ウイルスに備える

 歌人の永田和宏さんは、細胞生物学者でもある。先ごろ本紙に載ったインタビュー記事で、科学者として語っている。〈「新型コロナウイルスに打ち勝つ」といった言葉が飛び交っていますが、ウイルスは生き物ではありません。ましてや「人類を攻撃しよう」なんて意思は持っていません〉▲永田さんは「打ち勝つ」というよりも〈過度に恐れることなく、ウイルスに備えること〉が大切だと言う。敵視するわけでも、ひたすらおびえるわけでもない。「これからどうする?」と先を考えよう、という呼び掛けに読める▲感染拡大の緊急事態宣言が、本県を含む39県で解かれた。県内では先月半ばから感染者は出ていない。外出を控える、休業協力の求めに応じる。皆さん一人一人の行動の成果といえる▲今はいくらか胸をなで下ろす。社会、経済活動がだんだんと息を吹き返すようにと、息の詰まるような時期を過ごしてみて思う▲とはいえ、コロナ禍はまだ列島を覆い、第2波が来るともいわれる。「これからどうする?」。今日からの行動を考える時だと捉えたい▲身近な衛生環境づくりを続ける。「新しい日常生活」の形を探る。政治や行政は経済的な危機にある人にさっと手を差し伸べる。今をしのぐだけではない。これからも続くコロナ禍への「備え」でもある。(徹)

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