長崎・客船感染1カ月 新組織で課題検証へ 感染症対策を強化

新型コロナウイルスの集団感染が発生したコスタ・アトランチカ。今月末までの出港を目指し準備を進めている=19日午後0時38分、長崎市の三菱重工業長崎造船所香焼工場

 長崎港内の三菱重工業長崎造船所香焼工場に停泊中のクルーズ船コスタ・アトランチカ(イタリア船籍、8万6千トン)で、新型コロナウイルスの感染者が確認されて20日で1カ月。乗組員149人の集団感染となったが、入院中の5人を除き全員が経過観察期間を終え、同船は5月末の出港を目指している。県は今後もクルーズ船事業を安定的に発展させるため健康面のリスク管理が重要とし、官民でつくる新たな組織で課題検証と対策に取り組む方針だ。
 4月24日夜、長崎港の奥にある県庁舎。港湾関係の職員は戸惑っていた。約1.5キロ先の松が枝岸壁では、前日に燃料補給のため入港したクルーズ船コスタ・ベネチア(13万5225トン、乗組員781人)が、出港予定の午後6時半をすぎても停泊したままだった。同船の運航はアトランチカと同じ「コスタクルーズ」。県から船側に理由を尋ねても要領を得ない。
 「まさか感染者が出たのではないか」
 職員の間に緊張が走った。午後9時13分、県は条例に基づき「移動命令」を発令。約1時間40分後、ようやく巨大な船体は離岸を始め、黒い海面を港口に向け進んでいった。
 アトランチカではこの日の午前中までに乗組員623人(当時)のうち91人の感染が判明。船内で個室隔離されたが、うち1人は重症化の恐れがあるとして長崎市内の指定医療機関に搬送された。まだ288人の検査が残り、感染者が膨らむのは必至の情勢。さらに別の船で感染者が複数確認されれば、県内の医療体制を大きく揺るがしかねない事態だった。
 国土交通省によると、国内外の船会社が運航するクルーズ船の長崎寄港は、2013年は39回だったが、17年には267回にまで増加。19年は183回だったが、全国4位をキープ。国の20年度予算にも松が枝岸壁に大型船2隻が接岸できる2バースの新規事業化が盛り込まれ、県は訪日外国人の増加による経済効果や、三菱重工業長崎造船所の客船メンテナンス事業との相乗効果が期待できるとし、推進してきた。
 県によると、クルーズ船が海外から国内最初の寄港地として長崎に入港する場合は、検疫機関から事前に船内の感染者の情報がもたらされるという。
 だが厚生労働省の専門家が今回の感染源の可能性として指摘したように▽接岸した船からまちに出た乗組員が市中感染した▽検疫を経て空港などから入国した交代要員の乗組員が症状はなく検査が陰性でも実は感染していた-ケースも考えられる。県の中田勝己福祉保健部長は「早期に異変を察知して関係機関が連携して対応する仕組みが必要。そうすることで地域への影響を最小限に食い止められる」と話す。
 中村法道知事も今月12日の会見で「健康面のリスク管理は一義的にはクルーズ会社だが、県としては船内の健康管理情報など実情を把握し受け入れ体制を整える必要がある」と述べた。
 県によると、国内で感染が拡大する前の今年1月下旬、本来はテロ防止などが目的の「長崎三重式見港港湾保安委員会」で、コロナ対策の情報共有を図ったという。同委員会は港湾関係の官民20団体で構成するが、保健所は入っていない。県は今後、同委員会のメンバーを中心に新たな組織を発足させ、クルーズ船の感染症対策を強化する方針だ。


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