『レトロスペクティブ:エリック・ロメール』“即興”と映画史知識の絶妙な均衡

「海辺のポーリーヌ」

 まさかこのコーナーでエリック・ロメールを紹介できるとは! ヌーベルバーグの遅れてきた長兄として知られるロメールの作品が日本で初めて公開されたのは、1985年。10本目の長編作品で、「喜劇と格言劇」シリーズの第3弾に当たる『海辺のポーリーヌ』(1983年/写真)だ。そのシリーズ全6作を含む計9作品が、ザ・シネマメンバーズで4月から順次配信されている。

 ヌーベルバーグには“即興”という言葉が付きまとうが、それを最も体現した作家がロメールだろう。しかもその傾向は年を経るごとに強まり、ヌーベルバーグ当時の60年代よりも晩年の方が、みずみずしさが増している。大きな転機となったのが代表作『緑の光線』(85年)で、以降、16mmフィルムによる最少人数でのロケ撮影はロメールの代名詞となった。今回の9作品でその特徴が顕著なのは、ほかに『レネットとミラベル/四つの冒険』(86年)『木と市長と文化会館』(92年)『パリのランデブー』(94年)だが、個人的に好きなのは、むしろそれ以外の5作品の方かもしれない。

 批評家あがりのヌーベルバーグの作家たちは全員がシネフィルで、作品は膨大な映画史の知識に裏打ちされている。だがロメールの場合は、それがオマージュや引用のような形で表出されることなく裏方として技術面で作品を支え、“即興”と絶妙の均衡を保っているのが、それ以外の5作品だから。ほぼ全編が会話劇にもかかわらず片時も飽きさせず、まるで女の子たちのプライバシーをこっそり覗き見ているようなロメール・ワールド。この機会にぜひ! ★★★★★(外山真也)

ザ・シネマメンバーズで4月より順次配信中

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