古里に生きる 平戸を支える若者たち<3> 菓子職人 津上智さん(28) 父のような職人目指す

自慢のレモンケーキを袋詰めする津上さん。励みは「おいしかった」の声=平戸市魚の棚町、「菓子処 津乃上」

 江戸末期創業の菓子店「菓子処 津乃上」。平戸市の城下町にある店の裏にある工場から甘い香りが漂ってくる。
 「レモンケーキ」は、ふわりとした食感と爽やかな甘さで贈り物として人気だ。果汁を混ぜた生地をオーブンで焼き上げる。水分が抜けたり生地が膨らみすぎたりしないよう、何度も触れて確認する。本物の果実のような艶やかさに近づけたいと、レモンチョコを2度塗りして仕上げるのがこだわりだ。
 向かい側では4代目の父、忠さん(61)が黙々と手を動かしている。もちもちした歯応えの「牛蒡(ごぼう)餅」や城をかたどった「平戸城もなか」など、いずれも店の看板商品の和菓子だ。
 16~17世紀、中国やポルトガル船の来航地となった平戸に菓子文化も伝わった。17世紀、菓子は藩主の松浦家に伝承される武家茶道「鎮信流」で使われ、城下町には30を超す店が並んだ。その名残か、平戸の人は甘い物好きだ。市内に10ほどある店が腕と味を競う。
 小学生の頃、「おいしかった」というお客さんの声にほころぶ父の顔が誇らしく、それが菓子職人への道を決めさせた。洋菓子作りを学んだ長崎市の専門学校卒業後の2016年から店で働き始めた。
 その翌年、忠さんが体調を崩し入院した。「レシピを見ながらだったらできるはず」。注文を受けていたまんじゅうを作ってみたが、あんの練り加減がどうしてもうまくいかない。お客に頭を下げ、焼き菓子に変えてもらった。経験の差を改めて実感した。まず洋菓子を極めなければと材料の配合を変えたりしながら甘みや食感の違いを舌にたたき込んでいる。
 父から許しがでたら、和菓子にも本格的に踏み出す。洋菓子の技術も取り入れて、古里の菓子を進化させたい。目指すは父のように「おいしかったよ」と言ってもらえる職人だ。

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