小島よしお今春も旬、たくましき多発屋 ピークアウト後の爪痕多々紹介

東京メトロの『東西線オフピークプロジェクト』のポスター

▼「そんなの関係ねぇ!」から13年、「ゲッツ」からは17年。2020年春にして、新型コロナ禍のさなかにしてなお、小島よしおもダンディ坂野もたくましい。まるで豆苗だ。おいしいところを刈られ食べられても、また伸びて、再収穫をもたらす。

▼写真は東京メトロの『東西線オフピークプロジェクト』、つまりは時差通勤促進の広告ポスターだ。「ピークを知る男」がオフピークも悪くないよと語っている。企業経営者が乗るハイヤー内にこそ貼って促してほしいとも思うが、さておき、この広告は東西線のみならず、別路線の車内にも掲示されている。とても目を引く。スマホ注視を止めて2人の勇姿に見入る乗客を、筆者はしばしば目撃している。

▼さらには、タカラトミーが4月に発売した『超飛び黒ひげ危機一発MAX5』の広告にも、小島よしお、ダンディ坂野、スギちゃん、髭男爵らが登場。黒ひげが従来の1人から5人に増員、同時発射される45周年記念版ゲームで、巣ごもり中のちびっ子と親御さんへの訴求に「一発屋」たち5組が抜擢された。

▼昨年は、「新語・流行語大賞」の候補にもお笑いギャグ・芸人が見当たらなかった。「流行語に選ばれると一発屋になってしまうから選ばれたくない」と言う芸人がいるのは事実だが、ボイコットではなく実際に大ブレイクした芸人やギャグがなかった。特に若い世代はYouTubeなどSNS視聴が多く、「みんな見てる」感触があるテレビ番組は少ない。すると一般名詞の「一発屋」のイメージは新たな芸人による更新がされず、かつて一世を風靡した特定の芸人たちを指す固有名詞の「一発屋」が分離し、立派に一人歩きを始めている感がある。

▼筆者は、小島よしお大ブレイクのピーク後3年間ほど、彼が起用された多種のPRイベントに何度も駆け付けた。その記録の一部でもご覧いただくと、よしおのタフネス、というのか、ビギニング・オブ・豆苗というか、何かしらは感じていただけると思うので、よしおが残してきた爪痕の幾つかを紹介する。

▼2008年4月3日、小島よしお、お笑い芸人初の快挙。日本郵政グループの郵便局会社が小島のフレーム切手を発売するに当たり都内で記者会見を開いた。海パン一丁ではなく、ダークスーツ姿で登場。おなじみの曲にのり「最近時代は、電子メールだよ、はがきはあんまり使われねぇ、でもそんなの関係ねぇ!でもそんなの関係ねぇ!80円おっぱっぴー」。自転車の空気入れを終えた時みたいな「ぷすっ」とした小さな笑いが起きた。真顔になったよしおが「実はこの世界に入ったのは、いつか切手になりたいなっていう夢があったので、本当にうれしく思います」と大ウソをつくと、さっきよりウケた。

 いったん退席したよしおは“正装”の海パン姿で再登場。浜崎あゆみや阪神タイガース、ドラえもんの切手も同時発売されるため「僕はかませ犬的な感じも…」と自虐しつつ「切手なんで、全国各地で僕をペロペロしてほしいです」と締めた。

▼2008年7月25日、紫外線ケア商品「コパトーン」のコパトーンガールお披露目イベント。水着が似合う芸人として小島よしおが“隊長”として出席。8人がかりで全身にコパトーンを塗られ、「まずいよ、まずいって…」とよしお悶絶。持ちネタ「ラスタピーヤ」のポーズで三白眼に。ここでイベント終わればいいのに報道陣から「紫外線をテーマにギャグを」と振られ、困りながらも即興で幾つか繰り出したが、滑りまくりの大やけど。「急いでコパトーン塗らないと」。うまいことオチた。

▼2008年9月16日、映画『蛇にピアス』特別試写会。主演女優・吉高由里子の応援になぜか小島よしおが呼ばれ、体長3mのニシキヘビを体に巻き付けられて登場した。これだと『蛇にヨシオ』でしかない。映画は「痛み」がキーワード。よしおは「最近バラエティー番組の現場で精神的な痛みを感じる。胃が痛くなって病院に行ったら『バラエティーで極力前面に出ない方がいいですよ』と言われた」と語った。なのにやっぱりギャグを連発して滑ってしまうよしお。吉高はそんなの関係なく「蛇がすごく苦手そうなのに体を張ってくれた。この映画はきっとヒットすると思う」と感謝。いや関係ないと思うけどな。

▼2008年11月12日、米国のゾンビ・サバイバル体験型映画『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』公開記念イベント。ゲストの小島よしおは海パン一丁姿で「(芸能界のサバイバルに)危機感しかない。危機感が服着て歩いてます」。服は着てなかったが真情を吐露した。

「小島よしおが消えないように応援するサイトってあるんですけど、去年から更新されてない」「最近イベントで『そんなの関係ねぇ!』ってやったら、最前列の子どもが『懐かしい』って」「友達から『そろそろ飲み会来られんだろ。もういいだろ』と声を掛けられた」と蛇口が壊れたように危機感がドバドバ。

とはいえ、よしおは携帯電話用の音声商品のヒットなどで、所得は億円単位との推測も流れていた。時はリーマンショック直後だ。「定額給付金」が出るそうだが高額所得者なら辞退する?と聞かれ、「うーん…。ただ、一番貯蓄が必要なタレントだと思うので、もらえるものはもらいたいです」。普通な答えすぎて笑いが起きた。

▼2009年4月22日、小島よしお歌手デビュー。テレビアニメ『ケロロ軍曹』のエンディング主題歌『だいじょうぶスッポンポン・フレンド』のCDが発売されることになり記者会見。「僕が芸能界に入ったきっかけっていうのが、いつかケロロ軍曹のテーマを歌いたいっていうのがあったので」と、いつものやつでスタート。

 「日本のアニメは世界に広がってるんで、スペイン語とか韓国語、英語とかでも歌って、全世界を一つにしたい」「歌に自信があるというか、大好きです歌が。歌が好きだから、多分、歌も僕のこと好きでしょうし」と言いたい放題。CD売り上げ順位の公約は?と聞くと「そりゃもちろん1位です」。達成できなかったら? しばらく考え込み、「髪、ちょっと切ります…」。自信なかったのであります。

▼2010年7月29日、米映画『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』PRイベントに俳優石田純一、歌手ISSA、元格闘家・武蔵と小島よしおが日本版Aチームとして出席。

 武蔵が「このために体を鍛えてきたなと…感極まってます」とウソぶいて笑わせると、よしおが「僕も今まで体を鍛えてきて良かったなと思います」とコメントかぶせで笑いを取りにいき、武蔵は不快顔。すると怪力の武蔵はよしお相手にキック披露へ。キックミットの持ち方を教えている間に、よしおがふざけて一発蹴り込み、武蔵は「ホントにカチンときた」、ドンッ! 左ミドル一撃、重たい音ともに海パン一丁のよしおが吹っ飛んだ。よしおは言った。「僕は芸能界という空をかなり低空飛行してます。墜落せずにAチームと再浮上して、日本の夏を盛り上げたいです」。打ち上げ花火が脳裡に浮かび、きゅんと切なくなった。

▼2010年10月20日、よしおとダンディそろい踏み。スキージャンプ未経験なのに代表チームを組まされたダメ男5人が、人生の一発逆転を目指して奮闘する姿を描いた韓国映画『国家代表!?』のPRイベント。ダンディ坂野と小島よしおが“ダメ男日本代表”として一発逆転を祈願した。

 このころ既に「一発屋のカリスマ」の異名を取っていたダンディは「僕は7年連続で『来年消える芸人』に入ってますから」と言い、<消えてないこと>を強調。よしおを指して「彼なんか3年連続で『来年消えると思う芸人1位』ですから」。そこでよしおが生き残りを懸けて披露した新ギャグは「前へ前へ前へ、チョコチョコピンポンパーン」。何度墜落しても壊れぬよしおは凄い。

 この日は「ルネッサーンス!」のお笑いコンビ「髭男爵」の“しゃべらない方”と紹介されてひぐち君も登場。唯一のギャグ「ひぐちカッター」の変形版を散発して「K点越えました?」。

浮上の兆しが全然見えないこのイベントで、トリを務めたのは黄色いタキシードの男。スキージャンプ台の滑走姿勢に入ったダンディ、しばらく腰を落としている、踏み切った、足をV字に開いた、いい前傾だ、「ゲッツ」。この日一番の、いや唯一の笑いを取り、カリスマの底力を見せつけた。

▼小島よしおの事務所の先輩、「髭男爵」の山田ルイ53世は、著書『一発屋芸人列伝』(2018年)の中で、「例えば、ダンディ坂野。2003年に『ゲッツ!』で一世を風靡した彼を丁度1発とすると、我々髭男爵は、せいぜい0.8発だ」「小島よしおの場合は、1.5発、あるいは2発。何しろ、郵便切手の図案になるほど売れた男である。もはや、偉人レベル・・・桁が違う。」と敬意を表している。

▼よしおは、自身の著書『キッズのココロわしづかみ術』(2017年)の中で「『一発屋』をブランド化したい」と記している。ブレイク後、「一発屋」と呼ばれることをマネージャー共々ひどく嫌がっていたそうだ。だがピークアウト後、テレビ出演が激減し、たまに番組に呼ばれると「一発屋」としての仕事を求められるうち、「自分から『一発屋』と言っていこうと考えました」という。「ひとりひとりの力は弱くても、みんなが集まれば大きな力になる」「力を合わせることが、生き残るために必要だと思ったのです」。2015年、レイザーラモンHG、波田陽区、ムーディ勝山、ジョイマンらと集まる「一発屋会」が生まれている。

 よしおはこうも記した。「日本人は往々にして新しいものが好きです。(中略)テレビの世界も、常に新しい人材が重宝される傾向にあります。古いはダサイ、という価値観です。だけど僕は北欧流に『一発屋=アンティーク』のような存在にしたいのです。『小島よしおって何年ものなの?』『え? 2007年もの? すごく古い! いい味出してるねぇ』というような会話ができると面白い」

▼今、よしおはYouTubeの『小島よしおのおっぱっぴーチャンネル』で「おっぱっぴー小学校」を開校。体を張って算数を楽しく学ぶ小学生向け動画を次々と上げている。当初の動画は海パン一丁姿だったため、配慮をきかせて幾つか削除してしまった授業があり、もったいないのだが、その後はTシャツ姿で新たに奮闘、大好評だ。早稲田大学教育学部卒なだけあってなのか、年間100本レベルで子ども向けイベントに出演しているプロフェッショナルなせいなのか、よしおの授業、全然ヘタこいてない。すごく分かりやすい、そして楽しい。チントンシャンテントン、チントンシャンテントン…。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第135回=共同通信記者)

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