「1、2年生は、3年生の涙の意味を考えないといけない」
史上初の長崎県高総体中止が決まった14日。長崎商女子ソフトボール部員30人は、溝口弘一郎監督の話を聞きながら、泣いた。代表権を得ていた春の全国選抜大会、18年ぶりの出場を視界に捉えていたインターハイの中止の際は、懸命に我慢した。でも、このチームで戦える最後の大会を失い、感情が一気にあふれ出た。
佐々木桃花主将もしばらく顔を上げられなかった。「絶対あると信じて、休校中もお父さんと一緒にキャッチボールをした。お母さんは朝早くお弁当をつくってくれた。夜の迎えも…。恩返しがしたかったのに」。家族との絆も再確認できる当たり前だった舞台を、多くの高校生が失った。
「今年は10得点を狙っていた」。長崎工水球部で1年からスタメンの岡湧士主将は、昨年まで2年連続で7得点を記録。その個人的な目標よりも、県高総体やインターハイは、仲間と喜びを分かち合える「一番の思い出の場」になるはずだった。3年生13人のうち、秋の国体に向けてチームに残留するのは、自らを含めて半数程度。例年より早い分岐点になった。
開催可否の決定まで、離島勢は本土以上に苦しんだ。指導者らは選手たちの思いに応えようと必死だった。長時間の船での移動、各会場へ向かう手段、大会後に高齢化率が高い島へ戻るリスク…。五島海陽女子ソフトテニス部の安居院公隆監督は「当たり前だったことへのありがたみに気づく時間だったと、前向きに捉えるしかない」と生徒たちを思いやった。
総合開会式で同校の旗手を務める予定だった男子バスケットボール部の平道弘哉主将は「島と違って観客も多く、一番しびれる大会」と位置づけていた。多くのハンディがある島事情の中で「ずっと仲間に恵まれた。何度も助けられながらやってきた」とみんなで完全燃焼するつもりだった。
その舞台を失った悔しさをのみ込み、島で就職予定の17歳は言った。「今後はお世話になった地域に貢献したい」。ほかにも「この経験を生かして…」と気丈に前を向く者もいた。一人一人が懸命に気持ちの整理をつけようとしている。
過去に全国制覇の経験がある佐世保西男子ソフトボール部の津本大貴監督が感慨深げにつぶやいた。「3年生がまだ後輩に託しきれていないし、お世話になったグラウンドもきれいにしたいと引退の先延ばしを言ってきた。成長を感じた」
最終学年になってわずか1カ月半。多くの3年生は区切りをつけられないまま、それぞれの“引退”を強いられた。
失った完全燃焼の場 区切りないまま“引退” <中止の波紋>第72回長崎県高総体・中
- Published
- 2020/05/18 12:00 (JST)
- Updated
- 2020/05/19 14:08 (JST)
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