「安く買いたたかれてしまうだけ」 苦境の対馬アナゴ漁 宴会自粛で高級魚の需要減

1カ月以上係留したままとなっている「萬漁丸」の船上で、アナゴ籠漁の仕掛けを手にする藤谷さん=対馬市、仁田港

 新型コロナウイルス感染問題で宴会も自粛ムードが広がる中、高級魚の需要が減少し、全国1、2位を争うアナゴ産地の長崎県対馬市では漁業者が苦境に立たされている。本来は5、6月が漁の最盛期だが、島内有数の水揚げ地である上県町では、4月上旬から1カ月以上にわたって港にアナゴ漁船が係留されたまま。漁業者からは「今は出しても安く買いたたかれてしまうだけ」との嘆きが聞かれる。
 同市などによると、対馬のアナゴの水揚げ量は2013~17年が年間約490~740トンと、自治体別でいずれも全国1位。不漁だった18年は約400トンと僅差で2位だったが、同年も県内産の約98%、全国で約12%のシェアを占めた。対馬産アナゴは身が大きく、脂が乗っていることで知られ、東京市場では「対馬もの」として高級割烹(かっぽう)やすし店向けに1キロ2千円以上で取引されることもある。
 上県町漁協の水揚げ量は昨年約131トン。このうち5、6月の2カ月だけで4割近くを漁獲している。しかし、今年は4月上旬に2日間出漁しただけで、出漁を見合わせている。
 今月7日、同漁協組合員の藤谷萬吉さん(75)は仁田港に係留したままのアナゴ籠(かご)漁船「萬漁丸」で仕掛けを手に、「餌の冷凍スルメイカが不漁で高止まりしている上、他の漁に変えようにも漁具が違う」と肩を落とした。
 同漁協組合長で、市漁協組合長会の部原政夫会長(83)は「対馬ではほかにアカムツやアマダイ、養殖マグロなどが新型コロナによる宴会自粛の影響を受けている。飲食店には休業の協力金がある一方、漁業者には無いのは不公平だ」と訴える。
 同市は新型コロナ対策として、今年3、4月の水揚げ額が前年同月比で20%以上減収した市内漁協正組合員を対象に、一律5万円を配る市独自の助成金の制度を設けている。

身が大きく、脂が乗っていることで知られる対馬産アナゴ(対馬市水産課提供)

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