韓国のオンライン授業、その実態は 小学校から高校までの全学校で導入【世界から】

オンライン授業の一場面。小学校3年向けのもので、理科の実験について説明している=原美和子撮影

 新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かいつつあるとして韓国は6日、日常生活を送りながら感染対策を取る「生活防疫」への移行を始めた。これにより、外出自粛や社会的距離の励行といった厳格な感染防止策は緩和されることになった。ところが、直後にソウル市で集団感染が発生。クラブなど遊興施設の営業中止命令が出るなど再規制の動きが出ている。

 このことは学生にも影響を及ぼしている。13日に予定されていた学校の再開が再度延期されることになったのだ。韓国では4月9日以降、小学校から高校までの全学校でオンライン授業が順次開始された。塾などでは導入されつつあったが、学校現場では初めての試み。それゆえ、「IT先進国」とされる韓国でも当初はトラブルが起きた。学生の子どもを持つ筆者がオンライン授業に感じたことを伝えたい。(釜山在住ジャーナリスト、共同通信特約=原美和子)

 ▽テストを複数回行うも

 韓国政府は2月23日、全国の幼稚園と小中高校などの新学期開始を3月2日から延期すると決定した。その後も感染拡大が収まらなかったため、計4度にわたって延期することになった。子どもやその親たちに不安が広がりつつあった3月末。小中高の新学期の授業をオンラインで始めるとの発表があった。夏休みや冬休みの短縮だけでは追いつかなくなったためだ。

 4月9日の中3と高3を皮切りに、16日には中学高校の1、2年と小学4年から6年が続いた。20日には残る小学1年から3年がそれぞれオンライン授業に入った。

 一口にオンライン授業といっても、やり方は違う。高校はテレビ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使い、教師がリアルタイムで授業を進行する方式を採用した。小中学校は「教育部」が設けた専用の学習サイトを利用することになった。ちなみに、教育部とは日本の文部科学省にあたる。

 学習サイトを利用する小中学生は通っている学校とクラスなどを登録しなければならない。登録した生徒が接続すると各クラスの担任のモニターに表示される仕組みで、生徒が本当に授業に参加しているかを確認することができる。

 導入に先立ってオンライン授業を試験的に実施。インターネットの接続などに問題がないかなどの確認が複数回行われた。ところが、一斉にアクセスが集中したために「サイトにログインできない」や「動画が視聴できない」といったトラブルが続出した。

 教育部は学習サイトのメンテナンスなどを徹底して万全の体制でオンライン授業を本格開始することを学生と保護者に約束することになった。

4月9日、ソウルの女子高でオンライン授業を行う教員(共同)

 ▽欠かせない親のフォロー

 わが家にも小学3年生と高校1年生の子どもがいる。オンライン授業を受けている彼らと一緒にいて感じたことがある。高校生は自分でできることが多いので、親はほとんど関わらなくてすむ。一方、小学生は「各科目の動画を視聴する」「教科書の問題を解く」「授業の感想や自分の意見をクラスの掲示板に投稿する」―といった課題を一人でこなすことはなかなか大変。そのため、常に目を配る必要がある。

 自分以外の子どもはどうなのだろう。疑問に感じ、友人らに聞いてみた。すると、中学生は高校生とほぼ変わらないが、小学生は低学年ほど手が掛かることが分かった。

 小学生の子どもを持つ親たちはおしなべて、子どもと一緒に授業を受けたり、問題を解く手伝いをしている。筆者もそうだ。このため、「オンライン授業というが、実際は『親の授業』になっている」とする声も多く聞かれる。

 導入から約1カ月となり、オンライン授業の問題や課題がさまざまに指摘されている。①授業の質をどう確保するのか②生徒の学習状況や理解度が明確に把握できない―などだ。もちろん、評価できる部分もある。学校に行けないことによって生じる「学習の空白」を一定程度埋める役割を果たしていることや、大きな混乱が起きていないことには満足している。

 それでも、家庭での学習には限界があることを痛感している。それは「親による授業」になってしまいがちになるからだ。

自分のパソコンでオンライン授業を受ける子ども。横には親のパソコンが見える=原美和子撮影

 ▽事情を抱える家庭にも

 仕事で家にいられないなど、親が十分にフォローできない場合や経済的な事情でインターネット環境や機器が整っていない家庭に対する支援も行われている。希望すれば訪問教育指導者の派遣を受けられる。これは週に1回か2回、生徒の自宅を訪れて学習のサポートを行うものである。

 インターネット環境や機器についても自治体が貸し出しするほか、学校のコンピューター室を利用できるようにするなどの支援がある。

 ▽学校再開には不安がいっぱい

 ソウル市の集団感染を受け、学校再開も見送られるのではないかとの見方が強まった。しかし、教育部は20日の高校3年生を手始めに段階的に授業を始めることを明らかにした。高校3年生なのは受験を控えているから。

 入試当日のドタバタがニュースになるように、韓国の教育熱はとても高い。それだけに本来から2カ月以上が過ぎている新学期の一日も早い開始が望まれると思いきや、実際には不安視する声が多いことが判明している。

 5月4日の朝鮮日報によると、96%の保護者が学校の再開に当たり「不安がある」と回答をしたという。理由としては「学校で集団感染が起こること」や「衛生管理が徹底できるのか」といったものが多くを占めている。教育部も感染拡大が確認された場合は再び休校の措置を取ることや登校することが心配な人が自宅でオンライン授業を受けた場合も出席とみなすといった柔軟な対応を検討している。

 新型コロナウイルスによる長期の自粛と休校生活を通じて筆者が感じたのは「経済・教育活動が停止することの弊害は長期化するほど、大きくなる。それだけに、教育の再開を判断することは難しい」ということだ。

 長い自粛生活で我慢を強いられてきた子供たちにはストレスを抱えている子も少なくないとされる。それだけに、全ての子供がスムーズに学校生活を再開できるよう、あらゆる手を尽くすことが求められている。

子どもたちがこのように通学する風景が戻るのはいつになるだろうか?=原美和子撮影

© 一般社団法人共同通信社