40代夫婦「老後の資産に戸建を購入し、退職金なしでローンを完済できる?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、老後の資産にと新築戸建ての購入を検討中の40代ご夫婦。退職金なしでローンを完済できるかというご相談ですが……。FPのたけやきみこ氏がお答えします。

40代の夫婦です。子どもはいません。老後の備えとして新築戸建てを買おうとしていますが、年齢的にローンを完済できるのか気になっています。

検討中の物件価格は4800万円。住宅ローンの借入額は4200万円、金利1.24%(当初10年は0.99%)、返済期間30年で考えています。月々の返済額は、いまの家賃と同じくらいの負担になるようにと考えていますが、これで大丈夫でしょうか。

また老後資金は、年金と個人年金をあわせておそらく10万円程度。退職金は期待できません。購入しようとしている物件は70歳あたりで築20年を過ぎますが、該当地域の売値相場は現状、安目にみても2500万円であれば売れるのではと見込んでいます。そのため、老後資金が足りなくなったら売却することで生活費の足しになるのではないかと考えています。アドバイスよろしくお願いします。

<相談者プロフィール>

・男性、48歳、既婚(妻:45歳、パート)、子どもなし

・職業:会社員

・居住形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:55万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:なし

・毎月の世帯の支出目安:40万円

【支出の内訳(40万円)】

・住居費:14万円

・食費:5万円

・水道光熱費:1.8万円

・教育費:なし

・保険料:3万円

・通信費:2万円

・車両費:なし

・お小遣い:5万円

・その他:5万円

・不明:4.2万円(おそらく年間の特別費などにまわしている)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:15万円

・ボーナスからの貯蓄額:なし

・現在の貯蓄総額:800万円(個人年金は含まず)

・現在の投資総額:なし

・現在の負債総額:なし


たけや:アラフィフ世代にとっては、老後生活への不安や、定年退職という大きなライフイベントが待ち構えています。会社員の方が今の生活ができているのは給与をもらえているからです。しかし、老後は給与という収入がなくなります。これは実際に経験をしているわけではないため、実はわかっているようでも実感が湧かないでしょうし、想像もできないかもしれません。では、老後生活の資金はどのように準備をしたらいいのでしょうか。

今回は、アラフィフのご夫婦で、老後の生活資金づくりに住居を購入し、機会があれば売却してまとまった資金として活用したいというご相談です。

「元利均等返済」VS「元金均等返済」、どちらが有利?

ご相談の内容は2つ。1つは、老後資金をつくりたいが、その方法として、将来の自宅売却を検討したいということです。2つめは、住宅ローンを組みたいが、返済額を現在の家賃と同等の額にしても返済は可能なのかどうかということです。以下に相談内容を整理し、「元利均等返済」と「元金均等返済」の場合の住宅ローンのシミュレーションを簡易につくりましたので、こちらをもとに検証していきます。購入する自宅の将来における資産価値については考慮していません。

■相談内容
1)老後資金をつくりたい
2)ローンを組み、返済が可能かどうか知りたい

■ライフイベント関係
・定年退職を65歳と仮定
・70歳時に自宅を売却すると仮定
・住宅ローンの完済は30年後の78歳と仮定

■住宅ローンのシミュレーション
【元利均等返済】
借入金額:4200万円
金利:0.99%(11年目~1.24%)
返済期間:30年
毎月の返済額(10年まで):約13万4000円
毎月の返済額(11年~):約13万8000円
65歳時のローン残高:約1980万円
70歳時のローン残高:約1250万円

【元金均等返済】
借入金額:4200万円
金利:0.99%
返済期間:30年
月の返済額:約15万円(初回)
月の返済額:約13万1000円(65歳時)
月の返済額:約12万6000円(70歳時)
65歳時のローン残高:約1800万円
70歳時のローン残高:約1100万円

※SAKU株式会社の試算より。試算値は概算値ですので実際の数値とは異なります。

定年後のローン返済は厳しい。まずは給与体系の確認を

結論から言えば、現状では定年後のローン返済は難しいでしょう。
まず、現在の給与をいつまでもらうことができるのかということが問題になってきます。たとえ定年退職が65歳だとしても、その間に現在の給与体系が維持されるのかは不確定です。会社によっては、55歳に役職定年を設けているところもあります。また、60歳に向けて緩やかに給与が減っていくところなど、給与体系についてあらかじめ調べておくことが大切です。ご相談者様の給与は今後どのように変化するのかを確認してください。

仮に、65歳で定年退職して年金生活となれば、年金と個人年金を併せた月の収入は10万円。とても住宅ローンは返済できません。できたとしても、生活費が捻出できなくなります。

さらに、退職金が期待できないとのこと。退職時に退職金から住宅ローンを精算できないとなると、老後に住宅ローンが重くのしかかります。

強いて言えば、ローンを組む前にできる対策として、返済方法を選ぶことです。上記の「住宅ローンのシミュレーション」では、 毎月の返済額が一定になる元利均等返済と、返済額のうち、毎月の返済額の元金の額が一定になる元金均等返済を比較しています。

65歳時点のローン残高は、元利均等返済では約1980万円、元金均等返済では約1800万円。その差は約180万円。70歳時点でも150万円ほどの差があります。ローンの残高が少なければ、万が一、売却した時に手元にその分多くの資金を残すことができます。元金均等返済で確実にローンの残高を減らしていく返済方法を上手に利用しましょう。ローンを組む以上は、確実にローン残高を減らすための工夫を考えてください。

自宅売却が最善の方法か再考を

次に、自宅を売却していくら老後資金をつくれるか検証してみましょう。
70歳あたりで売却した場合ですが、提示のとおり2500万円で売却するものと考えてみます。手数料などの諸々の費用は考慮しないで、単純に引き算をしてみます。

2500万円からローン残高を差し引くと元利均等返済の70歳時のローン残高は約1250万円なので、1250万円が残ります。元金均等返済の70歳時のローン残高は約1100万円なので1400万円が残ります。多いほうの1400万円をもとに、48歳からローンを組み、22年間かけて1400万円を手にすることが、老後資金づくりに見合った方法なのかどうかを今一度考えてみましょう。
なお、住宅ローン減税の恩恵が受けられれば、税額控除分は税金が還付されるため、その分を貯蓄に回すことができます。

最も気になるのは、住居を売却した後はどこに住むのかという問題です。その後は賃貸とした場合、15~20年分の家賃を用意しなければなりません。リバースモーゲージ(自宅を担保にした融資制度の一種)など、自宅を資産として活かす方法もありますので、売却以外の方法も調べてみましょう。老後の生活設計を考えるうえで住まいは大きな割合を占めます。賃貸なら一生において家賃を支払っていく必要がありますし、自宅を持っていれば住み続けながら生活資金を確保する方法を検討することもできます。

しかしまずは、ローンを返済できなければせっかくの計画も実行できません。今のままでは完済は難しいでしょう。毎月の貯蓄額からみると現在の貯蓄額が少ないようです。また、貯蓄額800万円から住宅購入時の頭金をねん出すれば手元の現金は一気に減ってしまいます。貯蓄額を増やすために、積立額の増額を検討してみましょう。そのためには夫婦の収入を増やすことも同時に考えてほしいと思います。

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