<隠れた名盤>山本譲二『45周年記念全曲集「俺の指定席」』知らない曲だと言わないで

 近年、歌手の周年ベストは30曲以上収録で3千円台というのが多い中、山本の記念盤は11曲で3千円前後と割高だ。しかし、本作は盟友・吉幾三がプロデュースし、歌も演奏も全部新録音で、45年目にして、新境地に挑んだ意欲作。価格以上の価値がある

 本編の全10曲は、大ヒット曲『みちのくひとり旅』と、00年代以降の楽曲のセルフカバー。『みちのく~』は、猛々しい原曲から一変し、アコギや尺八の演奏、そして一語ずつ噛みしめて歌う山本が際立ち、「お前が俺には最後の女」という言葉がキマる。まさに引き算の美学だ。また、道ならぬ恋を断ち切ったはずなのに、逢いたさが募って再訪する『蓬莱橋』も、こんなに女歌が上手い人だったのかと驚かされる。

 更に注目は、うち5曲がシングル表題曲ではなく、そのカップリングという点。酌み交わした友を亡くし寂しさに打ちひしがれる『友情(とも)』や、娘の結婚前日に、あらためて妻に感謝する『君でよかった』、さらに国境線を舞台に再会を願う『願い』など、物語性の高い楽曲を語りかけるように歌うので、心にすっと浸透する。これぞ、吉のプロデュース力だ。知らない曲ばかりと言わず、1曲ずつじっくり堪能してほしい。

 ボーナストラックとして、吉の代表作『雪國』をカバー。本家よりもタメながら、時に涙混じりになる山本の歌声は、恩人・吉との深い絆を感じさせる。本作を聴けば、本当に信頼できる相手と、その証を残したくなるはず。

(テイチク・2818円+税)=臼井孝

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