クイーン+アダム・ランバートからのメッセージ “君こそがチャンピオン”  2020年 5月1日 クイーン+アダム・ランバートの「ユー・アー・ザ・チャンピオンズ」がリリースされた日

QAL初のシングル「ユー・アー・ザ・チャンピオンズ」

始まりはブライアン・メイのギター1本での演奏だった。そこにロジャー・テイラーがドラムスを重ねた。さらにアダム・ランバートがヴォーカルを乗せた。後半の歌詞の “We” を “You” に替えて――

5月1日(金)、クイーン+アダム・ランバートのシングル「ユー・アー・ザ・チャンピオンズ」が急遽配信でリリースされた。1977年10月にアルバム『世界に捧ぐ(News Of The World)』から先行シングルとしてカットされたクイーンの「伝説のチャンピオン(We Are The Champions)」のリメイクであり、2011年から活動しているクイーン+アダム・ランバートの初めての音源リリースとなった。いわばデビューシングルなのである。

始まりはブライアン・メイ、オンラインセッションは1本のギターから

4月9日にブライアン・メイが自らのインスタグラムや YouTube 公式チャンネルに「伝説のチャンピオン」の、ギター1本での伴奏をアップしたのが全ての始まりだった。

ブライアンが “マイクロ・コンサート(MicroCon)” と呼ぶこの様な動画は、新型コロナ禍の中オンラインでのセッションを呼びかけるもので、この前に公開された「ハマー・トゥ・フォール」(1984年)も、プロアマ問わずミュージシャンが参加した数多くのセッション動画がアップされた。

今回は1週後の16日に、ロジャー・テイラーがドラムを重ねた動画が公開された。クイーンの2人が揃った、こうなったら… と思ったら4日後の20日、遂にアダム・ランバートがヴォーカルを乗せた映像が公開され、3人が勢揃いした。アダムは後半の歌詞の “We” を “You” に替えて歌っていた。

好評につき、遂にはこのヴァージョンがシングルでリリースされることになった。ギターのオーヴァーダブやツアーメンバーによるベースも加えられ、タイトルも「ユー・アー・ザ・チャンピオンズ」になった。“You” は主に新型コロナウイルスに立ち向かう医療従事者を指していて、このシングルの印税、収益の全ては医療従事者のために寄付されることになった。

MVも医療従事者に関連する映像をテンポよく繋ぎ、短期間で作られたとは思えないほど心動かされるものになっている。ぜひ一度ご覧頂きたい。

大ヒット映画「ボヘミアン・ラプソディ」を受けてのワールドツアー

もう結構前のことに思えるのだが、今年1月末のクイーン+アダム・ランバートの日本公演は予想外であり、尚且つ圧倒的だった。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを受けての『THE RHAPSODY TOUR』と銘打たれたツアー。今まで以上にフレディ・マーキュリーがフィーチャーされるだろうというのが僕も含め大方の見方だった。

僕は1月25日と26日のさいたまスーパーアリーナ公演に足を運んだ。スタジアムモードで今まで見たこと無いほどの観客が詰めかけた会場で目を引いたのは、後方に巨大なものを始めとしてモニターを複数配置し、セットの中には観客のいるオペラボックスまで備えられた、スタジアム仕様の壮麗なステージであった。

たとえ高い入場料でもソールドアウトが確実に期待出来る中、そのお金はステージや演出にたっぷりとかけられた。CGも多用したその映像効果、そして照明は今までのクイーン+公演の中で群を抜いていて、コンテンポラリーなものだった。この様な公演がやりたかったとブライアンも認めている。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大成功を、自分たちのやりたいことに上手く活用したという訳だ。

そして僕が唸ったのが本編最後の「ボヘミアン・ラプソディ」だった。2005年のクイーン+ポール・ロジャースでの日本公演以来、クイーン+ではこの曲で必ずフレディが映像で登場し歌い、我々の涙を絞るのだった。

脱フレディ・マーキュリー、現役バンドとしての圧倒的存在感

しかし今回、今まではライヴエイドの様にピアノの部分から入っていたのが、いきなり冒頭のコーラスからきちんと入った。この部分から既に歌っていたアダムはピアノの部分になっても歌い続け映像のフレディは出て来ない。中間のオペラコーラスの部分でクイーンの4人がテープで歌い、ようやく映像でフレディも登場するがソロではない。

そして締めの部分。これまではポール・ロジャースやアダムがフレディとヴォーカルを分け合っていたのだが、今回はアダムが全て歌い、遂にフレディは出て来なかった。思わず声が出てしまった。涙は流れなかった。

なんとツアータイトルにもなった「ボヘミアン・ラプソディ」で今回、脱フレディがなされたのだった。寂しくないと言ってしまうと嘘になるが、フレディが亡くなって今年で29年、クイーン+アダム・ランバートが懐古的だけではなく現役のバンドとして歩み始めても誰も何も言えまい。それ位今回の日本公演はバンドとして圧倒的だったし、また観たいと強く思わせるものだった。

ちなみにフレディは全く出て来なくなったわけではないのでご安心を。

ライヴエイドのセットリストを35年ぶりに再現!

自信を深めたクイーン+アダム・ランバートが、日本公演の後のオージーツアーでその充実を示すべく、歴史的なパフォーマンスを行った。2月16日、シドニーでの森林火災救済コンサートで、1985年7月13日のライヴエイドのセットリストを再現したのだ。34年半振り、もちろん初めてのことだった。

ここでもアダムはフレディの物真似はしていない。しかしその堂々たるパフォーマンスはライヴエイドにも引けを取らない。再現前、ライヴエイドの映像を改めて観たという3人は、そのハードルをクリアしてみせた。日本公演同様フレディもちらりと登場する。Stay Home の今、このライヴ映像は文句無しにお勧め!である。

ちなみにこの6曲はバラバラではあるが全て日本公演でも披露された。それならば日本でも… と思ってしまうのは決して僕だけではあるまい。

向き合っていこう! 医療従事者もチャンピオン、我々もチャンピオン

クイーン+アダム・ランバートも、オージーツアー以降のイギリス及びヨーロッパのツアーを来年に延期した。絶好調の中での延期は彼らにとっても無念だっただろう。「ユー・アー・ザ・チャンピオンズ」は待ちぼうけを食らったイギリスとヨーロッパのファンにも捧げられている。

オンライン、そしてスマホでの録音でラフではあるが、33年後の「伝説のチャンピオン」リメイクは、今の充実したクイーン+アダム・ランバートだからこそ許されたのではないだろうか。主語を “You” に替えたことも。

この “You” を新型コロナウイルス感染拡大防止のため外出を控えている我々と考えてもいいのではないか。そもそも1番には “We” も残っている。“我々” もチャンピオンとして、この曲にも背中を押されて、もう少しの間胸を張って新型コロナウイルスに向き合っていこうではないか。

カタリベ: 宮木宣嗣

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