「感染抑止へ、迅速な初動肝心」 口蹄疫で高まった防疫意識 

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 2010年に宮崎県を襲った口蹄疫は、隣接する熊本県の畜産業界や行政にとっても深刻な脅威となった。当時から県畜産農業協同組合連合会の会長を務め、獣医師でもある穴見盛雄氏(71)=熊本県山都町=は「感染拡大を抑え込むには、迅速な初動対応が何より肝心だ」と訴える。

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 宮崎県の口蹄疫は、人の移動が多い大型連休を挟んで爆発的に感染が拡大した。熊本県は5月10日、蒲島郁夫知事をトップとする対策本部を設置し、県境越しのウイルス侵入を防ぐための車両消毒を強化。主要道などの消毒ポイントは最大時22カ所(市町村分含む)に及び、延べ約1万1500人を動員して7月末まで続いた。

 「宮崎はパニック状態になり、熊本に飛び火するのも時間の問題だと覚悟した。幸い車両消毒などの初動が早かったから発生を防ぐことができたが、奇跡的だ。宮崎は初動が遅れた上、対応も後手後手だった。政府の対応も十分ではなかった」

 熊本県への直接的な影響では、人吉球磨地域の畜産農家約260戸が一時的に移動・搬出制限の対象になった。また県内6カ所の家畜市場は、防疫のため4月下旬から2カ月半にわたって全ての競り市が中止になり、牛や豚約1万6千頭の出荷が滞った。観光イベントなどの中止も相次いだ。

 「畜産経営には大きな痛手となった。競り市は厳重な防疫態勢の下で順次再開したが、閉鎖が長期化していたら余分な餌代などが負担になって、経営規模の小さい農家の廃業が続出しかねなかった。熊本の特産であるあか牛も、一層衰退していた可能性がある」

 口蹄疫をきっかけに家畜伝染病予防法が改正され、金銭補償に基づく発生時の早期通報や予防的な殺処分の導入など対策が強化された。また農場など生産現場にも車両消毒槽などが普及し、感染防止の取り組みが進んだ。

 「宮崎の悲惨な経験を経て農家の危機意識が高まり、消石灰による消毒などが一般化した。最大の教訓は、初期段階での徹底したウイルス封じ込めの重要性。これは豚に感染する豚熱や、今回の新型コロナにも当てはまる。グローバル化した世界では、感染症や伝染病がいつ、どこからやってくるか分からない。危機感を失わず、防疫態勢を継続していくよう気を引き締めたい」(福山聡一郎、蔵原博康)