【消えた選抜からの道7】「コロナは敵ではない」目標を奪われた平田ナインに監督が送った言葉

平田高校は21世紀枠で春夏通じて初出場となるはずだった

19人の部員全員と個人面談、前向きさを取り戻した矢先の“2度目の中止”

新型コロナウイルスの感染拡大で大会史上初の中止となった第92回選抜高校野球大会。今なお収束の兆しは見えず、夏の予選をはじめ先行き不透明な状況が続く中、各校の監督、選手はどんな思いで日々を送っているのか。21世紀枠で春夏通じて初出場となるはずだった平田の落胆は大きい。これまではあまり特別なコミュニケーションはとってこなかったと話す植田悟監督に、選手の心のケアについて訊いた。

「うちの場合は相当ショックを受けてるという感じでした。中止の発表があった瞬間は練習中で、それを途中で切り上げて部長から話があった。今の今まで無観客開催を信じて練習していた選手たちは呆然とした様子で、その場で泣き崩れる者、迎えに来た保護者の車で声を上げる者など、生徒のショックには深刻なものがありました」

全国大会出場がなくなったため、翌日から他の部と同様活動禁止に。初の甲子園を奪われた選手の動揺を重く見た植田監督は、その週から放課後に選手を呼び部員19人全員の個人面談を行った。

「それぞれ、選抜が中心になった瞬間の気持ちと、今の気持ちを吐き出させた。ほとんどは『とてもショックだったけど、今は夏に向けて前向きに切り替えられています』と立ち直っていました。4月7日に部活動が再開となり、さあ夏に向けてという矢先の8日、県から練習試合の禁止と春の大会の中止を言い渡されたんです」

「敵はコロナではない」上田監督が手紙に込めたメッセージ

程なくして休校が決まり、それも延長となって今は少なくとも5月31日まで何ひとつできないもどかしい時間が続く。再び目標を失い、しかも今度は会って話を聞くことすらできない状況に、植田監督がとった手段は手紙だった。

「コロナが憎い、コロナが敵だと思うかもしれないが、本当の敵は自分の心の中にいると伝えました。もちろん、生徒にとってこんなに理不尽なことはない。それでも、そこで不安になったり、諦めたり、努力することをやめたりするのは自分。できるできないじゃなく、やるかやらないかなんだと」

初出場の聖地を奪われてから、早くも2か月が経とうとしている。2か月で依然状況は変わらず、最後の夏まで開催が危ぶまれるなか、今どんな教育ができるのか。現場の指導者も答えのない問いに頭を悩ませている。(終わり)(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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