コロナ禍の撮り鉄

東京スカイツリー付近の川沿いを走る東武スカイツリーラインの電車

 【汐留鉄道倶楽部】コロナ禍でもできるタイプの撮り鉄を始めた。まさかこの日本に、列車を気軽に利用できない日常がやってくるとは思いもしなかった。

本コラムを書いている2020年5月13日は、日本中が新型コロナウイルス感染拡大による政府の緊急事態宣言のまっただ中にあり、とても趣味のために列車に乗れる状況ではない。こういう時は、時刻表をながめての仮想旅行、コレクション整理、動画鑑賞など、自宅で鉄道趣味を楽しむ「家鉄」がありがたい。

 筆者は列車に乗るのを仕事の行き帰りにとどめている。乗り鉄はもってのほか。平時には鉄道事業者への感謝を込めて列車で撮影に出掛けてきたが、今は無理だ。時勢にかなった撮り鉄として、体力維持のためにやっているウオーキングやサイクリングを活用することにした。

 ゴールデンウイーク明けの平日に休暇が与えられた。「目的は健康。緊急事態宣言の趣旨を守り、密を避けること」をルールに掲げ、観光地でもある東京スカイツリーの周辺へ向かった。

隅田川の遊歩道には、ジョギングする人、散歩する人、じっと座って日を浴びている人がまばらにいて、のんびりとした雰囲気が漂っていた。川の水は流れているのか流れていないのか分からないほど静かで、作業船がピチャン、ピチャンと小さな波を立てながら、遊歩道の脇にある水門に近づいてきた。

 そこへ「ゴトン、ゴトンゴトン」と電車の鈍い音が響いた。浅草行きの東武スカイツリーラインだ。電車は隅田川を渡りきった直後に大きく左折し、川と平行に伸びる浅草駅のホームに入っていくため、「隅田川橋梁」を渡る速度はとてもゆっくりしている。その鉄道橋の下流側に歩道橋が隣接しており、浅草方面から男性1人が歩いてきた。

 この歩道橋こそ、今回のサイクリングの最大の楽しみだった。水辺のにぎわい整備事業として、今春の利用開始を目指して建設されたばかりで、東武電車の走りを間近で見ることができるはず。

筆者も渡ろうと思って歩道橋のたもとまで行ったが、通路は柵でふさがっていて「すみだリバーウォーク開通延期について」との看板が。4月13日から渡れる予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期したとのこと。先ほどの男性は関係者なのだろう。

 筆者の楽しみも延期となり、スカイツリーに行く途中の「源森橋」を目指した。スカイツリーと川と電車を絡めた写真が撮れる場所で、歩道がすこぶる広くて安心できる。

スカイツリーラインの高架下を覆う黒いシートの奥には「東京ミズマチ イーストゾーン」という商店街が開業を待っていた。隅田川の鉄道橋脇の歩道橋と同じように、にぎわい整備事業の一環で整備中だ。計画通り6月にオープンできるよう祈り、次へ移動した。

 東京スカイツリーの前では、人の少なさにびっくりした。スカイツリーは臨時休業、ショッピングモールの「東京ソラマチ」も一部の店しか開いていないから閑散としているのは当たり前だが、平時のにぎわいを知っているだけに信じられない光景だった。

 駅前ロータリーを抜けて高架工事が進む踏切へ。2024年度に工事が完成すれば、この踏切は解消され、地域の交通が便利になる。スカイツリーと電車を絡めて撮影できるポイントとして知られており、若い鉄道ファンがカメラを構えていた。

押上駅に向かう京成押上線の電車

 踏切のすぐ脇にあるコンクリートの囲いは、京成押上線が地上と地下を行き来する地点だ。東京スカイツリータウンの地下には、京成押上線と都営浅草線が乗り入れる押上駅がある。

東武スカイツリーラインはとうきょうスカイツリー駅の隣が曳舟駅、京成押上線は押上駅の隣が京成曳舟駅となっており、線路に高低差があるため見えにくいが、両線はほぼ併走している。

 少し離れた住宅街に、地上を走る京成線を撮影しやすいポイントがあり、先客がいた。接触を避けるため、先客とは道路幅の距離を取って撮影した。

 ☆寺尾敦史(てらお・あつし)共同通信社。一日も早く平時に戻ることを願っています。

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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