フランスが「コロナ給付金」を惜しみなく払えた理由

5月11日、フランスで2ヵ月間にわたった外出制限が、ついに解除されました。現時点ではまだ制約は多く、ラッシュアワーの通勤や100Kmを超える移動には引き続き証明書が必要です。

また、レストランや映画館等の再開判断は6月2日の発表を待たねばならず、完全な解除とは言えません。それでも、これまで休業していた必要最低限以外の商業施設が営業を再開し、好きなときに外を歩ける自由が人々の暮らしに戻っています。

厳しかった外出制限をフランス国民が貫徹できた背景には、さまざまな給付金や補償があります。どのような補償があり、どのように支給されたのでしょうか。


外国人にも分け隔てのない補償

第一に、休業を強いられた飲食店や商業施設に支給された1,500ユーロ(約18万円)の連帯給付金があります。3月半ばの外出制限開始と同時にぺニコ労働相が明らかにしたこの給付金は、4月に入ると世論を反映してフリーランスにも適用されることになりました。

条件は、今年3月の収入が前年3月の50%減であること(または前年の年収を月に換算した金額の50%以下であること)。インターネットから申請し、その際に入力した銀行口座に振り込まれる仕組みです。

外出制限緩和後の駅のホーム

この連帯給付金はフランスで正規にビジネスを展開する人々に支給され、筆者を含め日本人も恩恵を受けました。筆者と同じくフランスに住む映像クリエーターの小田光さんは、「マクロン大統領の宣言を聞いてネットで検索をしたところ、すぐに申請のサイトがわかった。フランス語を理解してパソコンを使える人であれば、誰でもスムーズにわかる流れになっていた」と手続きの様子を語ります。

小田さんが手続きをしたのは4月半ばでしたが、その1週間後には口座に振り込みがありました。「外国人でも分け隔てのない補償があることは、この国で生きてゆく者にとってとても支えになる」と感想を述べます。

小田さんは新型コロナウイルスの影響で、今後の仕事は夏まで全くなしという現実を前にしながらも、落ち着いて社会の変化を観察しつつ、これからのビジネスを準備しているとのことでした。

この連帯給付金は当初、1回の支給に限ると理解されていました。しかし、5月11日の外出制限解除以降も再開できない業種、つまり飲食店や文化関連に対しては、6月以降も適用することを、5月4日、ルメール経済・財務相が約束しています。また、被害の規模によっては、最大5,000ユーロ(約60万円)まで調整が可能です。これらの情報は政府のサイトで逐一更新・公開され、SNSでも発信されています。

必要な家庭に自動給付

第二に、個人に対し自動給付される特別給付金があります。支援が必要な家庭に対し、5月15日に1回のみ、150ユーロ(約1万8,000円)が振り込まれるというもので、金額は子供の数に合わせて増加します。

「どうやって支援が必要な家庭を見つけ出し、自動的に給付するのか?」と、不思議に思うかもしれません。対象者は、現時点で月々の所得手当を受けている人、または失業手当の受給者。

つまり、毎月の経済状況をネット等で該当機関に申告している人たちですから、行政サイドにも彼らの現状は明らかなのです。給付は、月々支給されている手当に上乗せする形で振り込まれます。このようにして、必要な家庭に、自動的に、素早く補償が届けられています。

自治体による食費補助金も、やはり同じ方法で自動給付されました。たとえばパリ市は、学校給食を食べることができなくなった子供への支援として、子供1人当たりの金額を割り出して4月中旬に振り込みを行っています。こちらも所得手当や家族手当の受給者が対象でした。

給付や補償を惜しまないのは「伝統」

これらの給付金はどれも急を要する性質であることが強調され、迅速に支給されています。通常、フランスの行政システムは提出書類が多く複雑で、時代遅れなまでに時間がかかると悪評高いのですが、新型コロナウイルス対策の給付金に関しては迅速でした。

5月10日発売の新聞JDD紙に掲載された世論調査によると、「外出制限で最も経済的被害を受けた分野への政府の援助」に対し、60%のフランス国民が「信頼している」と答えています。

このほか、商業施設やレストランなど、休業を強いられた企業の社員には給与の8割にあたる一時失業手当が適用され、この新型コロナウイルス衛生危機の最中に失業手当や障害者手当の給付終了が重なってしまった人には3ヵ月の延長が保証されるなどの対応もありました。

外出制限は緩和されたが飲食店の再開はまだ先

ルメール経済・財務相が企業に協力を求め、実現したこともあります。大手スーパーはレジ職員に対して1人当たり1,000ユーロ(12万円)のボーナス、大手不動産会社は大型ショッピングモール内の店舗の家賃取り消し、銀行は飲食店への災害保険適用、など。民間企業であっても、連帯の意思表示をしています。

金銭以外の援助もあり、たとえば滞在許可証の期限切れが迫っている外国人には6ヵ月の期間延長が。自治体によるマスクの無料配布も行われています。現在、毎週70万件が可能になった新型コロナウイルスPCR検査は、健康保険が当てられ無料です。

これら給付金がヨーロッパ諸国の中でも手厚いことを、フランス国民はよく理解しているようです。フランス政府が給付金や補償を惜しまないのはなぜでしょう。

私のこの問いに、あるフランス人経済ジャーナリストは「フランスの伝統だ」と答えました。国民は国家に税金を納め、国家は国民を守るというシンプルな基本が、確かに存在しています。一人の日本人の目には、80%と言われるフランスの投票率も、無関係ではないように見えるのです。

Keiko Sumio-Leblanc / 加藤亨延

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