見た目はまるで本物の督促状、よりリアルに騙そうとする架空請求が横行

いかに身に覚えのあることだと思わせて、相手を騙すかが詐欺の肝といえます。令和元年の架空請求の被害は深刻で、警察庁の発表では約97億6千万円にも上っています。この背景には、よりリアル感をもって騙すそうとする手口が出てきていることがあるでしょう。


まるで本物の督促状

ひと昔前の架空請求は「未納料金があるので、裁判を起こす」といった脅しの文言を散りばめたハガキを闇雲に送り付けて、それを見て慌てた相手からの電話を待つ形だけでした。

しかもハガキの印刷が薄く雑な作りになっていたり、文言におかしいところも多々あって、詐欺だと気づきやすいこともありました。しかし最近の架空請求はかなり手がこんでいて、なかなか騙しと気が付けないような工夫を凝らしています。

たとえば、本当の支払い督促状だと思わせるために、圧着ハガキの形で送ることもあります。公共料金などの支払いが滞ると、こうしたハガキが送られてきますが、それに便乗したものといえます。

ペリペリと紙をはがすと、「有料サイトの利用料金の支払い確認が取れていません」とあり、「債権者様から債権回収の依頼を受理した」と法律事務所の電話番号が書かれているため、つい電話をかけてしまうのです。さらに「ご注意、最近多発している悪質な架空請求業者ではありません」とまでわざわざ記載して、いかに本物の請求であるかのように装っています。

また、ハガキではなく、地方裁判所の名称が書かれた封書で送られてくることもあります。リアルな請求を思わせるための知恵に余念がありません。

今は、新型コロナの影響で公共料金などの支払いが困難になってきている人も多く、そうした人たちへ向けてハガキやメール、SMSによる架空請求が送られてくることも考えられますので、充分な注意が必要です。

「和解」の持ちかけは詐欺の常とう手段

さらに巧妙な架空請求も出てきています。

皆さんも、ネットでオンラインセミナーを受けたり、儲け話などのノウハウ情報をPDFの形で購入をしたことがあるかもしれません。今は新型コロナの影響もあり、これまで以上に在宅でのオンライン学習をすることが増えていることでしょう。

詐欺や悪徳業者は、過去にセミナーを受講したり情報データを購入した人たちの名簿を手に入れて、騙しのアクションを起こしてきています。

国民生活センターには次のような相談事例が寄せられています

債権回収業者からの電話で「あなたは3年前、オンライン投資塾のプロジェクトに入会していますね」といわれました。もちろん、業者は名簿をもとに電話をしているので、相手は思いあたるところがあり、つい話を聞いてしまいます。すると、業者は畳みかけます。

「入会金を支払った後の月会費約3万 5千円が滞納になっています」

3年前の記憶というものは、案外、忘れてしまっていることも多いものです。それに紙やデジタルデータの契約書面は手元に残っていないことが多いので、詐欺業者は騙しやすいのです。

「あなたのためにセミナーの枠を一つ空けていたのに、不参加だったため、投資塾の運営事業者に対して、約 350 万円の損害が発生しており、このままだと裁判になる」と言います。

詐欺の常とう手段のひとつとして、高額な金額で脅した後に、落としどころを探る方法があります。この業者も「和解」という形で、金額を下げて話を進めてきました。

「和解するには、運営事業者が加入する損害保険会社に保険申請することになるので、供託金約 35 万円を支払うように」

電話を受けた相手は、入会したかもしれないと思い和解を承諾する旨を伝えると、相手は「詳細は弁護士からのメールを送るので確認してください」と言います。

保険供託金といって安心させる

国民生活センターによると、法律事務所名で下記のような和解証明書が送られてきたそうです。一部、簡略化してご紹介します。

この度、貴殿が申し込みされた株式会社〇〇〇〇が運営するプロジェクトの参加料金未払い訴訟並びに債権回収業務について、合意の上、貴殿及び当事務所並びに〇〇〇〇債権回収株式会社の三者間で和解手続が執り行われることを此処に証明する。
(中略)
和解手続完了後は、運営事業者が行うプロジェクトの会員登録解除並びに個人情報保護法に基づき個人情報の抹消を行うと同時に、支払が完了された証として完済証明を発行するものとする。損害賠償額:3,495,600 円 保険供託金額:349,560 円

などと書かれていたそうです。

実は、この保険供託金というのがミソなのです。これにより、詐欺業者は「保険の適用により最終的にあなたにお金が戻ってくるので、あなたの実質負担はない」と言います。

その点も、和解書に記載されています。

「本手続は運営事業者が加入する事業保険を適用するものとし、貴殿が納める供託金の確認後、事業保険による弁済手続が為され、供託金は貴殿に全額返還されるものとする。なお、この際の保険料の精算は貴殿が行う必要はない。」

最近の架空請求詐欺に共通するのが、「後でお金を返しますから」と話して、お金を払う側を安心させてきます。

しかしながら、国民生活センターが調べたところ、債権回収業者もプロジェクト運営事業者も請求はしておらず、保険会社でも今回のような保険は扱っていなかったそうです。

お金を払う前に公的機関に相談を

ここから見えてくるのは、詐欺師たちの逆転の発想です。

これまでの架空請求はアトランダムにハガキやメールを送り付けてから電話を待つ形でしたが、今回は最初に詐欺のターゲットになりうるかどうかのアポイント電話(アポ電)をかけてから、嘘の請求メールで送るという手法をとってきました。

この背景には、ネットなどで情報商材の購入やオンラインセミナーを受ける人が多く、そうした名簿が詐欺業者の手に渡っていることがあるでしょう。今回の相談者も、相手の業者にすでに本人の名前や電話番号、メールアドレスを知られていたので、自分に非があったのかもしれないと思わされて、話を聞かざるをえない状況に追い込まれています。

リアルな状況に付け入って、だまそうとする架空請求の手口には、今後も注意が必要ですが、今回の相談者が行ったように、お金を払う前に公的機関に相談するという姿勢が身を守ることにつながります。

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