2021年度大学入学共通テストの追試験が延期の可能性も。書類選考と追試が標準に?

受験生の関心は、現在のところ総合型選抜(旧AO入試)と学校推薦型選抜(旧推薦入試)が予定通りに実施されるかどうかですが、大学入学共通テストや一般選抜(旧一般入試)の実施についても心配する声が出始めています。受験生は当初の予定通りに入試が実施されると考えて準備をする他はありませんが、一方で大学はどのような備えが必要となるのでしょうか。現段階で準備に取り掛かることができそうな施策などについて考えます。

大学入学共通テストの追試が延期されると私大入試への影響が大きい

総合型選抜と学校推薦型選抜の募集時期を遅らせることについて、文部科学大臣が言及したのは4月17日です。その後、9月入学が話題の中心になり、今年の入試の実施時期については議論の進行が見えない状況です。受験生のみならず大学の入試実施部門にとっても当面の関心事だと思います。それに加えて、最近では大学入学共通テストが果たして予定通りに実施されるのかどうか、について心配する声も出始めています。

大学入学共通テストの実施の詳細については、例年6月に示されますが、今年は特別な状況ですので、例年よりも早く公表されるかも知れません。そのため、当コラムが公開された時にはすでに公表されている可能性もありますが、大学入学共通テストは、入学者選抜全体への影響があまりにも大きいため、実施の日程は変更されないと考えられます。ただし、試験実施については、試験室ごとの試験定員を見直して、通常であれば100名で実施していた試験室を50名に減らすなどの措置が講じられるでしょう。試験会場となる大学は、試験室を例年よりも増やしたり、それに伴い試験監督者を増やしたりすることが必要になります。人件費など追加で発生する費用は大学負担となるかも知れません。大学にとっては辛いところですが、現在は受験生にとって安心して受験ができる環境が求められています。

また、共通テストの本試験は予定通りに実施されたとしても、追試験は例年とは異なり延期となることも考えられます。例年、本試験の1週間後に追試験が行われ、試験会場も全国で2会場です。2021年度入試の場合、追試験日程は1月23日(土)、24日(日)の予定ですが、それが1週間繰り下げられると、1月30日(土)、31日(日)となります。本試験から14日の間隔を開けるというのは、現実味がある数字です。入試実施のルールでは、私大の一般選抜は2月1日から始まることになっていますので、私大入試との日程重複は建前上はありません。しかし、共通テストの翌日に、私大入試に臨む受験生の負担は決して軽くはありません。また、一部に試験日程を1月30日(土)や31日(日)に設定している私大もあります。その場合、共通テストの追試験受験者は、当該私大の受験ができなくなるため、救済措置が必要となります。

[link pagenumbers="2"]過去、追試が1週間繰り下げられたことも?[/link]

過去、追試が1週間繰り下げられたことも。受験生にとって有り難い救済措置とは?

今から11年前、2009年に新型インフルエンザが流行しました。そのとき、大学入試センターは、大学入試センター試験の追試験を当初予定から1週間延ばして1月30日(土)、31日(日)に行い、試験会場も全国69会場に増設しました。この時の受験者数の想定は5万人となっていました。受験者数は実際には509人にとどまりましたが、今回については受験者数がさらに多くなるのか、少人数で収まるのか予想することは非常に難しいでしょう。いずれにしても、大学側が、こうした事態を想定して受験生のために準備を進めておくことが大切です。大学側の準備が整っていれば、受験生の負担は多少なりとも軽減されることになるからです。

この他、今から大学側で準備に着手できることとして考えられることは?

①追試験の準備

共通テストだけでなく、個別大学の試験でも追試験の実施が予定されていると受験生は安心できます。2月の入試を3月の入試へ振替受験できる仕組みでも良いのですが、それらのさらにバックアップがあると、とても安心です。大学にとっては大変な負担ですが、今から着手できれば、全学部統一入試として1種類の問題を新たに作成することで、追試験の実施が可能となる大学もあるでしょう。

場合によっては、当該大学の過去問を使用することも考えられます。ただ、東京大、京都大などの難関大は過去20年以上の過去問が出回っていますので、この方法は取れません。しかし、中堅大学であれば10年分の過去問を解く受験生は多くはありません。10年前の自大学の問題を使用すれば、追試験の実行可能性も高まります。なお、この場合、現行の教育課程ではなく旧教育課程に即した出題となっていますので、特に数学と理科は出題内容をチェックしてから使用することが必要です。

また、作問スタッフが限られる小規模な大学同士で、それぞれで教科を分担して作問し、共同利用することもひとつの方法ではないでしょうか。なお、追試験を実施しないで検定料を返金する大学もありますが、できれば受験のチャンスが欲しいというのが受験生の心理です。

[link pagenumbers="3"]年内入試はどうなる?[/link]

年内入試は面接試験を行わず書類選考とする

②総合型選抜、学校推薦型選抜は書類選考に

総合型選抜と学校推薦型選抜の募集時期を遅らせることが検討されていますが、今年度については、面接試験や適性試験を実施しないで、書類選考で行うことで、接触機会を減らし、また地域間の移動も無くすことができます。テレビ会議システムの使用も考えられますが、受験者数が多くなると、面接スケジュールの作成・告知のほかに、当日、面接時間が延びた場合の調整や通信トラブルが複数発生した場合などを勘案すると、実施本部のオペレーション負荷が大き過ぎます。

適性試験を出題している大学の場合、代わりに提出課題を課したり、小論文を課したりするなどの選抜方法の一部を変更する必要が出てきます。その際には、例えば、複数のデータや資料を組み合わせた課題設定やアドミッション・ポリシーと受験生の活動歴や経験等を関連付ける小論文課題などを課すことで、思考力・判断力・表現力を確かめる方法も考えられます。こうした方法では、課題作成を代行する者が介在することも有り得ますが、入試要項に具体的な不正行為を明記したり、あるいは様式が変更されて情報量が増えた調査書を活用するなどして、完璧ではないものの、不正行為の抑止と公正性の担保につなげられます。

なお、ここ数年、国公立大学では、一般選抜でも志望理由書などを課す大学も増えています。こうした書類の審査については、長崎大学の「ペーパーインタビュー」や佐賀大学がWEBを利用して受験生の活動歴を評価する「特色加点制度」なども参考になるのではないでしょうか。

長崎大学

http://www.nagasaki-u.ac.jp/nyugaku/admission/topics/pdf/R01/PaperInterviewSample.pdf

佐賀大学

http://www.sao.saga-u.ac.jp/admission_center/reform/additional/

一般選抜は密集を避けることに加えて、試験監督者の防護も周到に

③試験室の受験者数を減らして入退出の動線を分ける

一般選抜では、試験室内の受験者間の距離を一定程度確保することが必要になります。試験室の試験定員をこれまでよりも減らす必要があるため、試験室数は増えます。試験室数が増えると試験監督者数も増やさなくてはなりません。

さらに、当初予定していた試験監督者が病欠した場合に備えて、試験監督者のバックアップ監督者も例年より多く手配しておく必要があります。これに加えて、別室で受験させる受験生が例年よりも多くなる可能性もあります(これらを考えていくと、試験監督者が何人いても足りないような気持ちになりますが)。

このほか、密集対策には試験室への入退場の際に、受験番号で入室、退室時間を分けたり、試験場の出入り口を分けたりするなど、動線も分けることを考えた方が良いでしょう。本学会場であれば、受験番号帯で入退場する門を分けたり、試験室のある建物自体を分けたりすることでも密集回避になります。また、4月入学を前提に一般選抜が実施されれば、実施時期が冬となるため、密閉対策として空気清浄機が用意できればより受験生にとっては有り難い環境です。

最後に、もうひとつ大切なことは試験監督者の防護です。消毒用アルコール、マスク、手袋に加え、フェイスシールドなど、試験監督が安心して試験実施に取り組むツールを用意しておくことで、平穏な試験実施が可能となり、結果として受験生も安心して受験ができることになります。フェイスシールドなどは入手が困難になっていますが、大阪大学が3Dプリンターを利用して制作する方法を以下で公開しています。

かつて、受験生に「受験は団体戦だ」とおっしゃった方がいましたが、入試実施も各大学の叡智を集めることで、受験生が安心して受験できる環境の整備が実現できるでしょう。

大阪大学大学院医学系研究科

http://www.project-engine.org/faceshield.html

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