「塀の中」も新型コロナ感染リスク 国内最大、東京拘置所の対策は

国内最大の拘置所、東京拘置所

 外の世界とは塀で遮断された刑務所や拘置所内も、新型コロナウイルスの感染リスクとは無縁ではない。密閉空間で大勢が集団生活しているため、いったん感染者が出ると、クラスター(感染者集団)になってしまう危険性も高い。施設内ではどのような対策を講じているのか。国内最大の拘置所、東京拘置所(東京都葛飾区)を取材した。(共同通信=今村未生)

 ▽ピリピリした空気

 東京拘置所には、カルロス・ゴーン前日産自動車会長のように東京地検特捜部に逮捕された人や、凶悪事件を起こした死刑囚が収容されているイメージがあるが、それは一握りにすぎない。大半は警察に逮捕され、起訴後に警察の留置場から移されてきた被告だ。平日には1日当たり10人以上が送られてくる。裁判で刑が確定するまで、ここで過ごすことなる。

「新入調所」でマスクとフェースガード、防護服を着用する担当職員(東京拘置所提供、画像の一部を加工しています)

 地下にある「新入調所(しんにゅうしらべしょ)」。新しい収容者が、最初に通過する場所だ。感染が広がり始めて以降、マスクとフェースガードを着用し、防護服に身を固めた職員が待ち構えるようになった。ここで健康診断をし、所持品を全てチェックする。「感染を防ぐ要となる場所」(拘置所職員)だ。

 被告は刑務所に入る受刑者とは異なり、少し前まで一般社会にいた。感染を十分に疑う必要があり、新入調所にはピリピリした空気が漂う。

 ▽陰圧室

 4月上旬、せきをしていた60代の男性被告が、聞き取りに対し「入所前に熱があった」と申告した。発熱はこの時点で収まっていたが、ウイルスが外に漏れない「陰圧室」に入れた。その後、PCR検査で陽性と判明し、施設内でクラスターが発生せずにすんだ。

「新入調所」で新たな収容者に対応する防護服姿の職員(東京拘置所提供、画像の一部を加工しています)

 記者が拘置所内を歩くと、あちこちの床に赤や緑のテープが貼られていた。感染が疑われる収容者が行き来し、防護服を着用した職員しか立ち入れないゾーンと、それ以外の清潔なゾーンなどに区分けするためだと説明を受けた。

 東京拘置所では収容者を①症状がなく陽性者との接触の可能性なし②症状はないが、陽性者との接触の可能性あり③PCR検査を受ける予定か、発熱などの症状があって陽性者と濃厚接触④陽性者―の4種類に分ける。収容するフロアをそれに応じて分け、洗濯や運動などの処遇についても、決まりを細かく定めた。例えば、発熱の症状がある収容者は、使い捨ての食器で食事させたり、入浴は単独でさせたりするという。

 ▽面会も限定

 収容者と面会できるのは4月15日以降、原則、弁護士に限定した。さらに万全を期すため、収容者と向き合う面会室のアクリル板の下の通気孔は、飛沫(ひまつ)感染を防ぐためビニールでふさいだ。

東京拘置所の面会室。アクリル板の通気孔がふさがれている

 幹部によると、重病で家族に会う必要がある人や、福祉的支援のための社会福祉士などの面会は例外的に認めており、5月11日までに32件あった。

 長期の収容者もラジオや新聞を通じて社会の状況を把握している。公共交通機関を使って拘置所に来る家族らを心配し「こんな時期に面会しようと思わない」と話し、理解を示しているという。

 医療資材の枯渇は、拘置所でも起きており、職員が着る防護服は、洗濯するなどしてできる限り使い回している。収容者には受刑者も一部含まれ、刑務作業として収容者用のマスクを手作りすることも検討中だ。

 ▽滞留する収容者

 悩ましいのが、収容者の増加だ。入所する人のペースは変わりないが、裁判の多くは審理がストップしており、本来なら既に判決を受け、刑務所に移送されたり、身柄拘束を解かれたりしていたはずの人が拘置所に滞留した格好になっている。

弁護士以外の面会の中止を知らせる待合所の張り紙

 コロナ禍前の収容者は1700人程度だったが、現在は1900人に膨れた。定員は3千人。まだ余裕があるとはいえ、中川忠昭(なかがわ・ただあき)所長は「陽性者が出た場合の隔離場所などを考慮すると、収容者は定員の8割程度に抑えたい。でもこの状況下では増え続けるだろう」と懸念を示し、「クラスターは絶対に避けなければならない。これからも職員が踏ん張って、対策を講じていく」と語った。

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