大人の社交場にコロナの余波 要請解除も「客足」に懸念 外出自粛やオンライン普及響く

開店準備で20日ぶりにカクテルをつくった安谷さん。「店でしか楽しめないプロの味や雰囲気がある」=長崎市本石灰町、ヴィクター

 新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため延長されていた県内遊興施設への休業要請は15日で解除された。ただ「客足がすぐ戻るとは思えない」との声は根強い。大人の社交場は「新しい生活様式」という変化の波にさらされている。
 長崎市最大の歓楽街・思案橋にあるバー「ヴィクター」。20日ぶりに氷でシェイクする音が戻った。「ようやく堂々と開けられる」。店主の安谷正敏さん(61)は15日の知事会見のライブ配信を見て、ネクタイを締め直した。
 カウンター越しにカクテルを提供するのが休業延長要請理由の「接待」とみなされたのは不服だった。とはいえ営業しても、客が来なければ仕入れや光熱水費が無駄になる。実際4月の来客数は9割減っていた。
 「愚痴を言ってるだけじゃ生き残れない」。インターネットで調べ、すぐに国の持続化給付金(個人事業者最大100万円)や県の休業協力金(30万円)を申請。市から事業持続化支援金30万円を受け取った。国民1人10万円の特別定額給付金もオンラインで申請、マイナンバーの暗証番号を忘れ役場に駆け込んだ。無利子融資の審査は通った。
 「やれるだけのことはやる。でも、これほど手続きが煩雑だと、パソコンを扱えない人は置き去りにされるだろう」
 今後は椅子を間引いて間隔を保ち、県外や団体の客は当面、遠慮してもらう。減収は痛いが「まずは常連客に安心していただく」ためだ。安価で手軽なオンライン飲み会が普及する中で「店でしか楽しめないプロの味や雰囲気がある。家庭と職場だけじゃ息抜きできないでしょ」と前を向く。
◆  ◆
 近くでナイトクラブを経営する40代女性は、県の要請前から自主休業して1カ月が過ぎたが、営業再開に踏み切れずにいる。
 コロナ前は、市内に出先がある東京や福岡の大手企業が出張の慰労や接待で利用してくれていた。しかし県境を越える移動は引き続き自粛を求められた。このままオンライン会議や在宅勤務が定着するかと思うと「怖い」。せめて地場企業が会合自粛を緩めてくれたらと思うが…。
 本来なら3~4月は歓送迎会、5~6月は株主総会と書き入れ時。だが業績が悪化した得意先に営業の電話を入れるのは、はばかられる。接待交際費も削られただろう。飛沫(ひまつ)防止用ビニールカーテンを席に取り付けるか迷っている。相談した常連客からは「くつろげない」と言われた。
 「これからは接客の在り方が変わる。もう違うことを考えた方がいい」。そんな客の言葉が胸に突き刺さる。予約は途絶えた。女性スタッフに給料を渡し娘を養うにも手元資金だけでは限界がある。自宅に閉じこもるうちに周囲の水商売が徐々に再開し、焦りがないと言えばうそになる。再開を待つ客からの電話に励まされながら、「先が見えず、逃げ出したくなる自分と必死に戦っている」。

 


© 株式会社長崎新聞社