社説(5/13):検察庁法改正/一度白紙に戻して出直せ

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 政府、与党がもくろむように法案の早期成立を許せば、法治国家の存在意義が根本から問われかねない。

 検察官の定年を延長する検察庁法改正案である。衆院内閣委員会で審議されている。改正案は検察官の定年の63歳から65歳への引き上げと、検事長などの検察幹部が63歳で一般の検事となる「役職定年制」が柱だ。この点には野党も理解を示している。

 問題なのは、内閣が認めれば役職定年の延長を可能としていることだ。

 検察は刑事事件の捜査、起訴の権限を与えられている。行政府の一部でありながら、必要であれば「首相も逮捕できる」という高い独立性を保ってきた。時の政権の意向で人事が左右されるようになれば、独立性や中立性が侵される危険性をはらむ。

 そもそも昨年秋の段階でまとめた改正案には、役職定年延長の部分はなかったという。それが今年になって付け加えられた。

 政府は検察官に定年延長を適用しないとしてきた従来の法解釈を1月に突然変更し、定年となる東京高検の黒川弘務検事長の続投を閣議決定した。この人事と密接に絡むと野党は指摘している。

 黒川氏は首相官邸の信頼が厚いとされる。次期検事総長に黒川氏を据える布石とみられている。そのことも野党は政治介入と問題視しているが、今回の法改正は続投人事を後から正当化するための「つじつま合わせ」と激しく反発している。

 衆院での審議に、検察庁法を所管する森雅子法相は出席していない。政府が他の国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる国家公務員法改正案と一体で審議する手法を取ったため、審議の場が法務委員会ではなくなったからだ。

 森法相は黒川氏の検事長続投を巡る国会審議で、発言が二転三転した経緯がある。森法相を表に出したくないからだと批判されても仕方あるまい。

 恣意(しい)的な検察人事につながるとの批判に対し、自民党の森山裕国対委員長は「内閣は国民が選んだ人たちで構成される。非常に公正公平なやり方だ」と反論している。

 しかし黒川氏の続投決定を立法府の手続きを経ない、事実上の法改正と言うべき解釈変更によって強引に行ったのは安倍内閣だ。しかも文書に残さず、口頭で内閣法制局や人事院の決裁を得たと、信じがたい釈明をしている。内閣の「公正公平」を疑わせているのは安倍内閣自身だろう。

 ツイッターで、検察庁法改正に抗議する投稿が数百万を超えた。新型コロナウイルスの感染拡大で直接行動ができない国民の意思の表れだ。

 まず黒川氏の人事を白紙に戻し、検察庁法改正案の審議は切り離して法相を交えて徹底的に行うべきだ。