新型コロナで無期限休業の保護猫カフェ、猫たちの運命は

女性経営者の悲痛な叫び

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休業が続く大阪・難波の保護猫カフェ「猫の恵庭」で猫の世話を続ける中野理恵さん

 「この状況が続けば、店を畳まざるを得ません。そうすれば、猫たちの行き場もなくなってしまう」。大阪・難波で保護猫カフェ「猫の恵庭」を経営する中野理恵(なかの・りえ)さん(33)が猫をあやしながらこぼす。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため3月末から休業。収入はなくなり、苦しい状況が続く。大阪府は5月16日、一部の施設への休業要請を解除したが、「ここで緩めたらまた感染が広がってしまうから、店は当面開けられない」。ウイルスが人間に及ぼす影響は、共に生きる猫にまで波及している。(共同通信=坂野一郎)

 ▽店に泊まり込む

 「だんご、頑張れ。ちゃんとお水飲んで。頑張れ、頑張れ」。5月6日、中野さんは客のいない静かな店内で、病気の猫に薬をあげていた。推定15歳になるおばあちゃん猫の「だんご」は猫カリシウイルスによる肺炎を患い、自分の力で食事ができない状態だ。看病するため店に泊まり込む日々が続いている。「コロナでお店が大変でも、私がいないとこの子たちは生きていけない。しっかりしないと」。カフェには、飼い主が亡くなったり、捨てられたりした保護猫30匹近くが暮らしている。

中野さんから投与された薬を頑張って飲む「だんご」

 保護猫カフェは、自治体やボランティア団体に保護された捨て猫や野良猫を引き取って、訪れた客への譲渡を目指す仕組み。カフェの収益を運営資金にして、保護シェルターと飼い主探しもする。2010年ごろから全国に広がり、中野さんは18年5月1日に「猫の恵庭」をオープンした。大好きな猫たちを守り、幸せに暮らせる新しい家族を見つけてあげたいと願いを込めた店だ。これまで、約40匹が引き取られていった。

 ▽貯金切り崩す

 今はとにかくお金が出て行くばかりだ。営業していなくても家賃、光熱費、餌代が重くのし掛かる。休業要請支援金の申請を準備しているが、受給できるかどうかはまだ分からない。だんごが動物病院で治療を受ければ点滴などで1回数千円、数日連続で通院が必要な時期もあった。そして、自分自身の生活費も。常連客はキャットフードやトイレ用のペットシーツなど、温かい支援物資を送ってくれるが「このままだと、いただいた物資を使う店自体がなくなってしまうんです」。営業再開の見通しは立たず、切り崩した貯金と、支援者からの寄付で店と生活を維持している。

猫をあやす中野さん

 政府が緊急事態宣言を出す前の3月末に、店を無期限の休業とする判断をした。「感染は店が休まないと防げません。補償は当てにできませんが、店が一斉に休業して終息させた方が結果的に早く元の生活が戻ると思いました」。苦渋の決断だが、それが人にも、猫のためにもなると考えた。

 ▽相次ぐ譲渡会の中止

 自分がコロナにかかったら誰も面倒を見られない。一人で店を経営する中野さんは、感染を避けるため、自宅から店までの電車通勤をやめ、店に泊まり込み猫の世話をしている。

 食料の買い出しで外出すると、居酒屋で客が密集している様子が目に留まった。繁盛しているように映った。「うちはなんのために休業してるんやろ」。休業に後悔はないが、そんな光景を目にするたび、心は追い込まれる。気の緩みで、事態が長引くことが怖い。そのあおりは人間だけでなく、猫やほかの動物にも巡ってくると思うからだ。

中野さんになでられてリラックスした様子の猫

 環境省によると、18年度に殺処分された猫は3万757匹。そのうち、世話の負担が大きい離乳前の子猫が6割以上を占めている。春は猫が出産し、子猫の持ち込みが増える季節だ。だが今年4、5月は自治体やボランティア団体の譲渡会が相次いで中止に追い込まれている。シェルターの収容能力には限界があり、「これ以上猫を受け入れられない。どうしようもない」との声が上がっている。

 ▽「この子たちを守りたい」

 収入減を乗り切り、譲渡の機会を増やそうと、中野さんは「バーチャル猫カフェ」の立ち上げを検討している。「Whereby(ウェアバイ)」や「Zoom(ズーム)」などのテレビ会議システムを通じ、スマホやパソコンで「来店」してもらう仕組みだ。カフェの猫たちの様子を知ってもらい、再開後の来店や譲渡につなぎたいと考えている。「どんな手でも、なんとかこの子たちを守れる方法を考え出したい」

 大阪府は、独自基準「大阪モデル」をクリアしたとして、百貨店などの商業施設、映画館、大学、学習塾などへの休業要請を解除した。保護猫カフェも解除対象に含まれている。ただ、中野さんは「お客さんにうつすのもうつされるのも怖いし、人から猫たちにうつしてしまうのも怖い」と考える。また、最近発表された新型コロナウイルスが猫から猫に感染するという研究結果も気がかりだ。「猫同士で感染が広がるのは避けたいので、営業はしばらく無理やな」

甘える「まだらに」を抱っこする中野さん

 「一生懸命生きてるな」。中野さんは、病気で弱っただんごがピチャピチャと音を立てて水を飲んでいる姿を見るとそう感じる。子猫が歯をむいて必死の形相でがりがりと柱に爪を立てたり、大きな音に驚いて突然走りだしたりすると、心からそう感じる。「猫たちは自分の子どものような存在。こんなときだからこそ、守ってあげたいんです」。そう話す中野さんの膝に、黒と茶が混ざった毛の子猫「まだらに」が顔をすり寄せていた。まだ生まれて9カ月の女の子だという。この小さな猫もまた、飼い主を失った後でこの店に救われた命だ。