東京女子医大が全学生に新型コロナの陰性確認実施へ 「儀式としてのPCR検査は無意味」専門家が批判

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医学生や看護学生を教育している東京女子医科大学(丸義朗学長)で、6月から授業を再開するための準備として、学生全員に登校前に新型コロナウイルスのPCR検査を5月16、17日に行うことがわかった。

時事通信 東京女子医大病院

PCR検査の精度は高くなく、無症状の学生に検査をすれば、本当は陰性なのに陽性と出る「偽陽性」、本当は陽性なのに陰性と出る「偽陰性」の結果が出る可能性がある。

日々、患者と接している医療者でさえ検査は受けておらず、PCR検査は「陰性確認」には向かないと考えるのが医療者の常識だ。

医学生の一人は、「今、もし陰性でも6月に陰性とは限らない。なぜ大学がこのようなことをするのかわからない」と不信感を抱く。

自身も大学で教える神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎さんは「儀式としてのPCR検査で意味がない。医学教育的にも逆効果です」と厳しく批判している。

「感染を回避する目的で」 学生全員に学内で検査

同大学では新型コロナの感染拡大防止のため、2月末から授業を停止し、学生や教職員を自宅待機とさせている。

東京女子医大 6月の登校に向けて、陰性確認のためのPCR検査を医学生や看護学生にすることを通知する東京女子医大の文書

大学が学生や保護者向けに最初の通知を出したのは5月11日のことだ。

学長、医学部長、看護学部長、両学部の教務委員長の連名で「6月登校にむけての準備のご案内」という件名の文書が学生のポータルサイトに公開された。

それによると、「回復の兆しを受け、本学では6月以降の投稿に向けての準備を開始することにいたしました」とした上で、こう告げている。

本学附属医療施設においては、院内感染を発生させないよう他施設より厳重な管理体制をひいていることを踏まえ、学生の投稿にあたりましても学生間、学生・職員間、学生・患者間での感染を回避する意味で、全学生に対して登校前にCOVID-19のPCR検査を施行することにいたしました。

また、13日に出された詳細な資料には、「陰性確認と陽性者の早期対応」が目的として明記されている。

今回の PCR検査は、学生さんの健康と大学敷地内での安全な学修を維持するために、本学としましては登校前に陰性であることの確認と、万一陽性者がいた場合に早めの対応を行うことを目的に施行を決めさせて頂きました。

PCR検査を実施するのは5月16日、17日の2日間で、全医学生、看護学生が対象だ。2週間以内に発熱、咳、たんなどの風邪のような症状や体調不良を抱える学生は登校不可とし、無症状者が対象としている。

検査は病院内の施設に学生を集めて大学病院の医師が検体を採取し、検体の分析は外部の民間検査会社に発注する。

1人1万6000円と消費税、容器代などは、保護者が積み立てている父母会の資金から出すことを求めている。つまり学生の自己負担だ。

陽性と出た場合は、無症状や軽度の場合は最低2週間の自宅待機をさせ、症状が持続して改善しない場合は、大学病院で治療するとしている。出欠の取り扱いはインフルエンザと同じ扱いになる予定だという。

学生たちが反発「検査に意味があるのか?」「陽性となった場合の取り扱いは?」

この突然の通知に対し、医学を学んだきた学生たちは疑問と反発の声を次々に上げた。

「PCR検査では陰性確認はできないのでは?」

「無症状の学生に検査して、一般診療の妨げにならないのか?」

「陽性の場合の扱いはどうなるのか?」

「なぜ自己負担なのか?」

クラス委員が質問をまとめて大学側に提出する学年もあったといい、現在も揉めているという。

BuzzFeed Japan Medicalの取材に答えた学生は、「そもそも今、学生は実家に帰るなどして日本中に散らばっているのに、緊急事態宣言が続く東京にわざわざ集めるリスクを考えているのでしょうか? 」と疑問を投げかける。

医学を学ぶだけあり、新型コロナの検査にも関心を持って調べてきた学生ばかりだ。

「精度の問題でそもそも陰性確認にはならないということがありますし、5月半ばに検査しても、その後、感染する可能性だってあります。陰性だったから大丈夫だとはならないはずです」

さらに、検査なのに本人の同意を取らず、「進級や卒業を人質に不必要な検査を強制することは正当とは考えられない」と言う。

「学生が陽性だった場合、どういった取り扱いをされるかも明らかではありません。特に、コロナウイルス感染に対してはスティグマ(負のレッテル)となるため、検査をするかどうかは慎重に考えるべきです」

さらに、5年生、6年生では病院実習があるが、ただ講義を行うよりも感染リスクが高いため、実習を今再開すべきかという疑問も学生たちから出ているという。

「大学は他の病院よりも厳重な対策をたてていると言いますが、過去に重大な医療事故を起こしているのを学生は知っています。駒込病院や墨東病院のような感染管理で有名な施設でさえも院内感染が起こる中、『うちに限って大丈夫』という根拠はないはずです」

「我々学生はまだ免許も持っていないし、技術も満足ではない。ただでさえ新型コロナで逼迫している医療現場では私たちは足手まといの存在です。患者の利益を考えた時に、もし感染させたらと思うと怖いですし、そんな重大な責任を取りきれません」

感染症専門医たち「意味がない」

陰性確認のために医学生・看護学生に検査をするということについて、感染症の専門家たちはどう考えるのか。

政府の専門家会議委員で川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは、「陰性の結果は感染していないというお墨付きにはなりません。今の時点でウイルス量が少ないということしか言えません。医学部でどういう理論を持って決めたのか伺ってみたいですね」と疑問を投げかける。

別の感染症指定医療機関の感染症専門医も、陰性確認はできないし、5月に検査して陰性だとしても6月の陰性を保証しないと認めた上で、「術前患者、入院患者よりもさらに意味がなさそうな気がします」と否定的だ。

厚生労働省は手術などで入院する患者に対して院内感染を防ぐための検査は保険を適用することを決めている。

自身も大学で医学生を教えている神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎さんは、「儀式としてのPCR」として実質的な意味はないとし、こう批判する。

「今、PCRをやっても、6月の未感染の保証はありません。また、本当に未感染確認を維持したければ、毎週、毎日、PCRをせねばなりません。そもそも、現在の東京だと無症状学生の事前確率(陽性になる確率)は1%未満です。よって、偽陽性のリスク(検査機関のミスを含め)のリスクのほうが増します」

そして、この決定をした大学側にも手厳しい。

「どうして、こんな基本的なことも医学部が理解できないのか。臨床医学、臨床診断学を理解しない執行部や教授陣がいること、彼らが意思決定をしているためでしょう」

その上で「医学的には意味がないけれども、儀式として、お祓い気分で検査する」という考え方もあるかもしれないとしながらも、「それも僕は許容できません」と否定する。なぜか?

「PCRは臨床検査技師さんの技術や努力に依存しているからです。無駄な検査を検査技師、放射線技師に課すのは医療倫理上許容できません」

岩田さんは日頃から学生や研修医に、こう教えているという。

「検査結果は自販機のようにボタンを押せば、商品が出てくるようなものではない。背後の技師さんの苦労、努力に報いるような意味、意義が検査結果が得られないのであれば、それは技師さんハラスメント、ギシハラだ」

「医師は彼らに命令(オーダー)する権利がある。だからこそ、その権利を乱用してギシハラをしてはならない。背後の技師さんにその検査の正当性をちゃんと説明できないのであれば、検査をオーダーする資格はない」

その上で、医学的に無意味な検査を医学を学ぶ学生にするデメリットをこう指摘する。

「無駄で無意味な検査が横行する大学病院で、『とりあえず検査』主義を脱するためにも、若い学生たちに間違った検査体験をもたせてはなりません」

東京女子医大「回答を控えさせていただきます」

BuzzFeed Japan Medicalは東京女子医大にも文書でこのPCRの意義を質す質問状をメールで送った。

同大学は、「この度のご質問については、回答を控えさせていただきます」として回答を拒否している。