メクル第458号 フィンスイミング きょうだいで記録に挑む! 太田諒さん(16)・真彩さん(13)

県内でも数少ないフィンスイミングに取り組む太田諒さん(右)と真彩さん=佐々スイミング・スクール

 足ひれを着けて泳ぐフィンスイミング(以下フィン)。数年前は、テレビ番組でお笑い芸人のオードリー・春日(かすが)が挑戦(ちょうせん)していました。そんなフィンに取り組んでいるきょうだいが、佐々(さざ)スイミング・スクール(北松浦(きたまつうら)郡佐々(さざ)町本田原(ほんたばる)免(めん))にいます。松浦市志佐(しさ)町の太田諒(おおたりょう)さん(16)=県立佐世保北(させぼきた)高2年=と真彩(まあや)さん(13)=松浦市立志佐中2年=。それぞれの目標に向かい、練習しています。

◎いきなりの優勝(ゆうしょう)

 2人は競泳をしていて、諒さんは国体選手にも選ばれています。2016年8月、諒さんが“武器(ぶき)”のキックをさらに強化したいとフィンを始めました。競泳で指導を受けている河田純(かわたあつし)コーチ(46)がフィンのマスターズ日本代表で、国際(こくさい)大会で3種目銀メダルという活躍(かつやく)を見ていたのもありました。
 それから9カ月後の17年5月に、諒さんは日本選手権(せんしゅけん)に出場。17歳(さい)以下ビーフィン100メートル、200メートルの2種目でいきなり優勝(ゆうしょう)しました。日本代表に選ばれ、同年7、8月にロシアで開かれたユース世界選手権へ。100メートル、200メートルなど計5種目に出場し、そのうち過去(かこ)に日本では誰(だれ)も泳いでいなかった400メートルで日本記録を作りました。
 そんな兄を見て「力強くてかっこいいな」と思った真彩さん。同じスイミングスクールに通う先輩(せんぱい)の女子選手も日本記録を出していて、「自分も狙(ねら)えるんじゃないか」と昨年1月に始めました。

◎世界大会で自信

 フィンに取り組む選手は、県内でも多くありません。諒さんは競泳練習の一環(いっかん)でフィンを始めましたが、その圧倒的(あっとうてき)なスピードにのめり込(こ)みました。「競泳では出したことのないタイムで泳げるから、どこまでいけるのかワクワクする」。競泳の世界記録に近いタイムで泳げるので、世界レベルの速さを体感できる面白さもあると言います。
 国際大会では、落ち着いて試合に臨(のぞ)む姿勢(しせい)や体の大きさなど、外国人選手との違(ちが)いを痛感(つうかん)。「どうやったら勝てるようになるのか」と、さらに泳ぎの技術(ぎじゅつ)を考えるようになりました。
 昨年8月、再(ふたた)び日本代表に選出され、エジプトでのユース世界選手権に出場しました。400メートルで3分48秒63をマークし、自身が持つ日本記録を更新(こうしん)。ロシアで出した記録から約7秒も短縮(たんしゅく)し、「世界でベストを出せた」という自信がつきました。

日本代表としてユース世界選手権に出場した諒さん(右)=2019年8月、エジプト(日本水中スポーツ連盟提供)

◎兄に刺激(しげき)を受け

 持久力(じきゅうりょく)がある諒さんは、競泳では400メートルや1500メートル自由形を専門(せんもん)としています。しかし、フィンの400メートルは、競泳よりも足の疲(つか)れが出て一気にスピードが落ちるため「ペース配分が大切。どうすれば後半まで一定した速さを保(たも)つことができるのか」と分析(ぶんせき)、試行錯誤(しこうさくご)を繰(く)り返(かえ)しています。その表情(ひょうじょう)はもう、すっかり競技者の顔をしています。

息継ぎは顔の前に着けたシュノーケルで。これも「水中競技最速」を生み出す特徴の一つです

 一方の真彩さんは、まだレース未経験(みけいけん)。でも、「水をつかむ」感覚をフィンで体感し、それが「楽しい」と感じています。フィンの扱(あつか)いなど、まだ慣(な)れない部分は多いですが「お兄ちゃんの泳ぎを見てまねができる。自分も活躍したい」と意気込んでいます。
 今季は新型(しんがた)コロナウイルス感染拡大(かんせんかくだい)の影響(えいきょう)を受け、5月に諒さんが出場予定だった日本選手権は7月に延期(えんき)。真彩さんの初レースは12月に予定されています。
 ユース年代最後となる諒さんの目標は、他の選手が持つ100メートル、200メートルの日本記録を更新し、400メートルと合わせ自分の名前に塗(ぬ)り替(か)えることです。真彩さんは「初めてで緊張(きんちょう)すると思うけど、自分も全国に出られるのがうれしい。先輩が出した日本記録を塗り替えたい」-。きょうだいそろっての記録樹立となるか。大会に向けて、2人ともワクワクが止まりません。

◆◆◆

◎心にも変化が

 フィンという競技(きょうぎ)はスピードが出る分、水の抵抗(ていこう)が大きくなります。抵抗を受けないよう、競泳以上に水中姿勢(しせい)を水平に保(たも)つことが重要です。その技術(ぎじゅつ)を習得すれば、よりスピードアップにつながるし、競泳にも生かせる利点があります。
 河田コーチは、諒さんと真彩さんについて「精神面(せいしんめん)の変化が大きい」と技術面にとどまらない効果(こうか)も感じています。「諒は落ち着きが出て、冷静に泳げるようになった。真彩も目標ができたことで明確(めいかく)に泳げている」
 その変化は2人の父、信一郎(しんいちろう)さん(43)も感じています。
 フィン日本代表の仲間には、競泳で全国ジュニアオリンピックカップ(JOC)大会に出ている子が多い。でも、諒さんは出たことがありませんでした。代表から帰ってきた後、猛練習(もうれんしゅう)で意地を見せ、JOCの出場権も獲得(かくとく)したそうです。「世界を広げてくれたフィンに感謝」と、信一郎さんは話しています。

© 株式会社長崎新聞社