古里に生きる 平戸を支える若者たち<2> 漁師 柴山伸太さん(33) 「おいしい」の声 原動力に

刺し網の手入れをする柴山さん。「漁業が途絶えないよう頑張って盛り上げたい」=平戸市野子町

 カモメが飛ぶ下の海にはヒラメがいる。餌のイワシが集まっているからだ。平戸島最南端の宮之浦漁港から沖合に船を向け1時間。刺し網漁はポイントが命だ。父で、師でもある一郎さん(61)と一緒に高波で激しく揺れる船にローラーで網を上げる。50~60匹のヒラメがかかった時は胸が高ぶる。素早く網から外し、いけすに入れて鮮度を保つ。
 生まれ育った野子は漁業が盛ん。祖父もヒラメやウチワエビ漁などで暮らしを立てていた。小学校低学年のころから、陸での網仕事が一番のお手伝い。浜の景気がまだ良かったころ。漁師のさっそうとした姿が格好良く、跡を継ぐと決めていた。
 県立平戸高を卒業後、すぐに実家の漁船「大伸(たいしん)丸」(10トン)で見習いを始めた。船酔いは辛かったが、どうにか克服できた。それから約15年。漁はまだまだだが、操船は時折任せてもらえるようになった。
 志々伎漁協では、全盛期の約20年前に約50隻だったヒラメ漁船が、今では30~40隻と減った。2016年に年間100トン程度だった漁獲量は、温暖化などの影響で、今年は半分ほど落ち込んだ。自然を相手にする厳しさを常に感じている。
 明るい材料もある。同漁協と平戸観光協会が、冬場の誘客策として1995年に宿泊施設などで始めた「平戸天然ひらめまつり」だ。冬場の3カ月間、多い年は約1万7千人が訪れるイベントに成長した。
 刺し身やしゃぶしゃぶ、茶漬け…。肉厚で甘みのある身の味わいは、観光客らに好評。「平戸ひらめおがみ」と名付けられた重さ2、3キロを主体としたヒラメの姿は圧巻と、口コミなどで広まってきている。
 「おいしかった」。伝え聞くお客さんの声が漁場に出る原動力となる。「ヒラメ漁を通じ、愛する平戸を盛り上げたい」と意欲を見せる。

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