子どもたちのために全力でなにができるか考えよう オンライン授業を実現するために必要なノウハウ

緊急事態宣言も一部を除いて解除され、休校解除後の分散登校に向け、教育現場では急ピッチで準備が進められています。しかし、次の流行の波がいつくるかわからない状況で、それに備えてオンライン授業の準備をする必要があるでしょう。ここではその方法を紹介します。

これまでの【竹内薫のトライリンガル教育】はこちら

「新しい生活様式」が重要に

新型コロナウイルスの「第二波」の感染拡大は、全国的に抑えられてきており、いったん収束に向かっているようです。休校解除後の分散登校に向け、教育現場では急ピッチで準備が進められています。

とはいえ、感染症の数学シミュレーションには、はっきりとした特徴があります。それは、自粛がゆるむと、第三波、第四波がやってくること。新型コロナウイルスは、人から人、人からモノ、そして人へと感染しますので、大勢の人が外に出てモノを触り、人と人との接触が増えれば、ふたたび感染が拡大するのです。

そこで、政府や専門家会議が強調しているような、「新しい生活様式」が重要になります。ソーシャルディスタンスを取り、(他人に感染させないために)マスクを着用し、換気を徹底し、長時間の外出から帰宅したら手と顔を洗い、できればシャワーかお風呂に入る……私の場合は、自宅にある自転車整備用の青いニトリルグローブ(使い捨て)も着けることが多くなっています。

人は無意識のうちにいろいろなモノをさわり、これまた無意識のうちに顔をさわる生き物です。握手をした後に無意識に手の匂いを嗅いでしまうという研究すらあります(フェロモンを確認している、という仮説があります)。

新しい生活様式といえば、学校での授業も変わらないといけません。大多数の小中学校では、オンライン授業ができず、先生がプリントの山を生徒に与えて凌いできたようです。また、オンライン授業を開始した学校でも、これまでのようにホワイトボード・黒板をそのまま映像配信したり、一クラス30人を相手に授業せざるを得ないところが多かったようです。

つまり、オンライン授業は、この国では、ほとんど機能していないのが実情なのです。また、一部の自治体の長が提案している「9月入学」にしても、子どもの学力を担保するという観点からは、現実的に検討すべき課題となりつつあります。

前置きが長くなりましたが、今回は、新しい生活様式が教育現場に与える影響と対策について、YES International Schoolの取り組みをご紹介したいと思います。

各家庭による環境の違いをどう吸収するか

前回も書きましたが、YESでは4月の第2週から双方向・少人数によるZoom授業へと全面移行しました。それに先だって、3月の後半は、通常のスプリングスクールの代わりに英語ネイティブ講師による動画配信をしました。一般の学校のオンライン化にも参考になると思いますので、その経緯をご紹介したいと思います。

3月に入って感染爆発の危険が増す中、YESでは、Zoomによる双方向授業の検討を始めました。それまでに数回、東北や九州のご家庭とつないで、短期間の実証実験をしていましたが、30名の全校生徒へのZoom授業配信は、大きなチャレンジとなりました。

現在、横浜にある2つの教室は、教員が「密」にならないようにするため、Zoom配信のスタジオを設置するにしても、最大でカメラ4つが限界です。また、公共交通機関を使って通勤する教職員の感染リスクを徹底的に低減するため、原則として、徒歩、自転車、バイク、クルマで通勤できる教職員のみが仮設スタジオに来てもよいとしたため、ほとんどの先生は自宅から授業を配信することとなりました。

さまざまな問題が浮上しました。教員の中には、脆弱なWi-Fi環境しかない人もいましたし、古いパソコンでマイクが壊れているという人もいました。ふだん学校で教材準備などのために使っているパソコンは重く、カメラがついておらず、貸し出すのにも限界がありました。そこで、一人ひとりの先生のインターネット、パソコン環境の聞き取りをし、問題がある場合には、Webカメラやマイクを購入したりして、急ピッチで問題を潰していきました。

しかし、さらなる障害が立ちはだかります。それは、各ご家庭のインターネット、パソコン環境の問題です。そもそもパソコンがなかったり、Wi-Fi回線が細いご家庭もありましたし、プリンターがないご家庭もありました。たまたま、感染爆発の直前にご実家に移動していて、保護者のスマホのテザリングしか使えないご家庭すらありました。

そこで、ふだん学校で使っているアンドロイド・タブレットとiPadを全生徒に送付し、個別のWi-Fi環境については随時、相談を受けることにしたのです。

オンライン授業は準備が大切

Zoomによる双方授業は、このように、さまざまな課題を乗り越える必要があります。今日決めて、明日から実施というわけにはいかないのです。

そこで、2週間ほど、すでに書いたように英語講師による一方向の動画配信を行って、時間稼ぎをすることにしました。具体的には、学校の仮設スタジオで、三脚につけたデジタルカメラで25分の英語レッスンを収録しました。生徒の英語レベルに合わせて、2名のネイティブ講師が午前と午後の四回、ひたすら授業を録画しました。それを学校のオフィシャルYouTubeで配信し続けたのです。

これも、実は簡単ではありませんでした。単に動画を撮影して、そのまま流してしまうと、おかしな間があいたり、咳き込んだ場面があったりして、見づらいのです。そこで、昼間は撮影、夜は編集と、文字通り、昼夜兼行での作業となりました。IT担当の先生は、夜中に編集作業をし、明け方に配信が終わると床につく、といった状況で、学校としても臨時ボーナスで労わないといけません。

*このビデオは緊急事態宣言以前に撮影されたものです。アルコール消毒や検温は徹底していましたが、6月から予想される分散登校では、教員も生徒もマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを充分取っての授業再開となる予定です。

というわけで、一般の公立学校でも、これからオンライン授業を始めようとすれば、おそらく、第一段階としての一方向の動画配信(それでも、まずは配信チャンネルを作る必要がありますし、編集作業がやたら大変です)、そして、第二段階としてZoomもしくは他のサービスによる双方向授業という流れになるはずです。

忘れてはならないのが、プリント教材などを物理的に各ご家庭に郵送する作業です。これは、YESの場合、徒歩で学校に来れる数名の教職員だけで行いましたが、編集作業に劣らず、大変な労力がかかりました。まちがって旧住所に送ってしまって、返送し直したり……まさに、てんてこ舞いです。

Zoom本社との交渉

3週間の準備期間中に、IT担当の先生には、さらなる大仕事が待ち構えていました。Zoom本社とのメールのやりとりで、生徒数30名という(世界には普通にありますが)日本では珍しい形態の学校に特化したサービスと価格の交渉です。

日本人は、Basic、Education、Proといった、ホームページに書いてあるサービスしかないと考えている人も多いようですが、こればかりは欧米の文化だなと感じました。

アメリカのカリフォルニア州出身で元海兵隊のIT担当官だったM先生は、毎日のようにZoomの担当者とメールを交わし、その担当者の返事が遅いとみるや、本社の販売担当窓口にCCでメールを送り、見事に我が校に特化した契約を結ぶことに成功しました。

これは、そうですね、関西でお客さんがお店と価格交渉をする文化に似ています。インターネット全盛の時代において、このような人間的な交渉術が活躍するのも、大変、興味深いことだと思います。その詳細についてはここには書きませんが、契約期間や、授業をホストできる先生の数など、Zoom側が細かく対応してくれたことにも驚きました。

Zoomのセキュリティ問題

また、M先生には、さらに大事な仕事がありました。一部で指摘されて大騒ぎになったZoomの脆弱性を乗り越え、安全な授業ができるようにするためのシステム構築の仕事です。

前回も書きましたが、パスワードの設定は不可欠です。さらには、授業が始まる前にURLが流出しないように、授業開始と同時にURLが生成される方法を選び、学校内チャンネルをたくさん作って、それを各先生の授業としたのです。

この方法では、先生も生徒も、自分の授業のチャンネルにしかアクセスができず、さらに、事前にはURLがわかりませんので、情報の流出により、悪意のある他人が授業に乱入するリスクが大幅に低ります。

しかしこの方法は、セキュリティは最大限に安全ですが、デメリットもあります。それは、事前にメールなどでURLを配布しないため、授業開始の「招待」を受け損なうと、生徒が自分からは授業に参加できないのです! あるいは、回線が不安定で接続が切れてしまった場合も、授業をしている先生が気がつかなければ、生徒がいなくなってもそのままになってしまいます。

実は私たちも、この落とし穴に気づいたのは、実際のZoom授業を開始した後でした。しかし、すぐに解決策が見つかりました。先生が授業開始後に、生成されたURL(パスワードは埋め込まれています)を、生徒との通信用の授業チャット欄に張り付けるだけでいいのです。生徒は、接続が切れても、自分の授業のチャット欄にはいつでもアクセスできるので、そこをクリックすれば、すぐに授業に復帰できます。

Zoomで編入考査

というわけで、YES International Schoolでは、4月第2週から、ほぼ毎日、かなりリアルな授業に近い形で、双方向のZoom授業を続けています。これはたしかに、生徒一人あたりの先生の数が突出して高い、我が校が恵まれているからこそできたことではあります。Zoomの双方向授業では、一度に教えられる生徒の数は、おそらく10人くらいで、上限が15人くらいだと感じています。

驚くべきことに最近、Zoomで編入考査をしました。平素は、学期の途中からの編入は、二日の授業体験なのですが、いまはリアルな通学がムリなので、Zoom上で「はい、今日は新しいお友達が入りますよ」と先生が宣言して、Zoom考査となりました(その後、この子は入学が決まりました)。

ここまで、YES横浜校のZoom授業について書いてきましたが、ホームスクール・ハイブリッドスクール(=学校に通いながら、一年の一定期間だけ学校外で学習する教育形態)の機能に特化したYES東京校でも、5月からZoom授業を開始しました。

YES東京校では、全国各地のお友達とつないで、英語マンツーマン授業、Pythonプログラミング、やり直し算数、文章講座をZoomで展開しています。東京校は、もともとアンブレラスクール(=学習基地)を目指していましたが、ここに来て、休校の間の学習機会を双方向で提供するという、広い意味での学習基地となりました。

zoom授業(5歳~大人まで)

大切な子どもたちのために全力で踏ん張るとき

この記事をお読みになって、もしかしたら「こんなのは、特殊な教員が集まっている、少人数の学校だからこそできる試みであって、ふつうの学校じゃ無理!」という感想を抱いた読者もいるかもしれません。

ですが、すべての学校が、それぞれ個別の事情を抱え、環境も異なるのです。そこが出発点です。そして、長引くコロナ禍を乗り切るためには、すべての学校がなんらかの形でオンライン授業をする必要があるのです。それが現実なのであれば、できない理由をあげるのではなく、工夫を凝らして、生徒のためにがんばるべきときではないでしょうか。誰もが大変なのです。

YES International Schoolの次の課題は、6月から東京と神奈川で分散登校が始まった場合、「密」にならない環境を確保するために、リアルな通学とZoom授業を並行して行うこと。しかも、形式的に通学するのではなく、長引く自粛でどん底まで落ちてしまった生徒の体力と気力を回復させるために、たとえば屋外体育を大幅に増やしつつ、これまでと同じように学力もきっちり担保していく必要があります。

リアルに出勤できる先生とZoomを続ける先生がいて、生徒もレベル制のため、先生と生徒一人ひとりの複雑な時間割を策定し、雨天の対策を考え……大変ですが、エッセンシャルワーカーという言葉があるように、教育もエッセンシャルであることを忘れず、邁進するしかありません。

いかがでしょう。どんな学校であっても、その環境に応じた工夫は絶対にできます。文科省や教育委員会がやってくれるのを待っていたら、あっという間に9月が来てしまいます。そうではなく、教育現場とご家庭が協力し、工夫しながら、大切な子どもたちのために全力で踏ん張るときではないでしょうか。

この記事が気に入ったら「フォロー」&「いいね!」をクリック!バレッドプレス(VALED PRESS)の最新情報をお届けします!

毎週最新情報が届くメールマガジンの登録はこちらから!

メールマガジン - バレッドプレス(VALED PRESS)

これまでの【竹内薫のトライリンガル教育】はこちら

トライリンガル教育 - バレッドプレス(VALED PRESS)

© Valed.press