代打はレギュラーへの登竜門?それとも職人技? 一振りで結果を残す打者たち

阪神・中谷将大(左)とDeNA・佐野恵太【写真:荒川祐史】

過去3年間で代打打率.419と好成績を残す阪神の中谷

日本のプロ野球では「代打の切り札」という言い方をよくする。チャンスで殊勲打を打つ代打専門の打者のことだ。かつては「代打一本」で世渡りをする選手がいたが、今は「代打の切り札」と言える選手はなかなか見当たらない。

プロ野球に入った野手は、ほぼ例外なく「レギュラー」を目指している。最初から「代打」を目標にする選手はいない。たまたま「代打」で起用されてタイムリーヒットを打つことがあっても、選手は「代打でこれからも活躍しよう」とは考えない。「これをきっかけに、レギュラーの座をつかみ取ろう」と考える。

つまり現代のプロ野球では「代打の切り札」の多くは「レギュラー途上にいる選手」だと言ってよいだろう。

ここ3年、抜群の代打成績を残しているのは、阪神の中谷将大だ。2017年は20打数8安打、2018年は10打数5安打、2019年は13打数5安打。3年間通算で43打数18安打。打率.419と高打率だ。中谷は2017年、2018年各1本、2019年は2本とここ3年で代打本塁打を4本打っている。

中谷は2017年の開幕時には代打起用が多かったが、たびたび殊勲打を打って、シーズン中盤からは外野の定位置を掴んで規定打席に到達。20本塁打61打点を打った。しかし、以後は再び控え野手となっている。代打での勝負強い活躍を虎党もレギュラーとして見たいと願っているはずだ。

DeNA佐野は通算10本塁打のうち半分の5本を代打本塁打で放っている

DeNAの佐野恵太は、代打では86打数23安打の打率.267だが、ここ2年で中谷を上回る5本の代打本塁打を打っている。2016年ドラフト9位で入団した佐野は、通算10本塁打のうち半分が代打での一発だ。2019年3月31日の中日戦では代打サヨナラ安打、4月4日のヤクルト戦では、代打満塁本塁打を打っている。得点機会で極めて強い打者だ。

しかし、佐野も代打での活躍が期待されているわけではない。今季、MLBに移籍した筒香嘉智の後任のキャプテンに任命され、ラミレス監督は4番として起用することを明言している。当然、筒香のようにチームを背負って立つ選手になることを期待されている。

代打本塁打数だけで言えば、昨年まで広島のバティスタが過去3年で7本塁打を打っている。バティスタは2016年にドミニカ共和国のカープアカデミーから広島に入団。2017年6月3日のロッテ戦に代打で1軍デビューしたが、この打席で本塁打。これを皮切りに2017年は4本の代打本塁打。2018年も3本打っている。

バティスタの場合、3年間の代打成績は73打数13安打、打率.178と確実性には欠けたが「一発の怖さ」が脅威になった。そうしたアピールもあって昨年はレギュラーの座をつかんだ。残念なことにドーピング検査に引っ掛かって契約解除となったが「代打での活躍」を足掛かりにレギュラーになったと言えるのではないか。

パ・リーグでは昨季までソフトバンク、今季からロッテの福田秀平がここ2年で5本の代打本塁打を打っている。打率も3年通算で49打数16安打の打率.327。2019年6月21日の巨人戦では元同僚の森福允彦から代打満塁本塁打を打っている。

福田は打撃も良く、外野守備も優秀だったが、ソフトバンクでは長く「スーパーサブ」だった。しかし昨年オフのFAで、ロッテに移籍。年俸も跳ね上がったが、福田自身もレギュラーの座を求めて移籍した。彼も「代打の切り札」に甘んじる気はないはずだ。

代打通算最多安打は1962年から74年まで広島でプレーした宮川孝雄の176安打

昭和の時代には「代打の切り札」と言われる職人肌の選手は確かにいた。当時は選手の登録枠が60人と少なく、1軍、2軍の選手の入れ替えも少なかったので、控え選手も持ち場が固定されることが多かった。その代表格が、昨年死去した高井保弘だ。阪急一筋16年の高井は、代打として457打数114安打27本塁打108打点、打率.249。代打本塁打25本はNPB史上最多。これはMLB最多のマット・ステアーズの23本塁打をも上回っている。

また代打通算最多安打は、1962年から74年まで広島でプレーした宮川孝雄の176安打。599打数176安打6本塁打114打点、打率.294を記録している。しかし近年は「代打一筋」で長くプレーする選手はほとんどいないので、高井や宮川の記録を更新する選手は出そうにない。ただ、今も昔も共通する「代打の適任者」がいる。それは「レギュラーを外れた名選手」だ。長くチームの中心打者として活躍し、引退が近くなってレギュラーを外れ、代打に回った選手の中には、好成績を残す選手がいるのだ。

その代表格が若松勉。通算打率.319はNPB史上3位。ヤクルト史上最多安打の大選手だが、晩年の3年間は代打に回った。1987年は36打数16安打1本塁打12打点、打率.444、1988年も64打数22安打1本塁打18打点、打率.344、最終の1989年こそ44打数8安打0本塁打4打点、打率.229に終わったが、通算でも258打数90安打12本塁打72打点、打率.349という凄さだった。また、阪神の八木裕は97年から代打で活躍し、ファンから「代打の神様」と呼ばれた。

最近でも2017年に広島の新井貴浩は31打数10安打1本塁打10打点、打率.323を記録。昨年も、この年限りで引退した日本ハムの田中賢介が打率こそ53打数14安打の.264だが5月29日のロッテ戦では代打逆転2ランを打つなど8打点を挙げた。

長年、主力打者として活躍してきたベテラン選手は、多くの投手の癖や特徴をよく把握している。その上に場数を踏んでいるので、好機にも物怖じせずゆとりをもって打席に立つことができる。ベテランが代打で結果を出すことが多いのは、こうした事情ではないかと思われる。新型コロナ禍で今季は試合数が少なくなるが、今年も、代打が劇的なドラマを見せてくれるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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