設した社会資源はほかにもある。

 2月の緩和ケアの勉強会で、会場にもなった施設「看護小規模多機能型居宅介護」。医療依存度が高い人でも、通ったり宿泊したりすることができる。

 背景には「医療ニーズへの対応が必要な人が、急変時に使える施設が少ない」という問題意識があった。昨年11月に開設し、在宅での暮らしを支えている。

 「利用者や家族にとって必要だと思うことをやってきた」。地域での生活全体をケアする。次の挑戦へ向け、模索する日は続く。

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